第4話◇夢じゃ無かったわー

 

 思い出した思い出した。ようやく頭がはっきりしてきた。ソファにぶっ倒れたときには、終わったなー、これで死んだなーとか考えてたが、生き残ったようだ。ハイ、1足す1は2、頭オッケー、体もところどころ血がついてるが問題無し。Tシャツはビリビリに破けちまったが。


 マテ。体が無事ってのはおかしくないか?ゾンビに噛まれたはずの右手を見る。骨が見えるとこまで肉を持ってかれたハズが……なんともなってない。見覚えのあるいつもの右腕。なんだこりゃ?

 右手の表面についた血のカタマりをペリペリと剥がす、かさぶたってわけでも無い。右手を、表側、裏側、とひっくり返してよくよく見れば、ゾンビに噛まれたところは毛が生えてなかった。俺は体毛が濃い方では無いが、ゾンビが噛みついたハズのその部分だけはツルツルで、少しばかり皮膚の色が薄い。近づいて見ないと気づかないぐらいの違いだけど。かじられたところが寝てるうちに治ったのか? よーわからん。


 喉が乾いたので洗面所で水道の蛇口を捻る。水は出なかった。あー、水道料金払い滞納したのか? しょーがねー、またコンビニかデパートにでも行ってみるか。

 洗面所の鏡を見ると、俺の顔は固まった血とかで汚れていた。きったなー、風呂入りてーなー。

 改めて鏡に映る俺のツラをマジマジと見ると、なんか違う、違和感がある。あぁ分かった、白髪が増えてんだ。髪の毛が斑に白髪になっている。手で掻き分けて髪の生え際を見てみる。ところどころが根元から白髪になっている。髪形にこだわりなんぞ無いから前髪は眉毛ぐらい、横は耳にかかるぐらいの長さなんだが、今の俺の頭をバリカンで五分苅りにしたら黒白反転したサッカーボールみたいになるんじゃね?


 さて、どれぐらいの時間寝てたかはわからんが、起きてみたら、


①けっこう酷い怪我のハズが治った。

②白髪がスゲー増えた。

③寝る前には、ゾンビに噛まれてた。

 

 たしか、映画のゾンビ物だとゾンビに噛まれた奴はゾンビになるんだよな?


 と、いうことは、

 俺はゾンビになっちまったか?

 ……………………………ふむ、

 まぁ、いいか。とりあえず、喉が乾いた、腹が減った。飲み物と食い物探しに行くか。ゾンビだろうが人間だろうが、生きてくためには水と食いモンが必要なことには変わりはないし、白髪が増えてもハゲになるよりはマシってもんだ。先ずは食いもんだ。


 二階休憩室から下に降りる階段は、俺が落とした机やら椅子やらロッカーで完全に塞がってたので、部屋の隅にある避難用縄ばしごを使って窓から降りる。

 あたりにゾンビの影は無し。いつのまにか相棒のようになった金属バットを持って外に出る。おっと、なんか使えるものが無いか倉庫の中を見てくるか。


 3ヶ月前までは、俺もこの倉庫でバイトしてたんだよなぁ。同僚は気のいい奴らで、上司は頼りがいがあった。ひとりだけアホな上司がいたが、会社が潰れてからみんなどうしてんだろな? 街がこの有り様じゃあ、避難したか、死んだか、ゾンビになってんじゃねーかな。あのアホ上司だけは、馬鹿馬鹿しい悲惨な死に方とかしてくんねぇかな。ゲラゲラ笑えそうなヤツで。お、バール発見。これはなんか使えそうだ。


 倉庫の外に出ると、道路脇に自動車がひっくり返って自販機が倒れてた。回りは人影なし、ゾンビなし。早速、バールで倒れた自販機をぶっ壊して中身を頂き。自販機って外は綺麗だけど、中身は武骨だよなー。そこは人間と同じなんかもな。一皮向けば肉と骨、ファッションとかで外身を着飾る意味がわかんね。


 ぬるくなってるけど缶コーヒーを開けて飲む。缶コーヒーで無糖とかはねーよな、無糖とかブラックの本格的なコーヒー飲みたきゃ喫茶店に行けよ。缶コーヒーってのは、手っ取り早く糖分とカフェインが取れる甘ったるいヤツが最高。3本一気に飲んで元気回復。

 ペットボトルのお茶をカーゴパンツの右のポケット、ペットボトルのスポーツドリンクを左のポケットにねじ込んで、右手に金属バット、左手にバールを持っていざ出発。

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