第六章 遊園地と勘違い11


 あまり乗り気でなかったとはいえ、遊園地や娯楽施設などにいると時間の経過というのは早いものだ。

 特に自分の意見を言うことはなかったが、それでも彼らの後に続いて様々なアトラクションを体験しているうちに日は傾き、気が付けば周りは綺麗にライトアップされていた。


「もうこんな時間か、パレードを見るなら早めに移動していたほうがいいかもね」


 優斗が手元の時計を確認してから言った。

 俺も同じように時刻を確認してみると既に六時を過ぎていた。


 通路には縄で仕切りが作られ、これから行われるパレードの準備が着々と進んでいる。


「では、そろそろ場所を確保したほうがいいですかね」


「そうだね、中央の広場辺りに移動しようか」


 楓の言葉に優斗が付け足してこの後の行動が決まったような空気になる。

 ネズミ―に着いてから、彼らの意見には口を挟まずその後ろを歩いていた俺だが、これに関しては口を挟まずにはいられない。


「それには断固反対だ」


「それはどうしてかしら?」


「中央広場なんて人が集まるに決まっているだろ、それよりもパレードの通りに面している飲食店にでも座って見ていたい」


 質問してきた綺羅坂にちょうど目の前にある店を指差してそう述べた。

 俺の言葉に、四人は考えるようなそぶりを見せていたが、その後の反応はそれぞれだった。


「私はそれで構わないわ、むしろそのほうが落ち着いて見られるから良いわね」


 そう言って俺の意見に賛同した綺羅坂。


「俺は広場に行ったほうがいいと思うが」


 最初に広場に行こうと言った優斗は、当然のことながら不服そうな顔をする。


「私は……どちらでも構いませんよ?」


 楓は流れに身を任せると言えばいいのか、どちらでも良さそうにしていた。


「そうですね、私は広場の様子も見てみたい気がします」


 雫は広場派だったようで、少し申し訳なさそうにこちらに視線を向けてくる。


 全員の意見が出そろったところで、朝ここへ来た時の会話を思い出す。

 優斗が雫と二人きりになりたいと、そして雫や楓が一緒にパレードを見たいと言っていた件だ。


 最初は誰かしら断ることになると思っていたが、これなら大丈夫だ。

 

「なら、お前達は最初に広場に行って来いよ……その間俺達はここにいるから」


「でも、そうすると皆さんで見ることはできませんよね?」


「広場からここまではそれなりに距離がある、パレードも進む速度はそこまで早くないだろうから少し見てからなら間に合うだろ」


 俺は、所々に設置されていたマップの中央広場を指差し、次に現在地と書かれた赤い点をトントンと叩く。


 パレードの道なりに歩けば確かに間に合わないかもしれないが、裏から回ればそこまで距離はない。

 広場からでも十分に間に合うだろう。


「なるほど……神崎さんはそれでもいいかな?」


 綺羅坂はここに残り、楓はどちらでもいいとなれば二人きりになれる状況だ、優斗がこれを断るはずがない。

 それに優斗もこれまた断りずらい言い方をした。


 これで断ったら「二人きりとか無理です」と言っているようなものだ。

 そんなの雫が言えるはずがない。


「……分かりました、それでは後からここで合流ということで」


「それじゃあ後で連絡するよ」


 二人はそう言い残すとこの場から離れていく。

 俺とその他二名は、そのまま目の前の店でドリンクと軽食のフライドポテトなどを買うと、外に設置されたテーブルに腰掛ける。



「やっと落ち着いて座れる……」


 なんだかんだ座ったとしても乗り物に座るくらいで、あとは待ち時間をただボーっと立って過ごしていたから足が怠くてしょうがない。


 あれだ、待ち時間を有意義に過ごすとか、待ち時間が大事とかはやっぱり嘘だな。

 実際に体験してみてより強くそう感じた。


 今回が優斗達と来てしまったのが悪いのだろうが、話す内容が普通じゃない。

 この前のテストで全教科満点だったの、街中を歩いていたら雑誌のモデルに誘われただの、休日暇だったから乗馬をしていただの。


 ただでさえ場違いだと感じているのに、そんな会話を聞いていたらより一層一緒に歩きづらいのが分からないのだろうか。


 心が休まる話があったとすれば、楓が家の花壇で育てている花が咲いた話くらいだ。


 それに重要な話などは、全体の二割程度で後の八割は本当にどうでもいい話。

 コミュニケーションの塊と言ってもいい優斗がいたから、話が途切れることなく過ごせてきたが、内容は本当にくだらなかった。


 同じクラスの佐々木……だったと思うが、そいつに彼女ができたとか、綺羅坂に振られた男子の数が百を超えたとか。


 他にもいろいろと話したが、一番どうでもよかったのはもちろん綺羅坂が振った男子生徒の数だ。


 と、まあそんなことで待ち時間は有意義に過ごせないと勝手に決定したところで、すでに見えなくなった優斗と雫が進んでいった方向に目を向ける。


「優斗さん告白でもするのでしょうか?」


 同じく二人がいなくなった方向を見つめていた楓が、隣に座る俺に話し掛ける。

 あいつは妹にすらバレていたのか。


「いっそのこと玉砕してきたほうが彼のためになるんじゃないかしら?」


「ですよね……私もそう思います」


「ん?ちょっと待て、なんで優斗のためになるんだ?」


 まず玉砕されるという前提がおかしい。

 春休みに二人は俺の元に来てお互いのことで相談をしてきたのだから。

 『好きな人がいる』……そうハッキリと言っていた。


 二人の言葉に疑問を感じた俺に、綺羅坂が告げた。





「なんでって……少なくとも神崎さんが好きなのは彼じゃないわ」


 淡々と事実だけを彼女は告げている。

 その言葉には他意はない、本当にただ雫の気持ちを代弁しているのだとすれば……


「……」


 ……今まで感じていた雫の違和感。

 今日だけじゃない、テスト勉強の時も、球技大会の時も、おかしい所はいくつもあった。

 やけに優斗に対して冷たい言葉を投げかけたり、活躍している彼を応援をたいしてしなかったり。


 ただ、些細なことだと目を逸らしていた。

 彼女の気持ちは俺が直接聞いている、だから間違いではない、そう思っていた。


 ……でも


「俺が間違っていた……?」


 始まりからすでに、俺は間違っていたのだ。






 



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