第3話 刺激的過ぎました



「……あのぉ、お二人さん~?」


「ああ、すみません。忘れていたわけではありませんよ」


「ホンマかいな」


「……ええっ、本当ですとも!」


 若干、目が泳いでいる気がするが、そんなことより今は聞きたいことがあり過ぎるので、空気を読んで見なかったことにしてあげた。




「色々とお知りになりたいこともあるでしょうが、まずは座りませんか」


 そう、今まで彼らは突っ立ったまま、彼女に至っては絨毯の上に座り込んだまま話していたのだ。


「さあ、お手をどうぞ、お嬢さん」


「あ、はい」


 すかさず魔王陛下自らが膝をつき、手を取って立ち上がらせてくれた。後ろにあった豪華な深紅の布張りのソファーへと流れるようにエスコートされる。


 華やかな美貌と洗練された振る舞い。低く腰にくるような美声で囁かれ、ボンッと音がしそうなくらい、真っ赤になってしまった。十四才の少女には刺激的過ぎる色気をふりまかれて顔が直視出来ない。


 美形も過ぎれば凶器である。フワフワとされるがままに誘導され、いつのまにかソファーに座っていた。


 魔王陛下はといえば、そのままちゃっかりと彼女の隣に引っ付き気味に腰を下ろしている……。


 呆れたように一連の流れを見ていた魔導師長も、向かいの側の席に座った。


 照れ隠しにソファーを撫でていた彼女は、想像以上の極上の手触りに思わず声を上げる。


「うわぁ、ふっかふかやん。気持ちええわぁ」


「ふふっ、気に入ってくれて良かった」


 そう言って至近距離でまた、にっこりと微笑まれた。


 黙っていると冷たそうな顔立ちなのに、向けられる微笑みはやたらと甘く感じる。金色の瞳は優しげに細められているが、妙な吸引力があって艶っぽく、色香を漂わせてくるので落ち着かない気分になり困ってしまう。


 思わず後ずさり、 ピッタリとくっついて座っている魔王陛下から距離を取ってしまった。


 そんな彼女の挙動を気にした風もなく、可愛いものをみる目でニコニコと眺める魔王陛下……。


 二人のやり取りを生暖かく見守っていた魔導師長だったが、思い出したように言った。


「そういえば魂を召喚した際、貴女はそこのソファーから落ちたんですよ」


「え、そうやったん?」


「ええ。魂を入れた途端、転がり落ちるからびっくりしましたよ」


「う~ん?」


 ソファーに寝かされていたというが、自分は普通に横断歩道を歩いていただけなのである。


 もう、何が何やら……?


 謎が増えるばかりなので、早速質問してみた。



「まず先に確認しときたいんねんけど。さっき言うとったけど、お二人さんはホンマもんの魔王陛下さんと魔導師長さんなん?」


「ええ、そうですよ」


「……ホンマに?」


「はい、間違いなく」



 魔王陛下に褒められ、見るからに機嫌が良くなっている銀色の髪の美青年は、自分が魔導師長で、もう一人の藤色の長い髪をした人物が本物の魔王陛下だとにこやかに肯定してくださった。




 スラリとした長身に、恐ろしく容姿の整った二十歳前後に見えるこの二人が、魔王国のトップだというのか……キラキラ光る石や鮮やかな羽のようなものが付いた、派手派手しい衣装を纏っている姿を、思わずマジマジと見つめてしまった。


「いやぁ、信じられへんわぁ」


「では、私からその辺も含め、ご希望通り順を追って説明していきましょうか。まず、ここは魔大陸にある魔王国の中心地、魔王城の一室です。貴女のいた世界とは別の世界になります」


「へ? 何やて?」


 最初の一言からもう、信じられないというか、信じたくないような内容をぶちかまされた。


 にっこりと微笑みながら、とんでもないことを言われている気がする。


 どうやら知らぬ間に、世界を越えていたみたいなのだが……確かに今、そう聞こえたのだが本当だろうか?


「ホンマに?」


「ええ」


「……ホンマのホンマに?」


「ホンマに……おほん。ええ、本当ですとも」


 ……異世界だろうが、関西弁は侵食しやすいらしい。




 まあ、それはともかくとして、続けて魔導師長様が話してくれたのは、魔族が現在、危機的状況に置かれているという事だった……。


 この世界には、大きく分けて魔族の暮らす魔大陸と魔族以外の種族が暮らす大陸の二つがある。

 その間には、常時荒れ狂っている上に凶暴な海の魔物たちがわんさかいる海峡が横たわっている為、今までは事実上、交流は不可能で平穏だったようだ。


 魔族側には翼を持つ種族がワイバーンやらドラゴンやら筆頭に色々いるので、関係なかったらしいが……。


 ところがどうやってか、人間達がこの短期間の内に造船技術を発達させ、更には海の魔物達を退ける術までをも手に入れていた。


 不審に思って調べてみたところ、人間側は聖属性の魔力を持つ者、聖女を密かに召喚していたというのだ……。




 人間族の強欲な支配者達は、これまでも度々同じ大陸に住むエルフやドワーフ等の他種族の領土を狙って攻めいっている。


 その都度魔族は他種族に味方し、乞われれば独占状態の制空権を生かして侵略から守ってきた。


 大半が脳筋に占められているとはいえ、圧倒的な強さを持つ魔族に対し、多少の策を講じたところで身体的にも魔力量でも劣る人間族がそう易々と抵抗できるものではない。


 自分達の領土拡大の邪魔をされた彼らは、次第に魔族を敵視するようになっていったらしい。





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