月に願いを(月の野うさぎさま:彼と彼女の場合)の壱

  暫くしてアパートに着いた。先程の重いビニール袋をテーブルに置く。

「なんだったのかなぁ、さっきの。会話はしたような感じはするけど。相手は『うさぎ』でしょ?ああ、わたしきっと疲れてるんだわ」

 そうつぶやいた。いつもの様に郵便受けに手を入れる。ガサゴソ郵便受けの中を手の感触のみで探ると底のほうで硬い感触を感じた。

「あら、何かしら。初めて触る感じがするわね」

 やっとの事でそれを拾い上げると、それは白い固形物であった。

「なにこれ!白い三日月の形で硬いわね。何となくお餅みたい」

「あ、そっか!もしかしたら!」

 それが先程の『うさぎ』たちが置いていったものだと悟った。


 それから2日経っても何の変化も無く、何の音沙汰も無い。

「やっぱ何もねえよなぁ。いくら約束とは言え、相手は所詮『うさぎ』だろ?

そんなもんだよな」

 上弦の半月型をした『餅のようなもの』をしげしげ見回しながら、彼はぶつぶつ言っている。その割には結構期待している様だ。


<なにが『そんなもん』なの?>

びっくりして『餅のようなもの』をほうり投げてしまった。

「へっ?もしかしてこの前の?」

<そうだよ。ぼくらだよ>

二羽の『うさぎ』が目の前に現れた。

「おいおい、いま夜でもねぇし、満月も終わったはずだろ?」

<実はそんなに関係ないんだなぁ。色んな役目があってね。えへへ>

「えへへ、じゃねぇだろ!びっくりさせるなよ~」

<ああ、ごめん。でも、2日経ったでしょ?だから来たんだよ>

「2日経っても何にもねぇけど」

 お願いしてる側なのに、彼は若干キレ気味だ。

<またぁ、そんなに期待してないくせに>

 うさぎは流し目で彼を見遣る。

「い、いやぁ、まぁね」

<今回はその中間報告で来たんだ>

「え、何それ?」

<だから中間報告だよ。きみの願いのね>

「あ、そう?それならそうと、先にそう言ってくれよ」

<いま言ってるじゃないか>

「そうでしたね」

(急に敬語になった。現金なやつだな)

「それでどうなりましたかね」

(急にへつらったな)

<お相手の女性は見つかったよ。でも、まだそのお相手にきみの事は伝えてない>

「じゃぁ、俺のこと伝えた後でって事?」

<そう。この後、彼女に報告に行くよ>

「おお、何という有難き幸せ」

<あとはきみ次第だね>

「え、どういうこと?」

<ぼくはきみの願いをいま叶えてる最中だよ?>

「いやいや、い、意味がわからない」

<だからその女性にも同じことをするから、その人とお付き合いできる

ってことだよ>

「へ?なにそれ?女の人を紹介してくれるんじゃないの?」

<そういうことになるように、今行動しているんじゃないか>

「そういうことって、どういうこと?」

<いまぼくは、きみとその人と付き合える様にセッティングしているってことだよ。でも、そうなるきっかけとかはきみ次第ってこと。わかったかな?>

「結果的には付き合える女性はいるけど、そうなるには自分でやれってこと?」

<そうだよ。やっとわかったね>

「なんか変な感じだな。最初は自分でやんないと、なんて聞いてないけどな」

<そのくらいは自分でやりなよ。そうじゃなきゃおもしろくないだろ?>

「まぁ、そうだな。おんぶにだっこじゃよくないしね。まぁやってみるよ。ありがとう」

<がんばってね。じゃあ、ヒントをあげるよ。その白いかけらが『みそ』だからね>

うさぎたちは手を振りながら空へ飛び去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る