幼馴染×妻=修羅場?
ある日僕は妻と共に僕の実家へとやってきた。僕達夫婦の住む住居とは駅で2つくらい離れている。
ちなみ実家は現在母親と妹の恋と愛が住んでいる。
電車を使い8分ほど歩いて目的地についた。僕が前暮らしてた時とは家の壁の色が変わっていた。
「あ、たっくんの実家着いたね?」
「壁の色かわってんなー」
駅からの道もたまに来ているとはいえ、面影が少しづつ無くなっている。なんというか、寂しく感じた。
今どきのカメラのついたセキュリティがしっかりしてそうな、インターホンを押した。
「はーい。どちらさま?」
僕達を出迎えてくれたのは我が愚妹の恋であった。
相変わらず色っぽいはずの口元の黒子を体型と童顔で無駄遣いしている可哀想な顔をしていた。
「あ、麗子お義姉ちゃん!と、愚兄か…」
「誰が愚兄だコラ」
妻との態度の差についイラッとしてしまう。普通に考えたら、兄を見て喜ぶものだろう。
「なんか失礼な顔してたからだよーだ!」
「あ、兄さんとお義姉さん。こんにちは」
「こんにちは。愛ちゃん」
「おう、愛はちゃんと挨拶ができて偉いな」
僕は愛の頭を撫でてあげた。彼女はまるで猫のように手の方へスリスリして気持ちよさそうにしていた。
恋とは違い愛はきちんと挨拶をしてくれた。同じ妹なのにどうしてこうも差があるのだろうか。
正直恋よりも愛の方が愛おしく感じてしまう。
愛だけに。うん。
「さぁ、入って入って!」
妻は恋に手を引かれてまるで遊園地で乗りたいものに母親の手を引っ張るように中へと連れていかれた。
「兄さん、いこ?」
愛は僕の手をひいて家の中へと連れていってくれた。やはり同じ姉妹でもこうも違うもののなのか。
昔は恋も手を引いて「兄ちゃん兄ちゃん」と言ってくれたのだが。
リビングにはソファーでだらしなくくつろいでいる母親がいた。
40代にしては若い容姿をしており、身長が170を超える長身でショートカットに紅色縁のメガネをかけた人である。
ただし中身は残念すぎるが。
「あら、麗ちゃんおひさー!相変わらず可愛い義娘だこと!」
「そんなお義母様可愛いだなんて、お義母様も変わらずお綺麗ですよ?」
妻を見た瞬間一気に元気になる。実の息子には目もくれず、妻の頭を撫でて抱きついていた。
そして妻もさすがの切り返しである。うちの家族にはないタイプの女性であるため、とにかく可愛いらしい。
「母さん、ただいま」
「あら拓。いたの?」
この扱いの差は一体何なのだ。お腹を痛めて産んだ子可愛い子供じゃないのか?
相変わらずうちの母親は息子に対して関心のない人間である。
とはいえ、麗子のことを大変気に入っており、おそらく実の息子や娘たちよりも可愛がっていると思う。
「ママ!私も麗子お義姉ちゃんに抱きつきたい!!」
恋も母親同様、妻に抱きついていた。ここは果たして僕の実家なのか。
間違えて妻の実家に来たのではないかと思ってしまうほどである。
隣にいた愛は冷めた目で2人を見ていた。
僕は少し呆れた顔をしつつ、久しぶりに自分の部屋へと向かうことにした。
階段を上がり4つある部屋のうち最も奥にある扉が僕の部屋である。
ドアを開けると僕のベッドの上でネコマタのクッションを抱き、体操座りで待っている人物がいた。
「なんでお前がいるの?」
「おば様から入れてもらったのよ」
絵里は不敵な笑みでこちらを見ていた。何か企んでいる悪そうな顔だった。
「拓真が来るってこと聞いてたから、ここにいるのよ?」
「いやそうだとしても、ここにいるのはおかしいだろ?」
この前の一件があるため、下手なことはしたくない。それにこんなところ妻に見られたらまたややこしいことになる。
「だって拓真と私は幼馴染でしょ?実家の時はこうやって毎日来てたし」
「それは昔の話だろ?いくら幼馴染でも限度があるぞ?」
その言葉を僕が絵里に言った時ムッとした表情でこちらの方へにやってきた。
そして詰め寄られてドアに背中をつけた僕は絵里から壁ドンをされている体制になっていた。
「だったら、幼馴染じゃ無くなればいいんじゃない?」
彼女は僕の耳近くでそう呟いた。甘い吐息が耳にあたり、こそばゆかった。
「どういうことだ?」
