番外編 とある日の兄と恋愛姉妹
まだ私と恋ちゃんが小学生の時の話。私たち姉妹と兄さんは9つ離れている。
お母さんは仕事で忙しかったこともあり、ずっと兄さんに面倒を見てもらっていたのだった。兄さんは私たちを本当に可愛がってくれた。
そんな優しい兄と私たち双子の今から少し前の話である。
「ただいまー」
兄さんが学校から帰ってきた。高校生になり、勉強も忙しくなる中で家事をしていた。
もちろん部活も器械体操をやっており、一緒にお風呂入った時に、引き締まりカットの入ったかっこいい身体をしていたのを見たとこある。
「あ、兄ちゃんおかえりー」
「兄さんおかえりなさい」
「おう、ちゃんと留守番できたか?」
兄さんはリビングで遊んでいた私たちの頭撫でてそう言ってきた。
優しい手つきで撫でられてとても心地が良かった。
「当たり前じゃん!恋も愛も、もう小学生だよ!?」
「恋ちゃんは私がトイレに行っていないとき落ち着いてなかったけどね…」
「ち、違うもん!そんなんじゃないもん!」
恋ちゃんは慌てふためいて否定していた。その様子を見て兄さんは楽しそうに笑っていた。
「わかったわかった。恋は1人でもお留守番できるもんなー」
そういうとまた恋ちゃんの頭を撫でてニコニコしていた。その様子を見てちょっと私はムッとなった。
恋ちゃんばかり撫でて貰って羨ましかった。兄さんは私の兄さんでもあるから独り占めはずるいと子供ながら思っていたのだった。
「兄ちゃんお腹すいたー。なんか作ってー」
夕食前だというのに恋ちゃんはお腹の虫を大きく鳴らしてそういった。ちなみにおやつにお母さんが作り置きしていたいちご大福を恋ちゃんは私より多く食べていたくせに。
「もうすぐ夕ご飯だから我慢しなさい」
「えぇ〜お腹すいた〜!!すきすぎて死にそう〜!!」
地団駄を踏んで恋ちゃんは兄さんにおねだりしていた。そんな恋ちゃんを見て困り果てた兄さんはこちらを見て来た。
「愛もお腹すいたか?」
「えっと…。少しお腹すいた…かも…」
おやつを大半食べられてたこともあり、少し小腹はすいていたのでそう答えた私である。
「じゃあ兄ちゃんがアレ作ってやるよ」
「ホント!?やったぁ!!」
恋ちゃんは大声を出して喜んでいた。アレというのはホットケーキである。ただ兄さんが作るホットケーキはミックスを使わないでメレンゲを泡たてて作るものである。
私たちの大好物でもある。
「愛ちゃん愛ちゃん」
「なに?」
恋ちゃんは私の名前を呼んできた。なんとなくであるが言いたいことがわかった。
これが双子のシンパシーと言うやつなのかよく分からないが。
私は思わず笑ってしまった。
「兄ちゃんは私たちに甘いね」
「そうだね」
兄からしてみれば年の離れた可愛い妹たちのお願いであるから聞いてあげるているという優しい兄であるが、まだ小学生の私たちからしてみればお願いをなんでも聞いてくれる奴隷のようにも思っていたのである。
「兄ちゃんー」
「なんだ?」
キッチンにてホットケーキを作っている兄さんに恋ちゃんが話しかけた。
「絵里姉ちゃんは?」
「今日は部活だよ」
兄さんの幼馴染で私たちにとっても姉のような存在である絵里さん。小学生の時は絵里お姉さんと呼んでいたが。
「そうなんだー。彼女がいなくて寂しいね」
笑いながら恋ちゃんはそういった。
「ちが、バカ!そんなんじゃないって!」
恋ちゃんからの言葉に動揺を見せる兄さんであった。この頃からなんとなくである兄さんは絵里さんのことが好きなんだろうなと思っていた。
ずっと一緒にいたし、普通に考えてそうだろうなと思った。
というか付き合っているのだと思っていた。
「いいか2人とも。僕と絵里はただの幼馴染。OK?」
「でもずっと一緒にいるじゃん。デートにも行ってるし」
子供純粋な言葉に兄さんは困り果てていた。そして同時顔を赤らめており、やっぱり好きなんだと思った。
「あはは…。まぁただの友達付き合いだよ」
今考えてみたら、なぜこの2人がくっつくことがなかったのか分からない。
でも何かがあったのだろうと今の私は思う。
しばらく2人でテレビをみて過ごしていると、兄さんがお皿を持ってやってきた。
「ほらできたよ」
お皿に1人に2つずつ盛られてきた。黄色の生地にいい感じの焦げ目が付いていていとても美味しそうである。
「やったぁ!!さすが兄ちゃん!!愛してるぅ!!」
恋ちゃんはいかにも軽いノリで「愛してる」と言っているが私には到底できない。双子の姉妹とはいえ、性格はまるで違い、底抜けの明るさのある恋ちゃんならではである。
「ちゃんと手を洗えよー」
「わかってるって!愛ちゃん手洗おー?」
「うん。そうだね」
恋ちゃんに言われ私たち2人は洗面所でハンドソープを使ってしっかりと手を洗ってきた。
そしていざ、兄さんの作った特性ホットケーキを食べることにした。
「「いただきます」」
「まだおかわりあるからなー」
兄さんはフライ返しを肩に担いでそう言った。
「気が利くねー兄ちゃん。そんな感じなら女の子にモテるでしょー?」
恋ちゃんはメイプルをかけてホットケーキを頬張りながらニヤニヤした顔で兄さんの方を見ていた。
「まぁ…。でもそうでもないぞ?」
「またまた〜。絵理姉ちゃんのことしか眼中に無いから〜?」
なかなかにませている恋ちゃんは恋愛話が大好きである。自分たちの部屋にいる時など、私によく恋愛について話をしてくる。
正直私は恋なんてよく分からない。同級生の男の子をかっこいいや、好きだなんて思ったことはない。
「恋!兄ちゃんをおちょくってるとおかわりあげないぞ!?」
兄さんは顔を赤らめてフライ返しを恋ちゃんに向けた。わかりやすい兄さん。
絵理さんのことが好きなのが丸わかりである。
実際よく2人でいるのを見かけるし、普段の会話や行動的に見ればどう見ても付き合っているようにしか見えない。
しかし、現状付き合ってはおらず幼馴染のままで停滞している。兄さんがヘタレなのもあるが…。
「大人気ないなー。そんなんだから絵理姉ちゃんに振り向いて貰えないんだよー?」
恋ちゃんは明るさからくるものなのか、怖いもの知らずで、このような発言をよくする。
たまに空気の読めない発言をして他の人怒らせることもある。その時は私も余計なとばっちりを食らう時がある。
私は黙々とホットケーキを頬張っており、二人の会話を目でおっていた。
「恋ちゃーん?そんなこと言っていいのかな?兄ちゃんもう愛ちゃんの分しかご飯作らないけどOK??」
妹に酷い言われようなことにカチンときたのか。ご飯抜き作戦に出てきた。
「いいよ?でもいいのかなぁ?絵理姉ちゃんにこのこと言っちゃうけど〜?」
恋ちゃんも負けじと切り札の絵理さんを使ってきた。絵里さんは私たちを本当の妹のように可愛がっているから兄さんには分が悪い。
「くっ…。はぁぁ…。なんで双子でこうも違うかね〜。同じ双子でも愛ちゃんは大人しく可愛いのにな」
「え…?」
私はその突然の言葉にフォークが止まってしまった。今まで恋ちゃんとばかり会話していたのに突然こちらに方向がかわり驚いてしまったのだった。
「兄ちゃんはこれから、愛ちゃんだけを可愛がろうかな。でも恋ちゃんは大丈夫だよな?絵理姉ちゃんがいるからな?」
兄さんはキッチンから私の方にやってきて私の隣に座り優しく抱き寄せて頭を優しく撫でてきた。部活で作った豆でゴツゴツしてはいたが、妙に心地が良かった。
「ちょ、なんで愛ちゃんだけ!!?ずるい!!私も可愛いでしょ!!?」
「兄ちゃんに酷いことを言う人は知りませーん。愛ちゃんは可愛いなぁ。よしよし」
兄さんの匂いが伝わりどこか頭の中が気持ちよかった。それに温もりがあり暖かい毛布のように包容力があった。
「兄さん…。恥ずかしい…」
「あぁ!!ごめんごめん。つい」
自分の顔は見えてないが熱い。おそらく赤くなっているかもしれない。
咄嗟に恥ずかしいと言ってしまった。本当はもう少しだけ撫でて貰いたかった。
「むぅ……」
頬を膨らませて怒っている恋ちゃんの顔が見えた。あまり見ないようにまたホットケーキを静かに食べることにした。
「愛?美味しいか?」
「うん…。美味しいよ…」
兄さんは私の言葉聞いてニコリと笑っていた。
その時、私の胸が高鳴ったのはどうしてだろうか。別に可愛いなどの言葉は初めてではない。
撫でられるのも兄さんからはよくしてもらっていた。
なのになぜこの時こんなに胸が高鳴ったのか。
おそらくは恋ちゃんのせいだ。毎日毎日恋バナをされて変に意識してしまっていたのだろう。
きっとそうだ。多分…。
だって私と兄さんは兄妹だから…。
小学生の私にとっての初恋は同級生でも先生でもなく、兄さんであるということをこの時はまだ理解していなかった。
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