私と絵里さん(泥棒猫)
あの日から数日後、たまたま買い物にスーパーに来ていた時に絵里さんとばったり出会ってしまった。
「あら?麗子さん。こんにちは」
「……。こんにちは。何か買い物ですか?」
社交辞令のような挨拶を交わす。はっきりいって顔を見たくもない。私はこの人が苦手というか嫌いである。
夫婦になったたっくんと私の間を土足で踏み荒らしてくる図々しい女。それが私の認識である。たっくんと幼馴染であると同時に私と絵里さんは高校時代の同級生である。
知らない間柄では無い。
「ちょっと今日の晩御飯をね。麗子さんも?」
「そうです。たっくんの好きなカレーでも作ろうかなと」
たっくんは私の作るカレーが好きであり、カレーの時は3合くらい軽く平らげてしまうほどである。ただこの言葉を聞いて絵里さんの笑ってはいるが眉は少し引きつったように見えた。
「そ、そうなんだ。私も食べてみたいなー」
なんて感情の子持ってない言葉だこと。そんなこと微塵も思ってないくせに。たっくんと私が幸せそうなのが彼女は気に食わないのである。
「今度夕食でもどうですか?」
「えへ?麗子さんの家で?」
「いいえ、私と2人でです。」
そんなわけないだろうと私は思った。とにかくたっくんと絵里さんを合わせたくない。そんなの嫌だから。たっくんの優しい笑顔が他の女に向けられるのは私は嫌だ。
私が言いたいのは、2人でじっくりと腹の探り合いでもやろうと意味である。今既に始まっているようなものだけど。
「はは、ですよねー。麗子さんが私と拓真を2人っきりにするなんて滅多ことが無い限りないものね?」
やっぱり向こうもわかっているようね。私に軽く牽制してきている。
「そんなことありませんよ。ただ女2人で話したいこともあるじゃないですか?」
「ふーん、それって拓真に近づくなって面と向かって忠告をしたいのかしら?」
彼女は、不敵な笑みでそういった。向こうがその気であればこちらもそれ相応の対応をしようと思う。
「そうですね。たっくんにこれ以上近づかないでほしいんですよね」
「麗子さん。そんなに束縛激しいと拓真に嫌われちゃうよ?」
本当にムカつく女ね。せっかくいい気分で買い物に来てたのに気分が台無しである。
もうこの話は切り上げて買い物に専念しようと思った。
「ご忠告ありがとうございます。私は買い物があるからこれで失礼しますね」
「そうやって幸せでいられるのもいつまでなんだろうね?麗子」
私の名前の呼び方が変わりハッとなった。いつぶりだろうか。彼女が私の名前を「麗子」と呼び捨て呼んだのは。
「その呼び方は久しぶり聞いたわ」
「まぁ、私もそう呼ぶのも久しぶりだしね…」
「だって私たち…元親友だもんね」
元。今は違うという意味である。私と絵里さんは彼女の言うとおり、元親友である。今はこんな感じではあったが前は確かに仲がよかった。
ではなぜ元になってしまったのか。それには明確な理由がある。その理由はたっくんであるが、彼が悪い訳では無い。
そういう運命だったという方がわかりやすい。それに今更友達に戻りたいとも思ってもないので別にこれでいい。
「女の友情儚いって言うでしょ?」
私はあえてそう言った。実際儚かったし。親友でも容易く崩れるようなものであった。
「儚いよねー。ほんと…」
それ以上何も言わなかった。今の幸せの対価にはちょうどいいくらいのものである。
「まぁでもあれがある限りいつまでも幸せとは無理だとは思うけどね」
「脅しのつもり?」
「脅しだよ。私から拓真との繋がり絶とうとしているアンタにね?」
彼女は気が強いところがあり、頑固なところもある。一度決めた以上曲げたりすることはない。
「でもまぁ、拓真の性格だからあれですぐに変わるとは思えないし。まだその時じゃないしね」
遅かれ早から何かしらのアクションは彼女は起こす。その前にこちらも何かしら策を立てる必要がある。
私とたっくんとの幸せな未来を守るために。
「じゃあね。麗子さん」
「また、いずれ会いましょう」
そう言って私たちは別れた。
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