第2話
窓から差し込む光で目が覚める。
昨日見た手紙は無くなりろうそくのそばには燃えカスが残っていた。
燃えカスを見て一粒だけ涙が零れ落ちる。
強く生きる、強くならなくてはいけない、心身ともに強く。
希望は捨てない、今捨ててしまえばこの体は動かなくなる、心を強く保たなくては。そして道場で稽古をつけてもらおう、今のこの貧弱な体のままではいけない、強く生きてと言われたんだ。
そうと決まればベノアのところへ行こう、自分にできることはそれくらいだ。
部屋を出て周りを見渡す。姿が見えたのはルミナ一人であった、ベノアがどこに行っているのか聞いてみる。
「あの部屋にいるわ、もう少しで道場のほうに行っちゃうはずだから間に合ってよかったわね、何か用事があったんでしょう?」
騎士になるための稽古をつけてもらおうと思っていることを話した、手紙の内容は話さなかった。
「そう・・・うん、強くなることはいいことだ、頑張るんだぞ少年」
そう言って背中を押してくれた、とても暖かい手だった。
後押しも受け部屋に入りベノアに伝える。
「自分にできることがないか考えてて、二人に何でも任せきりになってる今のままじゃ嫌で、今何ができるか考えて、そして・・・」
上手く話せない、強くなるために稽古をつけてもらおうとしているのはいいが、はたして強くなれと言われたから強くなろうとしていないだろうか。
違う、親を探すために、一人は何もできない力のない自分を変えるために強くなるのだ。きっと、今でも心の奥底では感じているのだ、離れ続けての届かないところに行ってしまっていると考えている、焦っている、こんな自分では何もできないとわかっているのに。
それが原因で遠回りするのを怖がっているのか?
言葉が出ないまま考え込んでしまった、そんな自分の頭をガシガシと撫でながらベノアは言った。
「言葉にできなくたっていいさ、お前の中ではしっかりとした理由があるんだろ?その理由のために強くならなくちゃいけないなら協力するよ。でも、同情して手加減なんてしないからな、そこは覚悟しておくんだな」
「はい、頑張ります!」
そうと決まればさっそく道場に行こうかと二人で向かうことになった。ここからはあまり遠くないところにあるらしい、向かっている途中道場がどんなところなのか聞いてみた。
「ん、道場は騎士を目指す奴がやってきてる場所だからな、みんな一生懸命剣を振っているよ、でも最初は剣を振るだけの力をつけなきゃいけない、だから最初は体力つけるくらいしかしない。ま、剣と同じような身長の子どもが剣を振り回していたら危なっかしくて見ていられないからな」
笑いながらそう言った。
そういえば剣を間近で見たことはなかったかもしれない、騎士というものも出かけた先で遠くから見かけたことがあるくらいであまり詳しく知らなかった。
そうだ、今まさに隣にいるこの人は騎士として生きていたそうではないか、道行く人と比べて特別体格がいいというわけでもないが確かについている筋肉を見て剣をふるっている様子を想像すると子どもながらに強そう、かっこいいと思った。自分もこんな風になれるだろうか、なるために頑張ろう、そんなことを考えているうちに道場についた。
「今日一日は見学ってことでいいな、最初は練習してるのを眺めていたほうがいいだろう」
そう言ってベノアが中に入っていく、それについて私も中に入っていった。
中には人が十人ほどいた、歳は様々で私と同じくらいの子どもからもう大人と比べて見劣りしないような青年までが同じ部屋にいた。指示され部屋の隅に座って全体を見ていた、少しの間やり取りがあってからいよいよ稽古が始まった、全員が同じ体格なわけもなく中には一回りも体の大きな相手に向かっていく姿も見えた。
その姿は私にはとてもかっこよく見えた。
稽古の様子を見ている私の隣に座りベノアは言った。
「どうだ、これが騎士になるための、剣を振るい国を守るための稽古だ。まあこの国はいつも平和で剣が活躍することなんてほとんどないんだけどな」
笑いながらそう話し、こう続けた。
「でもな、いつ戦争が起こるかもわからない、起こさないために働くのもあるが万が一戦争が始まってしまった時のためにこの国には強い人間が必要なのさ。だからここにいる人間はみんな強い意志を持ってる、生半可な覚悟で騎士になることを目指す人間はいないのさ。どうだ、お前にその覚悟はあるか?」
覚悟は自分と同じくらいの子どもがその小さな体で小さな木の剣を構えている姿を見たときにできていた。騎士として力をつけて両親の隠していた事を調べ上げ必ず解決してみせる。
「覚悟はできています」
精一杯の誠意を見せてそう言った、少しの沈黙の後ベノアは口を開いた。
「そうか・・・わかった、じゃあ明日から一年は体作りだ」
「はい、わかりました」
その後、これからすることになる稽古の内容を聞いた、初めの一年は体作り、十歳になるまでは体の大きさに合わせた木の剣を使っての稽古をする。確かに周りは刃こそないものの金属でできた剣を持っていたがあの人と、稽古の相手をしていた人はは木でできた剣を使っていた。
長く厳しい道かもしれないけれどこれが今の自分にできる最大限のことだと信じている。
そう決意してその日は稽古の様子を見て終わった。
次の日の朝、役所に出かける前のベノアに今日一日、どんなことをすればいいかを聞いておいた、練習の内容はばっちり頭に入っている。それとついでにお店の手伝いをしてあげてほしいと言われた、休みの日はいつも手伝ってあげているそうだその代わりをしてあげてほしいというのと、なかなかの力仕事らしく体を鍛えるのにいいだろうと言っていた。言われた通りの運動をして手が欲しいと言われたときには飛んで手伝いに行った、ルミナは一生懸命働く私を見て微笑みながら応援してくれた、今日は休む暇なんてない忙しい一日だった。
夜、くたくたになって部屋のベットで横になっていたとき玄関の扉が開く音が聞こえる、ベノアが帰ってきた。
私を呼ぶ声が聞こえる、体を起こし呼ぶ声のもとへ行く。
「よかった、起きてたか、今日はお疲れ様。今日のことを話しておいたほうがいいと思って呼んだんだ、結論から言う。役所はお前の両親のことはわからないと言っていた、調べてみるとは言っていたが行方が分からなくなってからしばらく時間が経っている以上すぐには見つからないだろう・・・いや、ごめん、重い話だったな。今日はもうゆっくり寝るといい」
振り返り部屋に戻る。その時、後ろから手が伸びてきて私の体を包み込んだ。
「大丈夫だ、心配はいらない」
涙をこらえながらそのあたたかい腕の中で今一度覚悟を決めた。
部屋に戻ってから寝るまでの間、今日やったことを繰り返していた。少しでも無力な自分を変えたくて。その一心で今日一日でくたびれて動かなくなっていた体を動かしていた。
無理に体を動かし、腕も足も、体中が悲鳴を上げていた。
その日、いつ眠ったかは覚えていないが朝日を浴びたとき自分は床に倒れていた。
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