第十一章 提案と妥協2
手を挙げた三浦に自然と注目が集まる。
全員が自分に耳を傾けていることを確認した三浦が意見を述べる。
「この場合は曜日と時間を決めておくのが最良(ベスト)じゃないかしら?」
「……」
一番簡単で手っ取り早く、かつ簡単に対応できる策ではある。
かなり、生徒の意見に歩み寄った案とも言える。
「小泉は?」
「そ、そうだね、僕も三浦さんの案が良いと思うけど」
賛同の意向を示す小泉は、頷きそう返した。
同様の問いを含んだ視線を火野君へ向けるが、彼も頷くだけだ。
火野君は入学して間もないし、三人をよく知らない部分も多く、意見よりもまず彼らの情報が少ないだろう。
……相変わらず友達もいないみたいだし。
一度、瞼を閉じ考える。
今回の議題を話し合うに当たっては、二つの方向性になる。
一つは三浦のような、生徒からの意見に寄った形の案を出す。
もう一つは、雫たち三人の意見に寄った答えを出す。
最良(ベスト)を考えるとしたら、生徒達の言う「告白の場」の設定など設けないことが、俺が思いつく今回の最良の手だ。
おそらくこれは、雫たち側の意見になるだろう。
三人はたぶん告白など望んでいない。
長年の付き合いから、仕草や言動、性格を考慮して出した俺の意見に過ぎないが。
これは一般生徒達にとってはただイベントの一つだ過ぎない。
彼らは、それを思い出、青春と呼んでいる。
その気持ちに、”本気”は限りなく少なく、どこか悟ったように振舞う姿は宝くじと買う時にどこか似ている。
本当に当たるとは信じておらず、ただ頭の隅では当たった後のことを考える。
決して、彼らと付き合えると本気で思っているわけではない。
だから、フラれても大してダメージを受けずに済む。
やはりダメだったと、皆が思っているから。
断る側の気持ちは考えず、自分の気持ちにのみ目を向ける。
彼らの言う青春、思い出とはそういう類のものだ。
だが、似た要望が大多数あるのは確かだ。
桜ノ丘学園のトップカースト三人にしては、チャンスは限りなく少ない。
要因の一つ、それは彼らが人気過ぎるということ。
呼び出すにしても、常日頃、彼らに群がる生徒の目を盗み呼び出すことは至難の業。
面前を気にしないのであれば別だが……
思春期の男子高校生、女子高校生には難しかろう。
何かと話題のネタとして自ら提供することになるのだから。
「じゃあ、彼女達に話を聞いて曜日と時間を決めていくという流れでいいのかしら?」
「そうだね、僕が話に行こうか?それとも真良君が言ったほうがいいのかな?」
二人は三浦の意見を軸に、話を進める。
無言を貫く会長は、ただその様子を傍観しているだけだ。
「会長?」
「あ、あぁ済まない少し考え事をしていてな」
その表情に、少しばかりの思慮顔が見て取れたので、声を掛けると会長はハッと頭を上げた。
何を考えていたのか、俺だけでなく他の生徒会役員たちに気にしているように会長に視線を集める。
しかし、会長は頭を横に振った。
「確かに気になることがあるのだが、今はまだ不明瞭な情報だ、確信を持ってから君たちに話しをしたい、だから今回……」
それまでは、俺達に一任するつもりなのだろう。
何か、試すというと語弊があるかもしれないが、確認でもしているかのような瞳で俺達の会話を聞いている。
会長ぐらいになると、自分抜きで俺たちがどのように話を進めていくのか見定めているのかもしれない。
なら、俺が二人と対立する意見を出してもいいはずだ。
「……三浦の意見は無しだ、他の案でいこう」
最初に言ったはずだ、三人は人気者といえど一般生徒だと、彼らを強制的に縛ることはできない。
他の生徒同様の自由と、自身の考えを尊重すべきだ。
三浦と小泉の案では、生徒からの意見に寄り過ぎている。
今回はイーブンの案を提出するのが、本来の役目だ。
だから、完全に生徒寄りになった今の意見は容認できない。
