第2話 召喚されました
――何の変哲もない退屈な一日が、今日も終わろうとしている。
その日、帰宅部の彼女は友人たちが部活に励む中、颯爽と校門を出て家路についていた。
三年間通い慣れた通学路だった為、少し油断していたことは否めない。
だが、いくら平穏な日常に辟易していたとはいえ、どうしてその時、次に起こりうるであろう、奇っ怪な出来事を予見出来ただろうか……。
それはいつも通りの帰り道、迷う要素すらない道で唯一、地元民の間で危険だと言われている、信号のない横断歩道を横断しようとしていた時のことだった。
勿論、左右を見て、安全を確認することも忘れていない。日課なので考えずとも自然とやっていた。
この横断歩道の白い縞模様にペイントされた部分を踏んで歩くのが、彼女のルーティーン。いつの間にか癖になっていてやらないと落ち着かない。
なので、右足を出して白線の上に一歩踏み出した、その途端……。
ピカァァァッーー!!
白線が謎の超絶発光をしたっ。
彼女の周りに光が現れ、溢れんばかりに放たれる。
別に車に突っ込まれたわけでもなく、たかが横断歩道の白線部分に乗っかっただけで、突如として眼を焼くような強い白光が襲いかかってくるなんて、誰が予想出来ただろう。
こんな眩しい光が包まれるなんて、ちょっと想定外過ぎるっ。
「うわっ、眩し!」
――あまりの眩しさに反射的に目を閉じた次の瞬間、足元の感覚がフッと消える。
「え」
不意に、地面が抜けたかのような謎の浮遊感に襲われた!
三半規管が揺すぶられ平衡感覚が狂う。気持ち悪くて、可憐な乙女にあるまじきものを口から吐き出してしまいそうでヤバい。
「え、なっ、なにゅ、うわわゎゎゎっー!?」
不可思議な出来事に血の気が引いていくが、戸惑う間もなく何かに引っ張られるような感覚が急速に強くなっていって……。
そして突然、全ての音が掻き消えたと思ったら。
――ドサッと、何処かに落っこちたのである!
「痛っ!?」
次々起こる謎の現象にアワアワとしているうちに、謎の吸引力が消えて放り出されてしまった。
「なっ、何んやこれー!? て、て、天変地異かいな!?」
混乱しつつも、地面のあるところに辿り着いたようなので、恐々と目を開けてみると……。
おもいっきり野外の横断歩道を歩いていたはずが、どうみても何処かの室内にいて、フカフカの絨毯の上に座り込んでいた……訳が分からない。
「な、なっ、なんっ!?」
最初に目に飛び込んできたのは、 まるで王城のように美麗な装飾が施された豪華絢爛な広い部屋。
そして、アワアワする彼女を冷静に見つめる背の高い男が二人。
視界に入れた瞬間、息を飲んだ。
それはもう……何というか、信じられないような……。
「どえぇぇ!? なんちゅう美形がおるんやっ。それに何やそのけったいな格好、ここはコスプレカフェかいな。やたらピカピカキラキラしよってっからに……ってそんなわけあるかいっ。さっきまで道歩いとったっちゅうねん。ホンマにここはどこや~!?」
只今、絶賛大混乱中のはずだが、思いの外よく口が回っている。そして、どんな時でもボケツッコミを忘れない浪速根性はさすがと言えるだろう。
「……これはこれは。何とも賑やかな小娘が召喚されてきたものですね」
「おまえね。初対面の愛らしい女性にそんなことを言うもんじゃないよ。小動物みたいでなかなか愛嬌があるじゃないか」
「申し訳ありません。私は陛下と違って大人の女性が好みなものですから」
「いやいやっ、何俺が幼女趣味みたいな言い方してくれちゃってんの!? やめてくれる!?」
「おや、違うんですか」
「違いますうぅぅっ」
「それは失礼いたしました」
「……全然失礼って思ってないよね、それ!?」
目の前で繰り広げられる、煌めく銀の短髪をもつ美青年が紫の髪の美青年へと恭しく頭を下げている光景は、背景の綺羅びやかさも相まって非日常的過ぎる。
突然、そんな寸劇を目の前でみせつけられてパニック寸前である。
「いやいやいや、兄ちゃん達なんや!? 二人の世界で遊んどらんと、ウチの質問に答えてんかーっ」
混乱の渦の中にいる彼女を余所に、マイペースに会話を続けている美形二人に思わず突っ込んでしまった。
若干、放置気味な事にじんわりと涙目になってしまったのは仕方ないだろう。
それでもこっちに注目してもらうため、頑張って声を張ってみた甲斐あって存在に気づいてもらえたようで、二人の視線が再度、こっちに向いた。
「これはこれは……失礼いたしました」
「それとな、なんや勘違いされとるようやから言うとくけどウチは幼女やない。ピッチピチの女子中学生やで!?」
「え? そのジョシチュウガクセイ……とはなんだ?」
「さあ? 何かの職業でしょうか?」
「……通じへんてどんだけや」
「ではレディ、何歳かお伺いしても?」
「そんなん、見た目通りの十四才やん」
「……え?」
「え?」
「……これで後一年で成人、ということですか」
「信じられないけどそうみたいだね」
「いやはや、こんなにどこもかしこもちんまりと……いや、おほん。術式は問題なさそうですし、この小ささは異世界仕様とかそういう……あ、いや失礼」
「……あんた全然失礼やて思てはらへんやろ」
「おやおや、これは。どなたかと同じことをおっしゃいますね」
「今のあんたの受け答え見てたら、みぃんな同じこと言うと思うで?」
「うんうん、そうだよねっ。よく分かっているじゃないか、お嬢さん」
「……陛下」
「はははっ、本当のことだろ? いやぁ、この子いいよっ」
「……早速、お気に召されましたか」
「まあね、その為の召喚だし。とにかく俺は気に入ったよ」
「それは、ようございました。では、今回の召喚は成功した……ということですね?」
「ああ、完璧だよ。ご苦労だったね、魔導師長」
「恐れ入ります、魔王陛下」
――ねぎらいの言葉をかけられた魔導師長は誇らしげに微笑みながら、己が主に向かって恭しく頭を下げたのだった。
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