第十一章 提案と妥協
第十一章 提案と妥協1
生徒会とは、イベントでは大々的に表立ち生徒の面前に立つが、普段も同じかと言われる否である。
活動のほとんどは裏方の仕事ばかりで、言い方を悪くすれば便利屋だ。
校舎の故障に関して、修理の会計をしたり、部費の活動費を計算したり。
生徒からの要望を聞き、それを実現するために試行錯誤したりと、何かと面倒な仕事ばかりだ。
特に、我が校では生徒会の権力が大きい。
会長への信頼とも取れるが、教師の仕事放棄とも考えられる。
とどのつまり、日々の雑務が多すぎる。
俺が感じている不満に過ぎないが……
そして、今日の議題もまた、生徒からの要望でもあった。
「さて、今日の議題は皆も知っていると思うが、彼らについてだ」
毎度おなじみ、生徒会室に設置されたホワイトボードには、三人の生徒の写真と情報が書き記されていた。
左から、雫、優斗、綺羅坂の順に並んでいる。
会長の話を片耳に、手元の配布された資料に目を落とす。
匿名で、生徒から多数の意見という名の欲望がむき出しの資料だ。
やれ校舎の立ち入り禁止を解除しろや、学食のメニューを増やせだ、さらには制服の変更や教師の変更までも希望として書かれている。
完全に生徒会としての仕事の範疇を超えているものが数多く見受けられた。
無論、生徒会としても対処できるものには全力で対処する方針だが、自分勝手の意見は流して次に移る。
しかし、今回の議題には無視できぬものが……
事と次第によっては、彼ら三人の日常生活にも関係する問題だ。
『告白の場や時間を設けてもらいたい』
端的に言えば、そう書かれている意見が多数寄せられた。
勿論だが、この通りの書き方ではない。
俺なりに簡略化しているが、内容としてはその通り。
……これまた、面倒な話を持ってきたものだ。
そんなもの、生徒会に頼らず自分たちで何とかしてくれ。
あれだ、アイドルのファンたちも自分たちなりにルールを設けているだろう。
同じように、彼らのファンたちは自分たちでルールを決めればいい。
桜の下で放課後の何時までに行くとか……
そもそも、アイドル扱いされている三人が悪い。
俺が働くことはないはずだ……
なんて思っていしまうが、生徒会としてはこれに対処する方針らしい。
放課後に、生徒が生徒を勝手に拘束することを容認してはいけないからだ。
三人にも彼らの時間がある。
いくら容姿が優れている、人気があるからと言って一般生徒であることに変わりはない。
等しく与えられるべきものだ。
それに、俺から言わせればあいつらは告白を望んでいないと言っても、過剰な表現ではあるまい。
だから、今回は雫や優斗、綺羅坂も含め三人が下手なルールや決まりで縛られぬよう、こちらとしても彼らに提案できる妥協案を決めようとのことだ。
本人を含めていないのは、何も案などを出していない状態で、彼らを連れてきて話を丸投げになるような事態をさけるため……ということらしい。
会長進行のもと、半分お任せ気分で生徒会の話を聞いていると、会長が手招きをする。
「……?」
何だろうか、追加で資料や議事録まとめであるのかと、席を立ち会長のもとへ行く。
「では真良、進行を頼む」
「俺が……なんでです?」
自然と渡された進行用の資料を片手に、ただ純粋に言葉が出る。
会長はその言葉に、当然のように言い返えした。
「司会進行は君の仕事だろう?それにこの三人については君が適任だ」
「そうでしたっけ?……適任ではないですけど」
とぼけた振りをしつつ、思い出す。
確か、生徒会加入の資料にも進行役としての業務が書かれていた。
禿げない程度に髪を掻き揚げ、バトンを受け取る。
「では……意見を」
「早速人頼みじゃない」
三浦の鋭い指摘。
いや、進行役とは慣れていないし、それに意見をまとめてどうするかを決める場であるのだから当然だ。
「進行役はこんなもんだろ」
「とりあえず、三人の件についての問題点でも周知しておいたほうがいい」
代わりに俺の席に座る会長が言った。
場所的には俺の目の前だ。
自分の席に座ればいいのに、近くだからか腰掛けて会長は促す。
「分かりました……主だって問題なのは時間と場所もそうですが人数ですね」
今回の一番の問題は人数だ。
告白とは、自分にとっては一世一代の決意を胸に挑むのだろうが、相手の時間を割いて行う。
数日に一人二人なら問題ない。
それでも多すぎるのだが、たかが数分、合わせても十分に満たないだろう。
しかし、それが毎日になると厄介だ。
待つのにも、去るのにも時間を要する。
場所も屋上や校舎裏、時には近くの神社などのお馴染みの場所が多い。
人通りも少なく、それなりの向かうのにも時間がかかる。
日によっては、後に数人の生徒が控えている場合、小一時間かかることもあるだろう。
幸いにも、入学、進学のシーズンを少し過ぎたことで落ち着きを取り戻しつつあるが、それでも彼らの人気は変わりない。
むしろ、これからますます新入生のファンが増えていくことだろう。
生徒から多数の意見が寄せられた時期も、さして違和感はない。
ただ一つ、この要望書からだけは違和感を覚えてならない。
その理由も、言葉にすることができずにいると小泉が手を挙げる。
「た、確かにこの話は何度か生徒から聞いたことあるね」
「俺も入学してクラスメイトがいつなら先輩たちを呼ぶことができるか話しているのを聞いたことがあるっす!」
小泉も火野君も、この話を聞くのは初めてではないらしい。
この高校にいれば、嫌でも三人の話は耳にするから驚きはしない。
ここ最近、彼らと普通に接しすぎて忘れていただけだ。
異常だが普通。
これが桜ノ丘学園の日常だ。
「……呼び出しに応じなければ問題解決なんだがな」
問題以前に、三人がそれを断れば話はそれまで。
しかし、会長は首を横に振る。
「怜はそうだが、あの二人が生徒からの呼び出しを無視できるとは思えん」
「……では他の案を探そう」
そうでしょうね。
雫と優斗は、絶対に無視はしない。
断るにしても、彼らなりに答えは出す。
そういうやつらだ。
だからこそ、この問題は厄介だ。
会話は途切れ、それぞれが思考を巡らす。
誰が最初の案を出すか、一人立った目線で眺めていると三浦が手を挙げた。
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