「それじゃあ生徒の意見を中心にし過ぎだ、雫とかのことを考えるなら良い手じゃない」
「なら、真良ならどう考える?」
沈黙を続けていた会長が言った。
なんと答えたものか……
否定はしているものの、俺の意見が絶対的に正しいとも思っていない。
生徒たちも多少なりでも納得ができ、雫ら三人を縛ることなく、告白という重大イベントを行うことができるようにする。
三つを横一線で考え、答えを出さねばならない。
会長を含めた四人の視線が集まる中、一人考える。
奇抜な案や、最善策を考えるのではなく普通でいい。
どうしたって、何かしらの不満や疑念は残ってしまう。
完璧な答えを俺には出せない。
ただ、会長が今回は俺が「適任」だと言ったのは、小泉や三浦では生徒達の意見に寄り過ぎてしまうからだ。
生徒達に告白をしたという達成感を与え、なおかつ三人を縛ることをしなくてすむ方法。
脳裏に思いつくのは、ごくごく普通の面白みのない案だった。
「じゃあ、こういうのはどうだ―――」
俺の思いついた案を説明した後の、みんなの反応は普通だった。
驚きもせず、落胆もせず、それくらいならいいのでは?くらいなものだ。
「じゃあ、とりあえず三人に話をしなくてはいけないから、真良に任せてもいいか?」
「……それは構いませんが、念のため俺の出した案と三浦達の案の二つを提示してみます」
三人が三浦の案で構わないならそれでいい。
一応、生徒会の皆が俺の言葉にうなずいて見せたのを確認すると、会長が解散を告げる。
生徒会室を次々と後にしていく役員の最後尾で、生徒会室から出る。
その際、会長が一言
「真良の案は生徒の反対はないと思うのか?」
そう聞いてきた。
「反対なんてもちろんありますよ……けど、形なりにも思いを伝えられれば今回の議題については問題ないはずですからね」
言ってしまえば、問題の先延ばしに過ぎないのかもしれない。
俺の出した案は、生徒たちの言う「場」の提示、雫たちを縛らないという条件、そして告白イベントに参加したという生徒たちの達成感を与えればいい。
最低限、その三つが多少なりとも揃っている条件であれば、うちの生徒会が出した答えとしては、問題はあるまい。
「まあ、私も怜の姉のような立場だからな、あの子の面倒ごとが減るのは嬉しいよ」
「そいつは良かったですね……」
「ごく普通で、楽ができるような案は実に君らしい。私は好きだよその考え……ただ気がかりもある」
先ほど言っていたことだろう。
正確でない情報を言うわけにはいかないと。
おそらく、会長はその情報の信憑性(しんぴょうせい)を確認しに動くのだろう。
その結果、今回の件にどうか関わるかは今はまだ分からない。
だが、分からないことを考えていても仕方がないのも確かだ。
生徒会室の戸を閉める瞬間、会長は微笑を浮かべていた。
きっと、会長なら誰もが納得できる最良(ベスト)の手を考えていたのかもしれない。
しかし、可能性の話をしていても埒(らち)が明かない。
制服のポケットに手を突っ込み、いまだ騒がしい廊下を歩く。
「さてと……どう説明しますかね」
彼らにとって面白くはない話を、そして俺が出した普通過ぎる提案を話す場所は……教室、あるいは屋上だろうか。
ポケットからスマホを取り出し、それぞれの番号にコールする。
確証はないが、あの三人はまだ学校に残っている気がする。
耳元に当てたスマホからは、呼び出しのコールが数回繰り返したのち、聞き慣れた声が出る。
『生徒会のお仕事終わりましたか湊君?』
「やっぱりまだ学校にいたか……すぐ戻る」
音声の先に雫の声と、「なんで私じゃないのかしら」という不満が聞こえた気がした。
止まっていた歩みを教室へ向け進める。
さて、面倒だが提案だけでもしてみるとするか……
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