第4話 説明されました



 欲は止まることを知らず、一度も訪れた事がない魔大陸についても食指を伸ばしてくることに……。


 どうやら隣の芝は青く見えるようで、資源の宝庫に違いないと盲信しているそうだ。何とかして自分達のものに出来ないかと度々軍を動かしては、海峡に跳ね返されていた。


 度重なる敗北という事実を認められなかった人間の支配者達は、信仰する人族の神に祈り、助力を乞い願った。


 ――その結果、多くの犠牲を伴ったものの、ついに異世界から聖女を召喚することに成功したのである。




 効果の程は、魔族にとっての魔女と同じ。聖女の祈りは増幅器のような役割を持つため、人間達の能力の底上げしてくれる。


 特に勇者とか呼ばれる者達が使う聖魔法は、聖女の祈りで強化されるため、徐々に攻撃が届くようになってきてしまった。


 闇魔法の得意な魔族は、それと対をなす聖魔法の攻撃を苦手としている。魔族の中にも聖魔法の使い手はいるが、圧倒的に少なく対策が後手に回った。


 対抗手段を手に入れた人間達は神に感謝し、領土拡大を夢見て嬉々として攻め込んできているのだという……。




「全く、好戦的で困ったものです。フフフッ、強欲で小賢しい人間どもめがっ」


「な、成る程ぉ。そうゆうことやったんやー」


 纏っていたキラキラ成分がドロドロ成分に変化して、闇を背負ったようになった今の魔導師長様は、ちょっと想像上の悪役魔族っぽくて背筋がゾクゾクした。


(おぉ怖っ、絶対怒らせやんとこ!)


 後塵を拝することになった魔族だが、こちらも人族に対抗するために、戦力増強を狙って古から伝わる選定の儀を行うことになった。


 そしてついに今日、魔族と共に戦ってくれる異界の魔女を召喚した……とのこと。




「で、その召喚された魔女というのが貴女だ」


「じょっ、冗談!? ウチは普通のか弱い女の子やってっ。魔女とかやないし、戦とか無理無理無理!」


「う~ん。でも君、魔力総量が凄いんだよねぇ」


「へ? ま、魔力?」


「そう、魔力。おまけに俺の魔力との親和性も高い」


「し、親和性?」


「はい、素晴らしいです。ゆくゆくはその適正を生かして是非、魔王陛下の花嫁になっていただきたいものですねぇ」


「な、な、なんっ……は、花嫁やて~!?」


「ええ、是非っ」


「……あかんわ。なんやしらんけど全く理解出来へん。宇宙語喋ってはらんと、ウチにも分かる言葉で噛み砕いて話してくれへんやろか!?」


「う~ん、最初からもっと分かりやすくですか? そうですねぇ……じゃあ君はもう帰れません?」


「何で疑問系なんや。そしてまたエゲツないこと言いよってからに……ってホンマに!?」


「うん、魔導師長の言う通りだよ。彼は意地悪だけど嘘は言わない」


「貴方はいつも一言多いですよね!?」


「俺は事実を言ってるだけですぅ」


「魔王様っ」


 唖然としている彼女を放って、又々二人は言い合っている。かれこれ数百年、こんな状態なので諦めて貰うしかない。


「そんな……。せやかて急におらんくなったらみんな心配するし、悪いけどウチを帰して欲しい」


「う~ん、そうかぁ。でもね、君は向こうの世界で死んじゃってるから帰せないんだ」


「へ?」


「はい、間違いなく」


「……衝撃の事実その二や。驚きすぎて突っ込みづらいわぁ。それ、ホンマのホンマにホンマの事なんか?」


 嘘であって欲しいと必死な顔で男達を見上げる。二人は顔を見合わせた後、再び彼女を見た。


「ああ、自覚なしかぁ。まあ、しょうがないよね」


 紫の長髪を持つ美青年、魔王陛下は、現実が受け止めきれない彼女に、異世界転生の経緯を優しい口調で説明してくれた。




 ――曰く、死んだ魂の中から、救済の魔女に適応できそうな資質のあるものを選び、この世界へと引っ張ってきたとのこと。


 探しだされた魂は、魔導師長らが創造した新しい器に入れられ、魔術を使って定着させた。それが今の彼女になるらしい。

 ちなみに召喚されてからすぐにこちらの言葉がの通じたのは、器を創るときに自動翻訳される術式を書き込んだからだと教えてくれた。


 元いた世界ではすでに、彼女の体は消滅している。その瞬間の記憶が空白なのは、魂が異界渡りをした衝撃なのではないか、と……。


 そう説明してくれた上で、どうか、我らと一緒に侵略してくる人間族からこの国を守って欲しいと言われた。


 そして無事、勝利した暁には俺の后になって共に生きてくれたら……とかなんとか言って最後には口説かれたりもした。


 真面目に説明するのかふざけるのか、どっちかにしてくれと懇願したら、どっちも至って真剣だとキリッとしたイケメン顔を作って力説された。




 そもそも何故、救済の魔女として召喚したはずなのに、そんなに花嫁押しをするのかと聞けば、魔王陛下が即位されてからずっと、一人の後継者もいないことを憂えてのようだ。

 魔族は長寿なため、種族的に子孫を残しにくい傾向にあるが、魔導師長が言うには、魔力の親和性が高いとその限りではないのだとか。


 魔力の波長は一人ひとり違うが、ピタリと合う半身のような相手がそれぞれ、この世界の何処かにいるのだという。

 だが、高位魔族ほど魔力総量も多く条件が厳しいため中々お相手が見つからないらしい。


 そこで異界から救済の魔女を呼び寄せる際、ちょうどいいからと魔王陛下と相性のよい魂を選別して選んだ。


 陛下もお気に召されたようだし、きっと子孫が残しやすいはずだと、今度は魔導師長に力説された。勘弁してほしい。


 げんなりした顔をした彼女を見て最終的に、今現在は戦時中だし、具体的な話をするのは彼女が成人後にするからと譲歩してくれたのは良かったが……。


 ただし一応、そういった魔族の事情も考えておいて欲しいと懇願されたので、曖昧に頷いておいた。





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