第六章 遊園地と勘違い12
俺が間違っていたと考えれば、色々と納得がいく。
春休みに彼女が言っていた人物は、そもそも優斗ではなかった。
同日に同様の『以前から好きな人がいたと』という相談内容。
正確には『前から』と『昔から』だ。
優斗と雫に好き人がいるのなら、それは俺も知っている人の可能性が高い。
そうでなければ、俺に助力なんて頼んだところで意味を成さないだろう。
容姿と性格も相まって交友の広い二人だが、実際によく話をする相手は少ない。
その中でも異性となれば尚のこと少なくなる。
俺のような平凡な生徒が彼女の隣に立って話をしているだけで、周りから冷たい視線を向けられた。
一緒に登下校しただけで、彼女を慕う男子生徒から小言を言われるようになった。
神崎雫という女性の隣に立つには、それだけで高い条件を課せられる。
そんな条件を軽々とクリアしたのが荻原優斗だ。
故に、彼女が話をしている姿を見るときは、その多くが優斗と話をしていた。
そして考え抜いた末にたどり着いた答えが、優斗と雫の両想いという答えだ。
その答えが間違っていたのだとすれば、一つ確認しておきたいことがある。
「一つ聞きたいんだけどいいか?」
円形のテーブルを囲む形で座る二人に、俺が聞くと二人は体をこちらに向ける。
それを質問しても大丈夫という返事と解釈した俺は二人に質問をする。
「前からと昔から、この二つはどれくらいの年数を言うものだと思う?」
「前からと昔から……」
「個人差のありそうな質問ですね」
この質問は俺も回答には個人差があると思っている。
だが、彼女達が答えた数字と俺の答えが近いものであるか、それだけが今回の質問での重要な点だ。
「前からというのは二、三年くらいまでかしらね、昔からは十年とかそれくらいかしら?」
「そうですね私も似たような答えです、前からなら兄さんたちの年齢からだと中学生の頃とか、昔からは小さい頃とかですかね?」
「……そうだよな」
まあ、だいたい同じ答えになった。
俺も前からと言えばここ数年の話で、昔からと言えば十年前くらいを想像する。
おそらく最初から答えは出ていた。
でも、それでも気づかなかった……いや、無意識に気づかない振りをしていただけかもしれない。
俺に相談をしたのならば、自分はその中に入っていないはずだと。
二人から話を聞いた時点で、すでに自分と彼らの間で線引きをしていたのだろう。
彼女と俺では住む世界が違う。
たかが幼馴染の平凡な人に学校一の美少女が想いを寄せるなんて夢物語のようは話があるはずがないと思っていた。
だが、彼女が二人きりの時に言っていた言葉。
自分自身を気にしていると言っていた彼女の言葉が本当なら、正直、冷や汗を隠せない考えが頭の中に浮かぶ。
でも、感じていた違和感の答えも分かった。
約束していないのに勉強を教えにきたり、優斗を応援していなかったり、打ち上げでも彼の隣ではなく俺達のいる個室に来たりした行為にもちゃんとした意味があった。
「神崎さんがさっき言っていたわ『これからは周りも何も気にしない』って」
「……」
カヌーに乗った時に彼女達は話をしていたが、そんなことを言っていたのか。
俺は人通りが多くなった光景を眺めながら、思わず小さく息を吐く。
「どうなるんですかね」
楓が呟いた言葉には色んな意味があるように聞こえた。
優斗が告白してもし振られた時の今の状況、その後の関係性や学校でも付き合い方が変わって来るだろう。
中学から仲良くしていただけに、少し複雑になるのは確かだ。
「その可能性も考えて行動するだろ……あいつなら」
時刻が七時を回り、遠くから軽快なBGMが流れ始める。
ポケットに入れていたスマホを取り出すと一件メッセージが届いていた。
その相手はもちろん優斗だ。
開始直後のパレードの様子と、ただ短く『そっちに向かう』と書かれていた。
「こっちに向かってるってよ」
「あら、早いのね」
二人がこちらに向かっているのを綺羅坂と楓に伝えると、少しだけ考える。
もし楓が言うように、優斗が告白して振られたとしたら、その後の状況をどうすればいいのか。
だが、パレードの先頭が俺達のいる通りに近づいてくることで、音楽が大きくなり上手く考えがまとまらない。
……これほどまでに邪魔な音楽は聞いたことがない。
先頭を歩いていた二足歩行のネズミに睨みを利かせていると、少し先で優斗と雫が走ってこちらに向かっているのが視界に入る。
遠目からだが、その表情は特に変わった様子はない。
「お待たせしました!」
椅子に腰掛けた雫が、俺達にそう告げるとすぐに視線をパレードに向ける。
楓の隣に座り、楽しそうに眺めているのを見るに、優斗は告白なんてしなかったのかもしれない。
とりあえず、今のところはこの後の状況に頭を悩ませなくても大丈夫だと思うと、目の前を歩く個性豊かなキャラクター達に「安心して歩きなさい」と言いたくなる。
綺羅坂も興味深そうにその光景を眺めていると、隣の優斗が耳元で囁くように声を掛けてきた。
「俺、神崎さんと付き合うから」
「…………は?」
二人が付き合うことにショックを感じたとかそういうのじゃないのは分かっている。
ただ、綺羅坂たちの言葉は嘘ではないはずだ。
だから困惑して、状況が理解できなくなった。
その言葉を聞いた後、パレードがどのように終わったのか記憶にない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます