プリモピアット

久しぶりに彼から連絡が来た。

パスタを食べに行こう。

そう言っていた。

わたしは彼に言いたいことがあったから、この誘いを受けることにした。


待ち合わせ場所は港区の大門。

曇天が空を覆い、今にも雨が降りそうな気がした。

大門へ着くと彼が待っていた。

「久しぶり。元気にしてた?」

男子3日会わざれば刮目してみよ、とはいうが彼は全くかわっていなかった。

「こんな寒い日に外で待ち合わせするなよ。早く店に連れてけ。」

「直ぐ近くだよ。まだ並んでないと思うし。」

並ぶってなんだよ。予約してねえのか。

息は白く濁り霧散する。わたしは彼の背中を睨み付けていた。


大門近くには飲食店が並んでいる。

この日、彼が連れて行ってくれた店は路地裏にあるパスタ屋だった。

自動販売機の横には愛人募集のポスターが張ってあり、ここだけ昭和に取り残されたようだった。

外にランチメニューの看板が出ている。

10種類もあり、なかなか選ぶのも大変だ。

「3番かな。立花は何にする?」

彼はペスカトーレを選ぶ。

「7番。早く入ろうよ。」

わたしはカルボナーラを選んだ。


店はカウンター席しかないが、中々雰囲気は良い。

愛想の良い女性となかなか頑固そうな店主が待ち構えていた。

「いらっしゃいませ。何名さまですか。」

「2名です。3番と7番で。」

「3番と7番ですね。こちらへどうぞ。」

彼は慣れた様子で注文する。


席へ座ると山盛りのサラダが出された。

横目で彼を見ると黙々と食べている。彼にしては珍しい。いつもは無駄に喋りかけてくるのに。

先客のサラリーマンやOLも食べることに集中している。わたしも回りに習いサラダを貪る。


「3番と7番お待たせしました。」

サラダを食べ終えたころパスタが来た。

さらっとしたソースに細い麺。どこか家庭的な食器もわたし好みだ。

カルボナーラの半熟玉子を潰しかき混ぜる。

フォークに巻かれたパスタから湯気が食欲を掻き立てる。

口に入れるとクリームと卵の味が広がった。麺は生麺独特の歯ごたえがあり、のみ込むとにんにくの薫りが鼻へぬけた。

細麺はツルッとしていて啜りたくなる。思わず口元を手で隠した。

横目で彼を見ると、口に入りきらなかったパスタを啜っていた。ソースが飛散する。

相変わらずマナーを気にしない奴だ。

自分のパスタに目を戻した。


食べ終えて、大通りへと戻って来た。

わたしはふと空を見上げる。雪が降ってきた。

「増上寺に行ってみようよ。」

「わかった。」

わたし達は、増上寺へと歩きだした。


増上寺の前の公園のベンチで二人並んで座る。

雪はちらちら舞っている。まわりには誰もいない。

「向こうに行ってから、何で連絡くれなかった。」

わたしは彼に言った。

「ごめん、疲れていて…」

彼は口を濁した。

雪が本格的に降りだしてきた。

長い沈黙に耐えきれなくなったのか、彼は増上寺へ入ってみようと言った。わたしは彼に着いていった。


増上寺は白く染まりだしていた。

「風流だねぇ。」

「寒いだけだよ。」

相変わらずまわりに人はいない。

わたしは増上寺を散策してみることにした。かれはひょこひょこ着いてきた。


入って来た門に戻った。屋根に雪が積もっている。

思わず足が止まった。門を二人並んで見つめる。

「立花、結婚してほしい。」

「今さら、遅いよ。」

彼を見ずにそう答えた。

突如、頭に雪がぶつかった。

「けち!!」

何いってんだ、こいつは。

こっちも雪をぶつける。

「ちょっと待って。雪固すぎ。殺すきかよ。」

「いいから1度死ね。」

しんしんと雪が降る。

私たちの音だけが響いていた。

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