#02 Waist-level Finder

 彼女が腰のポーチから取り出したそれを見て――俺は目を見張った。


「――えっ!?」

 見たことも無いようなカメラ――だよな? レンズ付いてるし。なんか縞々模様で面白いレンズだな。

 見た目は幅の狭い一眼レフ。幅は狭いのに厚みはあるので全体にとしていて、おにぎりっぽい。

 だが、シャッターダイヤルや巻き取りレバーらしき物が軍艦部に見当たらない。左右に大きめのノブが鎮座しているのみ。

 てか、ファインダーも無いんじゃないかこれ!?

 などと、内心ひとりで混乱していると、店長は「ほぉ」と感極まったような声を漏らした。

「こりゃまた珍しい――僕も実物は初めて見たな」

「使えるの?」

「あぁ、これは大丈夫だね。シャッターは――」

 バコン、と重く鈍い音がする。あれ、今どこを押したっけ?

「切れてるな」

 そう言って、右手側のノブをぐりぐりと回す。あれが巻上げノブ? いや、でもまだフィルム入れてないし――!?


「て、店長――?」

「ん?」

「そのカメラ? ファインダーどこなの?」

「あー……そうそう。こいつは折り畳み式だから解りにくいね」

「折り畳み!?」

 まぁ見ててごらん、面白いから――と言いながら、本来ファインダーがあるはずの軍艦部中央、後ろの辺りを触っている。

 不意にカシャンと小さく乾いた音がして、その辺りが持ち上がった。

「!?」

 持ち上がったと言うよりは、折り畳まれていた壁のような物が開いて、四方を囲む塀のようになっている。

「で、ここを、こう――でいいんだったかな」

 壁の正面の裏側から何かを引き上げた。ルーペ?

「これで完成かな。上から覗いてごらん」


 カメラを渡された彼女は腰だめに構えて上から覗いているが、えらくふらふらしている。

「店長さん――何かこれ、ものすっごく見づらいんだけど――?」

「それは鏡写しだからねー。左右が逆なんだよ。だから右を見ようと思ったら左に向けるんだね」

「えー……」

「まぁ、慣れだよ慣れ。どうしても無理なら、このルーペを元に戻して、正面の蓋を上げれば――」

 え!? あの正面の窓みたいなのって、ホントに窓!?

「ほい、透視ファインダーの一丁上がり」

「あ、これならいいかも」

「ただね、これはあくまでも構図の確認にしか使えないから、ピントはさっきの奴で合わせてね」

「なんかいちいち面倒なのね」

「ははは、そりゃしょうがない。これ、そうとう昔のカメラだからね」

「確かに見た目からして古そうだけど――俺のSPより古い?」

「そうだねー……君のSPも大概だけど、そっちのがもっと古いな。その外観だと第1世代だから昭和20年代後半から30年代前半くらいじゃないかな」

「うぇ!! マジかー……ウチの親と同世代……」


「まぁ、動きは問題なさそうだからフィルムを入れて見るかい?」

 店長の言葉に、思わず彼女と顔を見合わせる。

 白皙の頬に朱が差して仄かに上気した彼女がその双眸を炯々として俺を見ている様に、思わず心の中でシャッターを切っていた。

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