第3話◇思い出してみよーかね?
「痛ってええぇぇえっ!」
噛まれた。ゾンビに噛まれた。右手をロン毛のゾンビにがっつり噛まれてる。血が出る。
「離せや、コノヤロォッ!」
てめえなんだこのクソが、ロン毛ゾンビの腹を蹴る蹴る蹴る。離れない。お前モグモグしてんじゃねぇコノヤロ。ロン毛ゾンビの胸に靴の裏をあてて力を込めて蹴り剥がす。ミチミチッと音を立てて腕の肉が千切れた。
「ぬあぁ、クッソーー」
右手が動かなくなったから左手一本でバットを振り回して、ゾンビ共から離れる。右手は痺れて指が動かない。これ知ってる、あれだ、刺激が強過ぎて今は痺れてるけど、あとからすげー痛くなるやつだ。クソが。
白いワゴン車はもういない。女を助けたらソッコー逃走。俺が噛まれたのを見てから走り去ったなら、運転手は冷静で賢い奴なんだろうなチクショウ。やられてたまるかよ。
「ンのやらあ!」
左手一本でバットをゾンビの顔面に叩きつける。グシャリと鼻の折れた手応え。そいつはバンザイしたままバタリと倒れ、俺は振り返ってゾンビのいない方に逃げる。走ってるつもりが、右手はだらりと下がったままで血がボタボタ。走ろうにも小走りと競歩の間ぐらいがやっとだわ。
噛まれたとこを見てみれば、骨、見えてんじゃん。いつもは肉と皮に隠れてめったに顔を見せない恥ずかしがり屋さんが。こんにちわしてますよ。はいこんにちわ。あー、見たらだんだん痛くなってきた。痛いというよりも熱い。焼けた金属を押し付けられてるみたいだ。やべーな、死ぬかも。血が止まらない。血がダーラダラー。みりおんだらーまーうす。
背後をみれば、まだ何体か追ってきやがる。足が遅いから距離は開いたが、こっちはコンディション最悪。右手いてーわ、めまいしてきたわ、頭クラクラしてきたわ。金属バット肩に担いでランニング、ゾンビ共を引き連れて。
ゾンビ部ーー!ファイッ!オー!ファイッ!オー! なんだゾンビ部って、付いてくる奴らものりが悪いし。やっぱり頭腐ってると、ギャグも解んなくなるんだな。うあー、しか言ってねえし。
そんなバカなこと考えながら気をまぎらわしつつ、目的地到着。やっと到着。ただ、やみくもに逃げてたのでは無く、昔のバイト先の倉庫を目指してた訳だ。
壁は頑丈、出入口にはシャッターが下りるから立て籠ることができるかな、と。中に入って下駄箱倒して一階通用口を塞ぐ。
二階の休憩室に上がって、階段に椅子やら机やらロッカーを落として塞ぐ。左手しか使えないからしんどいし、作業中に右手が棚とかにぶつかる度に激痛で悶絶した。あががががぎぎぎぃぎぃぎぃとか言いながら床を転がったりした。この階段さえ塞げば、二階休憩室への出入口は窓しか無くなるので、これでなんとかなるかー?
階段を通れなくしたところで力尽きた。右手を消毒して、血を止めないと。とか考えても、でもめまいがひどくて立つのもツライ。右手もだんだん痛く無くなってきた。痛いのが痛くなくなるなんてヤバクなーい? ヤバクなくなくなーい? あー、頭がボンヤリしてきて、考えるのもおっくうになってきた。おっくうってかんじがおもいだせないくらい、あたまのなかが、ひらがなになってきた。だめだ。もーげんかい。おやすみなさいとソファにぶったおれた。
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