レインボーブリッジ

「レインボーブリッジ行こうぜー」

ある休日の朝に彼が突然言い出した。

「1人で行けば?頑張って。」

「寂しいこと言うなよ。橋から飛び降りちゃうよ。」

「わかった、付いていくから。あ、そこの醤油取って。」

その日も変わらず彼は馬鹿だった。

レインボーブリッジは見たいからいいか、とこの時のわたしは油断してしまった。

彼とまともなデートなど期待出来るはずもなかったのだ。


彼に連れられてゆりかもめに乗る。

お台場海浜公園で降りた。

夢のお台場デート!

ショッピングに遊園地。大江戸温泉物語もあるし、変わり種で言えばうんこミュージアムだって面白そうだ。

そして最後に、夜に光輝くレインボーブリッジを見ながらディナーを食べる。

これぞまさしく東京デート。そんな期待は裏切られる。


駅を降り、彼が向かった先はお台場レインボー公園。駅から徒歩で10分ぐらいかかったかな。歩くのはここからが本番だったけど。

レインボーブリッジは歩いて渡れる。そして、彼の目的は歩いて橋を渡ることだった。


レインボーブリッジの遊歩道はサウスルートとノースルートがあり、その日はノースルートを選んだ。

「お台場まで来て歩くだけかよ。」

「レインボーブリッジに行くって言ったじゃん。聞いてなかったの?」

確かに言ってた。言ってはいたが、歩いて渡ることになろうとは思いもしなかっただけだ。

「まあまあ、景色が綺麗だよ。」

そんなことを彼は言うが何処か急ぎ足だ。景色を見ている雰囲気もない。すぐ横を走る車の音もうるさいし。

先へ進むと景色を一望出来る展望台もある。しかし、そこも足早に通りすぎる。

何がしたいんだ、こいつは。

もしやまた録でも無いところに連れて行くつもりか。

流石に勘繰り始めた。


芝浦の文字が書かれた床を通りすぎた。

「少し休憩。てか、景色みせろや。」

「ごめんごめん。予定より早く進んでいるから景色でも楽しもうか。」

こいつ、いま何て言った!?

予定ってなんだよ、聞いてねえぞ。

彼は買ってあったジュースを差し出す。

半分以上飲み干し差し返した。

ああ、生き返る。

「あれ、東京タワーじゃん。懐かしいな。」

隣で彼がなんか言っているが無視。

ビルの群れをボーっと眺めていた。


芝浦側遊歩道の出入口にはエレベーターがある。

一階までおりて建物を出る。遊歩道の入り口にいる警備のおっちゃんに会釈してゴールだ。

「開店まであと10分」

彼が独り言を言ったのを聞き逃さなかった。

言い返す体力もなかった。

ここまで付き合ったら最後まで付き合うしかない。


この後も少し歩かされるはめになる。

彼の目的はこの先の中華屋だったのだ。暖簾には、らーめん日の出と書かれていた。

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