第56話 死神
「おい、生き残ってる連中はどれだけいる?」
不機嫌そうにそう口にしながら、『ドミネーター』の男が言う。
「俺ら『ギフター』が四人。んで、他の奴らは十人ってところか」
「ちっ、百人もいて、残ったのはそんだけか。くそっ、これが浮王さんに知られれば、また機嫌を損ねちまうじゃねえか。それもこれも、このクソどものせいだっ!」
地べたで動かなくなっている岡山たちの仲間の一人の顔を蹴る男。
「にしてもコイツら、マジでこんな武器をどこで手に入れたんだっつうの」
地面に落ちている銃を手に取り、マジマジと見回す男たち。
「まあでもこれで制圧OKだし、こっからファミレスに向けて攻めるぞ! 俺たちが先にファミレスを制圧すりゃ、浮王さんも褒めてくれるだろうよ!」
「「「「おおぉぉぉっ!」」」」
『ドミネーター』の連中が、意気揚々と岡山さんたちの仲間たちが持っていた武器を奪い、その場からファミレスへ向けて進行を開始しようとしたその時だ。
「ぐあぁっ!?」
「うっぐぁっ!?」
「ぐげぇっ!?」
突如として、男たちが苦悶の表情で倒れ始めたのだ。
まるで当たり一面に猛毒が発生しているかのように、次々と絶命していく者たち。
それはステータスを持たない者たちや、『ギフター』も変わらない。
「な、何だよ!? 何が起こってるってんだよぉっ!?」
たった一人、生き残っている男が、仲間たちの突然死に怯えうろたえている。
カツ、カツ、カツ――。
そこへ響き渡る足音。
「ひっ! だ、誰だ……!?」
薄暗い中、人影が見える。
そして雲間から覗く月明りが、その正体を徐々に照らしていく。
中から出てきたのは、奇妙な白い面を被った人物だった。
「ひィィィッ! な、なななな何だよお前ぇっ! まさかコイツらの仲間かぁ!?」
男が奪った銃を仮面の人物へと突きつける――が、どういうわけか一瞬にして腐食したようにボロボロになって崩れ落ちた。
「は、はあぁぁぁぁっ!?」
訳も分からずパニック状態になる男。だが男はこれでも『ギフター』だ。たった一人なら、倒せると考えてもおかしくはない。
「お、俺はこれでも『炎使い』だ! 燃え散らせてやるよぉぉぉっ!」
両手を仮面の人物に向けてかざし、あっさりと人を呑み込むほどの火球を放った。
「死ねぇぇぇぇっ!」
しかし火球が仮面の人物に辿り着く前に、光の粒子のようになって消失してしまった。
「なっ……何でだよぉぉっ!」
仮面の人物が、男に一歩、また一歩と近づいていく。
「く、来るんじゃねえっ!」
そこへ足元に転がっている銃に気づき、男が拾って照準を合わせようとしたが、すでに前方にはターゲットの姿はいなかった。
すると同時に、男の両腕の肘から先が宙に飛んだ。
「へ……?」
ブシュゥゥゥッと、切断された両腕から血飛沫が舞う。
「うがぁぁぁぁぁっ!? 俺の腕がぁぁぁっ!? 腕がぁぁぁぁぁぁっ!?」
地面を転げ回る男に、仮面の人物が静かに接近し、その手に持っていた刀の切っ先を突きつける。
「な、何なんだよ……誰なんだよお前はぁぁぁっ!?」
それが男の最期の言葉になった。
「俺か? 俺は――――――『死神』だ」
一閃された刃は、男の首を難なく刈り取り、男はそのまま絶命したのである。
※
事切れた者たちを見回しながら、俺は深い溜息を吐く。
初めて自分の意思でもって人を殺した。しかも一人や二人じゃない。
ほとんどの者は《死眼》によって殺したので、あまり実感は無いが、この男だけはこの手で首を跳ねた。
刀を握る手を見れば、やはり震えている。当然だ。命を直接奪ったのだ。
この手には、その時の感触もまだ残っている。
「……はぁぁぁ~。やっちまったな」
これも覚悟してのこと。姫宮だけに現実を突きつけ、苦しめるつもりなんてない。
俺も、アイツが背負う以上のものを背負うつもりだった。
それを言わなくても先輩は理解してくれていたようだが、彼女にも辛い思いをさせてしまっているだろう。
俺は《アイテムボックス》からガラス瓶を取り出し、その中に入っている液体を煽る。
これは気力を回復してくれる《オーラポーションS》だ。これ一本で全回復できる。少々お高いが、この戦場では必要になる代物なのは間違いない。
飲み終わった瓶を無造作に捨てると、探知機を確認する。
「……次はこのまま南側か」
北と西は、まだ交戦中なのか、敵がファミレスに向かって近づいている様子はない。
しかし南は、東と同じように徐々にファミレスへと接近している。これは守るべき者たちが失われたことを意味する。
俺はその足で全速力で駆け、すぐに現場へと到着すると、そのまま素早く建物内へと隠れて様子見をした。
少し先に、十数人の輩が進行してきている。その手には、岡山さんの仲間たちからぶん盗ったであろう武器が握られていた。
やはりここも全滅したか。
俺はここに近づいてくる連中を見ながら目を細める。
「悪いが、そこから先は死のラインだ」
俺は【死界】の範囲内に入った連中を、次々と仕留めていく。
当然東側と同じような状況になって、連中が慌てふためる様子が窺える。
だが次の瞬間、一人の男が弓矢を隠れている俺に向かって放ってきた。
「! 感知タイプの奴か……!」
感知系のスキルの持ち主なのだろう。それで俺の居場所を特定して攻撃を仕掛けてきた。
殺れたのは八人。あと――六人か。
俺は《オーロラポーションS》を飲みながら移動し、建物の陰に隠れて相手を翻弄していく。
しかしやはり感知タイプの奴だけは、正確に俺の位置を把握しているようで、
「十一時の方角に敵がいるぞ!」
仲間たちに警戒を促してくる。
「……面倒な奴だ。なら先にお前を!」
俺は連中の前に姿を見せて、弓矢を持った奴に向かって刀を投げつけた。
弓矢の男は、その刀に向かって矢を放ち見事に命中させるが、矢は刀にあっさりと弾かれる。
「なっ、俺の矢が……あっがぁっ!?」
男の右肩に投げつけた矢が突き刺さった。
ちっ、頭を狙ったんだが、さっきの矢で方向が少しズレたか。
「う、撃てぇっ! 撃ち殺せぇぇぇっ!」
「させるか――【死界】!」
奴らの持っている武器を全部この世から消滅させてやった。
これで奴らは丸腰だ。
俺は《アイテムボックス》から新しい《新羅》を取り出すと、そのまま駆け寄って一人ずつ斬り伏せていく。
一人、二人、三人――!
そうして五人を殺したあと、俺に向かってまた矢が飛んでくる。
俺は舌打ちをしながら、咄嗟に身を翻し回避した。
……ふぅ。今のは危なかったな。それにしてもアイツ……。
どうやら傷薬で傷を完治させたようだ。これだから『ギフター』相手はめんどくさい。いつでも《アイテムボックス》からアイテムを取り出せるのだから。
「て、てめえ! よくも仲間をっ!」
「それはこっちのセリフだ。お前にも死を届けてやるよ」
「ほざけっ! ――《必中撃》!」
青白く光る矢が、俺に向かって放たれてきた。
見えているので、簡単に右に跳んで回避したのだが――クイ! 矢がひとりでに方向転換をして俺に向かって襲い掛かってきたのだ。
「ぐぅっ!?」
咄嗟に左腕で受けてガードした。
……まさかホーミング式だとはな。良い技持ってんじゃねえの。
「次はその頭を撃ち抜いてやるよ! ――《必中撃》!」
「………………舐めんなよ」
ギロリと飛んでくる矢を睨みつけ、《死線》によって消滅させた。
「な、何だとっ!?」
驚いている弓使いに、今度は視線を合わせる。
だが少々死滅ゲージが減るのが遅い。そこそこレベルが高い証拠だ。
ただ奴も矢を構えるのに時間がかかってしまっている。
そして奴が矢を構え、放とうとした瞬間、苦しそうにもがき、そのまま前のめりに倒れた。
「…………終わった」
俺は痛みに顔を歪めながらも、腕に刺さった矢を引き抜く。
「いってぇな……ちくしょう」
少し強敵だったせいか、結構手間がかかった。
やはり感知タイプがいるのは面倒である。
俺は傷を治すポーションと、また《オーロラポーションS》でさっさと回復する。
こんな無駄遣いができるのは、予想外に得られた資金のお蔭だ。
「……さすがにしんどいな」
体力も気力も回復して満タンではあるが、それとは別に精神的にくるものがある。
だって兵士でもない俺が、いきなり戦争に参加しているのだ。大義名分があるとはいえ、人殺しによってのしかかってくるプレッシャーはハンパじゃない。
それでもここで中断するわけにはいかない。まだあと二つの部隊があるのだ。
そしてその中の一つには、恐らく……いや、間違いなくアイツがいる。
正直もう二度と出会いたくはないが、あの浮王海燕との再会は、もうすぐそこまで迫ってきているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます