港区デート紀行

あきかん

増上寺

羽田空港のロビーで浅沼立花は思い出す。

彼とよく行った港区について。


世間では港区女子とかキラキライメージなのかもしれないけど、わたしに言わせれば下町だ。

まあ、彼がそんなところにしか連れて行ってくれなかったからだけど。


最初のデートは東京タワー。

「東京に来たんだから東京タワーに行きたい!」

そう彼にせがんだら快く案内してくれた。

東京タワーに行くには、まず浜松町駅で降りて大門へと歩く。

これがまた中途半端な距離があって、歩くには疲れるけどタクシーを使うような距離じゃない。

まあ、当時はお金も持っていなかったから関係なかったけど。


大通りをまっすぐ歩き信号を渡ると赤い門が見えてくる。これが大門だ。

「うわ、凄い。大きいね。」

当時は感動して写真をとったりしたっけ。

この門をくぐると増上寺が居座っている光景が広がる。洋式建築をまるで邪魔者扱いしているその姿はこの近辺の主と形容するしかない。

東京タワーに行くにはこの増上寺の壁づたいにいくのが一番分かりやすい。当時のわたし達もそのルートを歩いた。


「暑いね。」

「そうだね。ここら辺でアイスを売っているから、買って食べよう。」

増上寺の壁と彼に挟まれながらわたしは歩く。

アイスを食べるというからには、何処かの店に入るものだと思った。正直足もしんどかったし休めるのなら好都合、そんか期待は裏切られる。


歩道で何かを売っている人が見えた。

彼はその人に近づいて行った。

わたしも着いていく。

その人はクーラーボックスに詰め込まれた棒アイスを売っていたのだ。

わたしの田舎だってこんな古臭いアイスは見たことがない。

彼はアイスを2つ買い、1本をわたしに差し出した。

嘘でしょ、ここは天下の東京だよ。もっとキラキラしたアイスでいいじゃん。

そう思ったけど口には出さなかった。夏の暑さに負けてアイスを受け取った。

ここまでくれば東京タワーはあと少し。

増上寺の反対側にでたら、東京タワーの足下はすぐ目の前にある。

そこにはクレープ屋があるし、当然アイスだって食べられる。

今思い返せば、あのアイスは彼の趣味意外の理由がない。

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