ピュアクローム・ガール

ひとえあきら

#01 Monochrome Boy

 あの頃まで、俺の目に映る風景はモノトーンだった。

 彼女が現れるまでは――


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 今日もまた放課後の鐘が鳴る。

 俺はさっさと帰り支度をして自転車小屋に向かう。

「お前さー、部活なんかやんねーの?」

「いやー、運動はどうもねー(^^;」

「おいおい、運動神経ブチ切れてる奴になんというご無体なことをw」

「そーゆーことで、ワタクシは帰宅部ですっ!」


 学校帰り、自転車を流しながら時々止まっては1枚、また1枚。

 毎日通っている通学路でも何かしら発見はあるものだ。

 明日は土曜だし、帰りにちょいと遠出して港の方にでも行ってみるか。

 ちょっと奮発してトライXでも……あ、フィルムの残り3枚だ。

 いかん、これはどっちみち買っとかないと。

 帰りに寄ってくか、パインカメラ。


 『パインカメラ』は本邦南端の限りなく僻地に近い我が町では最大手のカメラ屋で、とにかくフィルムの種類が豊富なのと時々期限切れ間近の商品が安く並ぶので、俺は専らここに入り浸っている。

 我が愛機もここの中古の棚を何ヶ月も矯めつ眇めつして漸く手に入れた。

「こんちわー」

「お、久しぶり。今日はSSかい? それとも普通の?」

「トライX、24枚と…あ、今日のセールはモノクロ無し?」

「最近はモノクロも出なくなってきたね。たまにはカラーも使ってみたら?」

「俺の主義に反する!!」

「ははは、いいねいいね、若人よ。ではこのネオパンは半額にしとこう」

「え、いいの?」

「こいつもあまり動かないしね。ほら、箱がかなり色褪せてる」


「……白黒だけなの? なんでカラーじゃないの?」

「をわっ……! な、何、いきなり」

「なんか大っきなカメラ持ってるからさ、白黒だけって勿体ないなーって」

 唐突に横合いから現れた彼女―歳は俺と同じくらいか―に口を挟まれて我ながら情けない程に狼狽えてしまった。何なんだ、この距離の近さは。

「なんで?」

「何が!?」

「だからなんで、白黒だけ?」

「――っ! 主、主義なの! 本質の表現に色は要らんっ!」

「わかんなーい」

「いやだから、写真の基本は"モノクロ"で――」

「ものくろ? 基本?」

「あーもー! だから――」

「キミ、自分で言ってて意味解ってる? あたしさっぱりなんだけどー」

「いーんだよっ! 別に! 好きでやってんだからっ!」

「あ! なんだ白黒が好きなの。最初からそう言やいいのに」

「……(´・ω・`)」


 ここで店長が笑い出した。

「はははははは……いやいや、こりゃ難しいわ。僕でも説明しきる自信ないかなー」

「えー、店長までそんなこと……」

「写真は理屈も技術も大事だけどね、感性が第一だろう? それは簡単に説明できるもんじゃないよ」

「そりゃそうだけど……」

「あたしはカラーで撮って欲しいけどなー。白黒ってお葬式のみたいじゃん」

「"白黒"じゃなくて"モノクロ"!」

「おんなじでしょ」

「単純に白と黒って訳じゃないんだよ! 焼く紙やフィルムでも色の温度が――」

「でもカラーにはならないんでしょ?」

「あー言えばこー言う……」


「実際にさ、撮ってみればいいじゃないか」

 と、ここで店長の助け船。

「さっきのネオパンは君のSPに入れて」

 半額大特価のネオパンを渡された。

「ここに大特価!100円フィルムがあるから、これを――」

 どうしよう? と一瞬、首を捻る。

 と、彼女がその白地に緑で商品名の書かれた箱を不思議そうに見て、

「――何これ? "業務用"?」

「そう。工事現場なんかで大量に撮るための奴だね。箱やなんやを簡素化して安くしてるんだが、中身は普通のカラーフィルムだよ」

「へぇ――あの、これ、そのフィルムって使えるの?」

 彼女が腰のポーチから取り出したそれを見て――俺は目を見張った。

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