6-2 costumes become the best one
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
サムとエニーは画面の前から立ち退き、端へ寄る。
「あのねつまり、キミのその描いてくれたデザインを、次は衣服として作ってほしいんだけどね?」
ニッコリと微笑んだ善一。懸命にYOSSY the CLOWNの仮面の再構築をそうしてこなすも、半分も追い付いていない。想定外のことが起こるとこうなるのか、と密かに観察を済ますサム。
「えと、あの。そっ、それは、わたしには、出来ません」
「へ?」
「わ、わたし、あの、ミシンを使ったこと、ないんです……」
そうしてあまりにも申し訳なさそうにする蜜葉。語尾が
「えと、さ、手縫、手縫いとか、は?」
辿々しくなる善一の言葉。
「ご、ごめんなさい。お裁縫は、あの、ボタン付けくらいしか、やったことが、あの」
「…………」
沈黙すること一五秒。
策の尽きた様子で
申し訳なさからか、すっかり俯いてしまって動かない蜜葉。
視線でいくつか交わし合うサムとエニー。
「
大人二人の
「ボクたち、とっても身近にスゴい人たちを知ってるんだァ」
「フフ。知ってる、知ってる」
幼い双子はニッタァリ、と意味深に笑んでいる。
「人、たち?」
複数系にハテナを浮かべる善一。
「
「
眉の寄る善一。ハテナの蜜葉。
「あっ」
「お、蜜葉の方が察しいい!」
サムが目を光らせると同時に、蜜葉はぽっかり開けた口を慌てて引き結んだ。
「で、でも、お探しすること、ご協力、くださるでしょうか?」
「
エニーの不安気な表情を、サムは笑みを向けて緩和材にする。
「服飾師さん、も、お知り合いに?」
「うん。いつも
「もしかして、二人の考えてるのって」
そろりそろりと訊ね返す善一。かけているサングラスの位置を正す。腰に手を当てたサムの深い溜め息。
「ヨッシー、気付くの遅いよ」
「いや、でも、ホント? あの
「ホントだよ。この前……蜜葉と逢う前、お花屋さんで依頼、受けてた」
「依頼ねぇ」
顎に手をやって
「自信あるみたいだったよ。『カセーカ』だって」
サムは記憶していた言葉を善一へ提示した。
「カセーカ、って、家政科のこと?」
「あの眼、原石隠れてた。エニー、そう思ったの」
善一の左腕を柔く引くエニー。真摯に訴えかけるまなざしは、いつになく至極真剣で。
「確かに普段はポンコツだけど、ボクも、あの感じからして本物っぽいなって思ったよ」
「エニーとサムの、見立て、外れてるかも、しれない。それでも、二人に頼んでみても、損はないと、思うの」
「『スゴい腕の持ち主』でしょ? あの
「そうだよ。だって、ヨッシーの弟、なんだもん」
矢継ぎ早に、
低く唸るようにして、顎に手を置いたままスマートフォンへ視線を戻す善一。
「柳田、さん……」
「『YOSSYさん』だよ、Signorina」
蜜葉のハの字眉を眺めていた善一は、肩をストンと落として目を閉じた。
ぐるぐると考えを
一五秒間考え込んだ果てに、引き結んでいた口元に笑みを戻して、膝をひとつポンと叩いた。
「よし、そうしてみよう」
サングラスにそっと触れて、善一はスマートフォンを右手に取り、折っていた両膝をスッと伸ばす。
表情がやわらぐ、サムとエニー。未だ不安感を滲ませている蜜葉。三人の指す『
「まずは、二人が期待してることを伝えてみようか。さすがに二人からの頼みは、断らないと思うしね」
「ありがとうヨッシー!」
「ありがと、嬉しい」
小さな二人の喜ぶ顔には敵わない、と口角が上がる。
「必要だったら、エニーからも、お話する」
「ボクも」
「それは強力な後ろ
柔らかい笑みを、今度は画面の向こうへ戻す善一。
「Signorina、恐らく僕の弟に話を通せば、衣装作成の件は解決する。まずは弟のアポを取らなきゃいけないから、また後日連絡を取ろう。いいかな?」
「は、はいっ、もちろんですっ」
画面の向こうでガクガクと頷く蜜葉。そんなところも『ツボ』だと思えて、腹の底の方でまたひとつ降り積もる感情に、蓋をする。
「ありがとう。で、またひとつ頼みたい」
「はい、なんでしょう」
「誰が作ることになるかわからないから、いつ僕からの連絡があってもいいように、デザインの細かな指定だったり生地の指定をしておいてくれるかな」
「細かな、指定」
「うん。どんなことが必要になるかは僕も見当がつかないから、ホントは何とも言えないんだけど」
笑みの残る口元だが、サングラスの奥の目元に緊張が見て取れる。さすがのYOSSY the CLOWNも、予測のたたないことは不安なようだ、と蜜葉は逆に安心を得た。人間味のある彼が見られたことが、嬉しいと思えた。
「わか、わかりました。わたしに出来ること、は、やれるところまで、やってみます」
「ダメだよ、蜜葉」
下方からかかる声。善一の足元で、エニーが細く白い首を懸命に上向けている。スマートフォンをエニーへ向ける善一。
「は、はいっ、エニーちゃん!」
「やれるところまで、は、ネガティブ呼んでる」
「あ、ご、ごめんなさいっ」
「しっかりポジティブ、呼んでみて」
「はい。えと、『わたしに出来る全部、よりも多く、やってみせます』っ!」
思ったよりも大きな発言をした、蜜葉。満足そうにひとつ頷いて、エニーは嬉しそうに頬を染めた。
「蜜葉、楽しく考えてみてね」
隣のサムも、激励をかける。はい、と強く
スマートフォンが、善一の眼前に戻ってくる。
「頼んだよ、
YOSSY the CLOWNとしてではない、優しい笑みが突き刺さる。キュウ、と苦しく渦を巻く蜜葉の胸の内。一度瞼を伏せ、もう一度開眼して、蜜葉は眉間をわずかに寄せた。
「たっ、確かに、頼まれました!」
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