Are You a King?
1.帝都の三悪党
1-1
ある日のこと。
「そういえばサク。こないだ言ってたグリフィンドルの駐屯地の炎上事件、追報とかないの?」
私から諸々の報告を受け取ったミソノ様が、そんなことを聞いてきた。
聖陽教会から下された清らかなローブに包んだ矮躯を椅子の上で折り畳んで丸くなり、首だけ巡らせて私を仰ぎ見ている。その姿勢、辛くないのかと思い、一度サイズを合わせた椅子のオーダーメイドを奨めてみたのだが、彼女曰く、「この方が落ち着く」とのことである。
「いえ。特には」
「ふうん。ちょっと捜査の手増やしといて。なんかキナ臭いわ」
「申し訳ありません。諜報部もそこまで余裕は……」
「ん。じゃあ今日一件手ぇ空かせるから」
「かしこまりました」
先月、私たちが白龍騒動に巻き込まれている間、ヌルメンガード領に足止めをしていたグリフィンドル軍の駐屯地の一つが炎上・壊滅したとの報がもたらされた。
その頃には既にゴイル侯が執政の府としていたバクスタ子爵家の屋敷は敵方に抑えられ、実質ヌルメンガード領自体もグリフィンドルに抑えられた状態だったので、こちらの情報収集も迅速にとはいかなかったのだが、それにしてもその事件の詳細が分からないというのは不審だった。
どうやらゴイル侯爵が残した最大の罠――
ただ、その後のイサム・サトウとセイカ・タナカが行方知れずとなっており、何かしらの関連があるものと見て引き続き調査を続けているところだった。
「やはり、あの二人が何かしらの事件に巻き込まれたのでしょうか」
「それか、あの二人が何かしらの事件を起こしたか、ね。言ったでしょ、あいつらアホだから、動きが読みづらいのよ」
「はあ……」
確かに、僅か数日とはいえ彼らの傍で過ごした私からしても、あの異世界の聖女の気性は読みづらい。どこに彼女の機嫌を損ねる要素があるのか分からないのだ。イサム・サトウも、あれでなかなか彼女には手を焼かされていたようであった。
あるいは、また例のシスターが何かやらかしたか……。
まあ、これ以上憶測を重ねても仕方がない。
今私がやらなければならないことは、先ほどの『今日一件手ぇ引かせるから』というセリフの詳細を聞き出すことだ。既に嫌な予感がする……。
しかし、私が口を開くより早く――。
「よう、聖女サマ! 今日もチンチクリンだな!」
どやどやと、騎士の一団が私たちの後ろから近付いてきた。
「ちゃんと飯食ってんのか?」
「そのローブ、サイズ合ってねえぞ」
彼らは、演習場を使った白兵戦の訓練に駆り出されるところだ。
彼らのうちの大半は先月来私たちとともにいくつかの砦の防衛戦を生き抜いた兵士たちであり、騎士団の中でもミソノ様やウシオ様に近しいものたちである。
一体どんなやりとりがあったのかは定かでないが、これから国王陛下の御身を守る第一師団の兵士たちと限りなく実践に近づけた演習とやらを行うらしく、どこか気合の入り方が違うように見える。
「よく見とけよ、聖女サマ。貴族の子息だかなんだか知らねえが、お城に籠ってヌクヌクしてたお坊ちゃん連中に吠え面かかせてやっからよ」
「そうだぜ。今日は祝勝会だ。聖女サマには俺ら全員にお酌してもらわなきゃな」
「もうちょい肉つけててくれりゃ、その後のお相手もしてもらうんだけどなぁ」
「俺は今のまんまでも構わねえぜ?」
「バカ、お前じゃ話になんねえ。おい聖女サマ。大人の階段上るときは俺に声かけてくれよな」
私が帳簿で演習予定のスケジュールを確認している横で、つまらなそうな顔をしたミソノ様が視線も合わせずに答える。
「いいわよ? その代わり、私ってホラ、チンチクリンだからさ。あんたの下半身にだけ石化魔法かけた上で、ちょうどいいサイズにまでヤスリで削らせてもらうけど」
「「「悪魔かてめえ!?!?」」」
「聖女よ」
そんな意味のないやりとりを挟みつつ、ゲラゲラと笑いながら演習の準備を始める兵士たちを見送る。
「はあ。全く、なんでここの連中は毎回挨拶ついでにセクハラしてくるのかしら」
「それが挨拶みたいなものですからね……」
一々気にしていてもしょうがない。
「ま、別にいいけど。ああ、そうだ。第一師団に肩入れしてる大臣いたでしょ? あいつの食事に下剤盛っといたから、トイレ全部封鎖しといて」
「…………」
「かしこまりなさいよ」
「理由だけ聞かせてもらえれば」
「だ・か・ら。あのカルロ伯爵とかいう師団長のせいで全然軍部の動きが統制取れないのよ。総団長は日和見すぎて話にならないから、もうアイツの発言力自体ガッツリ下げさせてもらうわ。取りあえず周りからね」
「それだけですか?」
「あと、あの大臣の裏金の流れがおかしいのよ。領地接収してる余裕はないから、息子脅して後継がせましょ」
「……それだけですか?」
「………………こないだわざとお茶ひっかけられたのよねぇ。『おやおや、聖女サマにおかれましては、まだオムツを召されたほうが宜しいのではないですかな?』とか言ってきてさぁ」
「……かしこまりました」
「そしたらそいつの周辺洗わせてた連中、ヌルメンガードに回せるでしょ」
そんなことを言っている間に演習は始まり、こちらが想定していたよりも早く第一師団側が陣形を崩し、師団長の怒声が響き渡るのも空しく、そこからはあっという間に決着がついた。
「早っ」
「そうですね。流石に想定外です。体力のなさが致命的ですね。帝都外周の走り込みを訓練に盛り込むよう総団長にかけあってみましょうか」
「あんた、最近シオに似てきたわよ?」
「…………」
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