第七章 本音と本音

第七章 本音と本音1


 男女が交際をするというのは、なんとも曖昧な関係だと思う。

 お互いが異性としてのパートナーと認め合い、多くの時間を共有する。


 学校では周りに見せつけるように、幸せな空気を発生させ非リア充を嫉妬させ。

 週末には様々な所へ出かけては、その先でも非リア充を怒りに震わせる。


 その関係には明確な決まりはなく、ただの口約束。

 友達という関係よりも脆く、そして壊れやすい。


 壊れてしまえば修復は難しく、なぜあんな相手に貴重な学生の時間を費やしてしまったかと後悔する人も少なくない。


 だが、そんな曖昧な関係であっても、多くの人は恋人との学校生活に憧れを懐いているのだ。


 




 あれから二日が経過した。


 怒涛の土日が終わり、俺の周りではクラスメイト達がこれまでと変わらぬ日常を過ごしている。

 しかし、その中でも俺と綺羅坂、そして優斗の三人の関係は連休前と同じとは言い難い。


 その理由は主に二つある。

 一つは優斗が最後に発した『雫と付き合う』という言葉。


 彼からその言葉を伝えられる少し前に、俺は綺羅坂と楓から雫の好きな人は優斗ではない、そう告げられた。


 春休みの一件から、度々感じていた彼女の言葉と行動の違和感。


 その原因が分かり、彼女が本当に好きな人とは優斗のことではなく俺だったのでは……なんて身の丈に合わない答えを考え出した直後、優斗の口から発せられたのがあの言葉だった。



 俺が傷ついたわけではない。

 その瞬間は、どうなっているのか困惑したのは事実だが、内心で少し安堵していた。


 これは、前にも同じような言ったが、あの二人は誰が見てもお似合いだ。

 そんな二人が付き合うことになったのなら、友人として、幼馴染として祝うのは当然のことだ。


 だが、それは本当に両想いであるならだ。


 正直、二日経った今でも綺羅坂と楓の言葉が嘘だとは思えないし、俺が出した答えも間違っているとも思っていない。

 

 むしろ、冷静に考えれば考えるほど優斗の言葉に対して疑念を持つばかりだ。


 それに雫が綺羅坂に言ったとされてる『周りも何も気にしない』という言葉。


 優斗と雫が付き合うのなら、周りを気にする必要もないはずだ。

 すでに生徒の間では公認なのだから。

 せいぜい、おめでとうと言われるくらいだろう。


 そう考えると、雫の言葉はいささか不自然に感じてしまう。

 


 

 そして、理由のもう一つ。

 この問題の中心人物である雫が、この二日間学校へ登校していない。

 

 体調不良ではない。

 母親である奏さんの実家で、何やら急用ができたため学校に欠席の連絡をして月曜の朝早くに家を出た。


 前に雫から、奏さんの実家はド田舎で家も山の近くに建てられていることから、連絡を取るのが難しいと聞いていた。


 そのため、電話やメールをしても当然のことながら返事は返ってこない。

 雫に優斗の言葉は真実か確認したくとも、今はただ彼女の帰りを待つことしかできていないのが現状だ。


 

 もし、どちらかが自分の気持ちを偽り、交際する関係になったのであれば、その時は本音でこう言わせてもらおう。


「自分の気持ちを偽って作られた関係なら、そんなもの壊してしまえ」






 そんな状況の中、俺はクラスメイトと話をしている優斗に視線を向ける。

 普段と何ら変わらない、彼女ができたと言っている様子もなくただ普通に話をしてた。


「なんか……普通だよな」


「そうね、つまらないほど普通ね、というか普通過ぎて逆に面白いわね真良君は!」


「何をそんなに怒ってるんだよ……そしてなぜ俺?」


 隣に座る綺羅坂は、昨日からずっとこの調子だ。

 遊園地からの帰り道では、車内に雫や楓、優斗もいたので綺羅坂には昨日の朝一で優斗が最後に発した言葉を伝えた。


 その結果……とても機嫌が悪くなった。

 綺羅坂は「それはあり得ないわ」と言うだけで、昨日からずっと優斗に普段より三割増しの冷たい視線を向けている。


 彼女なりに何か思うところがあるようだが、そこに関してはまだ聞き出せていない。


「なんでそんなに機嫌悪いんだよ……」


「真良君が普通過ぎるからよ」


「じゃあ一生機嫌が悪いままだな」


 小さく溜息と吐くと、再びクラスの中心に視線を戻す。

 すると優斗と一瞬だけ目が合う。


 いつもとは違う優斗の視線。

 まるで俺を観察でもしているかのような視線に、ついこちらが目を逸らしてしまう。


「昨日からそうだけれど、あの目はとても気に入らないわ」


「まあ、俺達も人のことは言えないけどな……」


 優斗の視線に気が付いた綺羅坂が、顔をこちらに向けてそう言った。

 あちらから見れば、俺と綺羅坂に観察されていると思っていることだろう。

 

「神崎さんはいつ帰って来るのかしら?」


「さあな、そこまで長く休みはしないだろ……」


 綺羅坂の問いに適当に返事を返すと、最近ようやく活躍の場が増えたスマホを取り出す。


 画面には雫からの着信は表示されていない。

 楓が白猫のムクを抱きかかえて、笑顔でこちらを見ている壁紙だけが写る。


「……俺としても、早く帰ってきてもらいたいがな」


 そしてこの状況を早く解決してくれ。

 クラスの音に掻き消されながらも、雫が早く帰ってくることを願うばかりの俺でした。


 いや…だって綺羅坂が怖すぎるし、優斗もどこか変だし。

 


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