「まぁ、とりあえずは愛人ってとこかしら?」
僕と絵里の顔は近かった。そのままキスをしそうなくらい、距離が近く、彼女の顔が目の前にあった。
それはかつて恋心を寄せていた女性の顔である。無意識に心臓が高なってしまうのだ。
「冗談は大概にしろ。僕には麗子がいるんだぞ?」
「冗談?これでもそう思える?」
絵里は僕に顔を寄せていき、そして僕の唇に彼女の綺麗で潤いのある唇が重なった。
あまりの突然のことに目を見開いてしまった。
何が起きたのか理解できない。そんな状態の僕である。
「な、何を!?」
慌てて彼女を引き剥がした。まだ唇には彼女の感覚が残っていた。
「この前言ったよね?私の大切なものを取りに来るって」
「だからって…」
絵里が現住居に来た際にあった出来事。その時、彼女確かにそのようなことを言っていた。だが、僕には妻の麗子がいるのだ。
大切な人を泣かせたくはない。だからきっぱりと断らなければならない。
このままずるずると言ってはならないと思った。
「私はあんたと長い付き合いだから知ってるんだよ?あんたは優しくて、そして過去を引きずる性格だって」
「この意味わかる?」
絵里の言葉を聞いた時、自分の心の中を見透かされた気がした。
否定したくても否定しきれない。
だって絵里の言っていることは、事実であるから。
僕が絵里に幼馴染であるとはいえ、必要以上に優しくしてしまうのも、本当だったらすぐに引きはがせたはずのキスも受け入れてしまったのは、まだ絵里のことが心のどこかで想っているからである。
言い訳のようになってしまうが、何十年の恋がすぐに冷めることは簡単にはできない。
ましてや、一度振られた身である。女性ならば、引きずりつつもある程度の期間が経てばまた新たな気持ちになることはできる。
でも男はそうはいかない。好きな人に振られた時には、かなり長く引きずってしまう。
「意味なんて…」
「私は拓真のこと、他の誰よりも知ってるから…」
絵里に真剣な顔で見つめられている。
どうして胸が高鳴るのか。おかしい。もう吹っ切れていたはずである。
そして今幸せであるのに、なぜ。
すると急にガチャっと扉が開いた。扉に寄っかかっていた僕はバランスを崩し倒れてしまった。
倒れた時に何事かと後ろを向いた時に、妻が立っていた。
それもかなり冷たく温度を全く感じない目で無表情だった。
そして妻は絵里の方を見た時にぽつりと呟いた。
「殺す…」
妻はよく見ると包丁をなぜか持っていた。しかもそれはあの村正の包丁だった。
絵里に向かって振り上げて襲いかかった。しかし絵里は意外と冷静に対応をしていた。
振り下ろされた包丁に素早く対応して、手首を掴み肘を手の甲にあてて包丁を落とした。
「危ないわね」
僕は落とされた包丁を素早く取った。また持たれでもしたら、本当に危険であった。
「拓真。その包丁持って下に降りてて。麗子さんと話があるから」
「この泥棒猫がぁ!!!!許さない!!」
激昴した妻が大声で叫んだ。あんまり見ることのなかった妻の顔である。
とりあえず言われた通りに包丁を下に持っていくことにした。
ドアを閉めて不安ではあるものの、絵里にこの場を預けることにした。
「さて、麗子さん?少し落ち着いてもらいたいのだけど?」
「人の旦那に手を出そうとしてよくも!!」
絵里とはその言葉に眉をしかめていた。そして彼女の手を離した。
「よくそんな言葉出るわね?自分も同じようなことしているのに?」
絵里の言葉を聞いた瞬間、麗子はムッと不機嫌な顔をした。
「何が言いたいの?」
「知ってるよ?うちの後輩から拓真を奪い取ったこと」
その言葉を聞いた麗子は先程顔とは違い、信じられないような驚いた顔をしていた。
「まぁ。私からすれば、あそこを離すことができてあなたに感謝してるけど?」
絵里は拓真のベッドに腰掛けて脚を組んだ。
そして、彼女は自分の服のポケットからスマホを取り出して操作をし、画面を麗子の方に向けた。
「な、なんで…」
麗子は青ざめたような顔をしてスマホに映し出されたものをじっと見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます