第54話 動き出す浮王

 現在武装した『ギフター』及び一般人たちが、一軒のファミレスへ向かって進行中だった。

 彼らは山梨県を恐怖に陥れている『ドミネーター』というコミュニティである。

 その数、ざっと二百ほど。


「おいてめえらぁ、浮王さんの命令だぁ! 逆らう奴らは皆殺しにしていいってよぉ! どうせ何の力もねえ連中だぁ! 楽しんでいこうぜぇ!」

「「「「おおぉぉぉぉっ!」」」」


 全員血気盛んで、今にも誰かを殺そうなほど殺意に満ちている。

 彼らはしょせん力も持たない弱者たちが集う場所の襲撃だとタカをくくっているようだが、彼らは知らない。


 その弱者が、恐るべき牙を持って待ち構えていることを。


 そして――。


「ぐあぁっ!?」


 突如、進行していた連中の内、一人の男の身体に銃弾が撃ち込まれた。


「な、何だぁ!?」


 それをきっかけにして、彼らへと銃弾の嵐が襲い掛かっていく。

 悲鳴と血飛沫が舞い、どんどん地面に倒れていく『ドミネーター』たち。


「よーしっ、このまま一気に殲滅するんだーっ!」


 それは建物の屋上から叫ばれた言葉だ。

 彼の名は横尾といい、彼の言葉に従って銃を放つ者たちこそ、『ドミネーター』たちが弱者と位置づけ侮ったファミレスに住まう者たちである。


「う、噓だろぉ! 何で奴らがあんな武器をあっがぁっ!?」


 額を銃弾に撃ち抜かれ即死する男。そんな男のように、次々と屍が築かれていく。


 中には『ギフター』もいるが、四方八方から襲い来る銃弾には対応し切れない。それもそうだろう。彼らには、まさか横尾たちがこんな奇襲を仕掛けてくるなんて思ってもいなかったのだから。


 強者の余裕のせいで、致命傷の油断となり、圧倒的な勢力のはずだった者たちは、瞬く間に数を減らしていく。


「ぐっ、くそがぁ! 隠れて狙撃なんて卑怯だぞコラァァァッ!」


 どの口が言うのかと言わんばかりに、横尾たちの攻撃は終わらない。

 そして堪らず『ドミネーター』たちが建物の中へと逃げようとした直後、突然爆発を起こし連中を吹き飛ばした。


「よし、遠隔爆弾のタイミングもバッチリだ!」


 横尾が確認しながら見事なトラップの威力に頷く。


 そう、予め『ドミネーター』の連中が建物内へと隠れることを見越して、遠隔に操作できる爆弾を設置していたのである。

 これは間違いなく、鈴町太羽が授けた探知機で相手の襲撃を事前に知ることができたお蔭だろう。


 それほど多くの罠を設置できる時間はなかったものの、それなりに準備する程度の余裕はあったのだ。


「に、逃げろーっ! 撤退だ撤退ィィィッ!」


 残り十数人となった『ドミネーター』たちは、脇目も振らずに尻尾を撒いて逃げ帰っていく。


「横尾さん、追いますか!」

「いいや、深追いは禁物だ。俺たちはすぐに補給と今後の対策をするぞ!」


 さすがは元軍人なのか、皆への指揮も見事にこなしていた。

 絶望かに見えた襲撃だったが、こうして横尾たちは自分たちの拠点を無傷で守ることができたのである。



     ※



「――ぐあぁぁぁっ!? いてえぇぇぇぇっ!?」


 右太腿を両手で押さえながら地面を転がる男。この男はつい先程まで、横尾たちと対峙していた者であった。


 そしてそんな男を、冷たい視線で見つめる人物がいる。


 彼らを統べる――浮王海燕だ。

 その手には銃が握られ、不愉快そうに男に向けていた。


「もう一度言ってくれねぇかぁ? 任務がどうしたってぇ?」

「うっぐぐぅ……し、失敗しぐがぁぁぁっ!?」


 今度は左の太腿を撃ち抜かれ、苦しそうにのたうち回る男。


「やれやれ。お前らは任務もまともにこなせねえのかぁ?」


 転げ回る男の後ろには、怯えた表情のまま跪く十数人の男たちがいる。彼らもまた先程の戦場から逃げ帰ってきた者たちだった。


「なぁ、あんなクソの役にも立たねえ連中に敗走しただぁ? 舐めてんのかぁ、あぁ?」

「し、しかし浮王様! 奴らは全員強力な武器を持――」


 跪いていた奴が口を開いたが、途中で額を撃ち抜かれて絶命してしまった。


「そんなもん関係ねえんだよぉ! この俺様がやれっていったら必ずやり通せよぉ! それが当然だろうがぁっ!」


 蹲っている男に近づき、その顔面を目一杯蹴り上げる浮王。そしてそのまま頭を何度も踏んで、踏んで、踏んで、次第に男は身動き一つしなくなる。


 この短期間で二人が死んだ。その事実に、周りにいる者たちは一様に青ざめてしまっていた。


「……おいてめえらぁ、今すぐ数を集めろぉ。全結集だぁ」

「は、は? 今すぐ……ですか?」

「二度は言わねえぞぉ」

「は、はい! 畏まりましたっ!」


 慌てて命令された連中は動き始めた。

 その場に残った浮王は、怒りに満ちた表情でファミレスがある方角を睨みつける。


「思い知らせてやらぁ。誰に歯向かったのかをなぁ」


 山梨の暴君が、ついに本気になった瞬間だった。



     ※



 俺は帰り道、耳をつんざくほどの銃声が聞こえ、そちらへと急いで驚いた。

 横尾さんの指示のもと、大勢の敵勢力を見事に返り討ちにしていたのだから。


 さすがに現代兵器。それを手にした横尾さんたちに、さすがの『ギフター』も何の策も無しには対抗できなかったようだ。

 俺は横尾さんと接触し、これからどうするのか聞いた。


 武器の補給はもちろんのこと、次に攻めてくるまでに罠を多く設置しておくとのこと。

 ただ、次はどの方角からやってくるか分からないから、人員を割いて事に当たらなければならないので、時間が惜しいらしく、ファミレスには戻らないと口にした。


 俺は何か伝言があればと横尾さんに聞き、そのままファミレスへと戻ったのである。




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