疫病神【 トラブルメーカー⠀】
あの後妻はどこか青ざめており、気分が悪そうにしていた。
そしてその背後にはニコニコと笑っている絵里が立っていたのだった。
リビングには僕の母親と恋と愛、そして妻と絵里が共にいたのだが、こうして見ていると女性ばかりで、どこか肩身が狭い。
「麗子…大丈夫…?顔色が悪いけど?」
「え…?いや、なんでもないの!」
笑ってはいたものの、どこか元気なさはあった。そんな僕と麗子の間に割ってはいるように恋が妻の腕に抱きついて来たのだった。
「ねぇ麗子お義姉ちゃん!どこか出かけようよ!」
「そ、そうね…。どこに行きたいの?」
妻は妹に優しく話しかけた。しかしどこか引きつったような顔をしていたのだった。
僕はそんな妻のことが気になっていたのだが…。
「だったら麗子さんと恋ちゃんたちでどこかにいったらどうかしら?ね?拓真?」
「そうだな。何処かに行こうか?」
絵里が提案をしてきたこともあり、久しぶり地元に出かけてみたいと思い聞いてみた。
「ううん。せっかくだから麗子ちゃんと
絵里はそう言って妻の方を見ていた。一方の妻はどこか引きつった笑顔をしていた。
どうもおかしい。先程の件で2人が普段通りに振る舞い、何もなかったかのようにしている。
明らかにそんな状態なれるとは思えないのだが。
「いいこと言うじゃない絵里ぽん!拓真!あんたは絵里ぽんと留守番してなさいよ?どうせ絵里ぽんは腐れ縁みたいなもんだから何も起きないでしょ?」
僕が妻の心配をしている時にふざけたこといいやがって。もう少し息子を可愛がるということを覚えて欲しい。
それにそんなことしたら、絶対にまずいことがおきる。先程に加え、前にあんなことがあったからこそ、僕と絵里が2人だけの空間はまずい。
いやもちろん、妻一筋であるから一線は超えることはないにせよ、絵里は何を考えているのか分からない。
そもそも、妻がそれを許すとは到底思えないのだが。
「もちろんですよおば様。私と拓真はただの幼馴染ですから」
「じゃあ行こうか!我が娘たちよ!」
「はーい」
「う、うん…」
「……はい…」
妻の普段からではありえない様子に驚くしかなかった。
いつもなら強く反対するはずなのに、今日は何も抵抗をしなかったのだ。
明らかに変である。僕は妻に尋ねることにした。
「れ、麗子?大丈夫か?」
「…だ、大丈夫よ…でも…」
「大丈夫だって!おば様も恋愛姉妹もいるんだから」
強い口調で僕と妻の会話を絵里は遮った。その言葉にどこか怒気を含んでいたようだった。
心做しか顔も笑ってはいるが目の奥が笑ってはいなかった。
こうして僕はまさかの絵里と2人っきりで実家にいることになった。
「おい絵里、お前何か麗子に吹き込んだのか?」
「え?なんのこと?私何も言ってないよ?ただ争うのはよそうって言っただけよ?」
カラカラと笑いながら絵里はそう話した。しかしそんなわけが無い。あの妻の様子を見て絶対に何かあったはずである。
絵里はあの日以来どうもおかしい。以前とは性格がどこか違う気がする。
「麗子のあんな顔見て俺は何も無かったとは思わない」
「だからなんにもないってば」
「嘘つけ。何かあったに決まってるじゃなきゃ麗子は…」
「麗子麗子…うっさいのよ!!!」
急に絵里は怒鳴り散らし、僕の身体を両手で強く押してきた。
久しぶりに激怒した絵里の顔を僕は見た。
僕はバランスを崩してソファーに倒された。そこに絵里は馬乗りになって僕の顔を見下すように見ていた。
「あんたは何もわかっちゃいない。あの女のこと!あいつがいなければあんたの隣には私がいたのに!!!」
僕には絵里の言っている言葉が分からない。というより内容が入ってこないのだ。馬乗りになられて、挙句に僕の隣には絵里が本来は居たなんて、もうわけが分からない。
「お、おい離れろって!」
僕は絵里をのかそうとするがなかなか動かなかった。
決して重いからでは無い。ただ単純に動かないのだ。
「無理よ。私は格闘技も小さい時からやったから、あんたも知ってるでしょ?」
バドミントンでイメージがついていたが、そいえばそうである。
絵里は格闘技もやっており、ガキ大将だった理由のひとつでもあったことをすっかり忘れていた。
「くっ!離せよ!」
絵里は僕の両腕を掴み動きを封じた。そしてどんどん顔を近づけてきたのだ。
「ねぇ?ドキドキしてるでしょ?」
「何を言って…」
絵里は僕の胸の方に耳を近づけて心音を聞いていた。
そしてふふっと笑っていた。
「身体は言葉よりものを言うってね…」
それはそうだ。いくら幼馴染とはいえ、女性にこのように馬乗りで近づかれらたら鼓動が早くなるに決まっている。
「はぁ…拓真っていい匂いがするね。近くにいるとわからなかったけど、離れて分かる…」
僕の首筋や鎖骨ふきんの匂いを絵里は嗅いでいた。
鼻息があたり、彼女の髪の匂いがこちらに伝わってくる。絵里の髪の毛はこれぞ女の子という匂いで、甘く惹かれてしまいそうになる魔性の匂いであった。
「そうだ…いいこと思いついた」
絵里はそういうと僕の首筋に口を持ってきた。ガブッと僕は首筋を噛まれたのだった。
「いっ!な、何すんだ!!?」
甘噛みよりは少し強めで痛かった。そして絵里は自分の舌で僕の首をぺろぺろと犬のように舐めていた。
「ふふっ拓真は私のものだって、印をつけておいたのよ?」
そう言って首筋から離れた。手をやると彼女の唾液がぬるぬると手に絡みついていた。
「お、お前どうするんだよ!こんなの麗子に見つかったらどうなるか!?」
「当たり前よ、見せつけるために付けたんだから…。まぁ幼馴染のスキンシップってやつよ?」
ため息が出てきた。鏡で見るとしっかりと歯型とリップがついていた。
リップはともかく、歯型なんてすぐに消えるものでは無い。こんなものすぐにバレる。
季節的にタートルネックなんて着るわけない。
これは麗子にどんなお仕置をされるのか。考えたくはなかった。
「そうだ拓真」
「…なんだよ?」
ニコニコ笑っている絵里は元気をすっかりなくした僕に話しかけてきた。
「麗子さんのことを知るいいキーワードを教えてあげる」
「な、なんだそれ?」
また急に何を言うかと思ったら麗子のことを知るも何も、僕は絵里より遥かに彼女のことを知っているつもりだ。
彼女の言葉に少しムッとしていた。
「キーワードは、
僕はその時絵里の言っている意味が全くわからなかった。
しかしその言葉の本当の意味を後に僕は知ることになる。
でもそれについては、またもう少し先の話になるだろう。
ただこの言葉だけは必ず覚えておいて欲しい。
「
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