第40話 理念の違い
やはり勧誘……か。
普通なら大手のギルドと一緒に活動できるのはありがたいことだが……。
「断る」
「……理由を聞かせてもらおうか?」
特に顔色を変える様子はない。断られることも当然視野に入れていたのだろう。
「その前に、一応確かめておきたいことが」
「何だ?」
「そちらの活動理念って何ですかね?」
「……そうだな。ダンジョンをできるだけ速やかに攻略し、一刻も早く安全な場所を構築することだ。そうすれば、『ギフター』はもちろんのこと、非戦闘員も安心して平和に暮らすことができるようになる」
「つまりこの街に住む人々を救うために活動していると?」
「そうだ。我々には力がある。ならば弱者である一般人のためにその力を振るうべきだと私は考える」
「…………」
「中には我々『ギフター』が選ばれた人種などと語り、その力を身勝手に振る舞う者もいる。だが『ギフター』は決して特別な存在ではない。少し変わった力を与えられただけの人間だ。我々『ギフトキャッスル』は、その与えられた力は、与えられなかった弱者たちを守るためにこそ使うという理念がある」
「なるほど。じゃああなたたちはこの街を守るために活動してるんすね?」
「今は、な。しかしいずれ勢力を広げていき、すべてのダンジョンを攻略し、日本をかつての平和な国にしようと考えている」
「一度ダンジョン化した場所を攻略すれば二度とダンジョン化はしない」
「その通りだ。だからこそ常にパトロールし、ダンジョンを発見するとすぐに攻略へと向かうのだ」
確かに彼女の言っていることは綺麗で正しい。
一般人にとっては光明にすら感じることだろう。まさに救いの女神みたいな存在だ。
だが何故だろうか。ちっとも心に響いてこない。
……ああそうか。コイツは理想を追うばかりで現実が見えてないからだ。
姫宮も同様のことに気づいているのか、少し不機嫌そうに眉をひそめている。
先輩は……黙ったままで、恐らく俺に判断を託しているようだが。
「……やっぱり断る」
「!? ……何故だ?」
今度は少し表情が歪んだ。理念を語ったのにもかかわらず断られるとは思わなかったのだろう。
「悪いが、あんたたちと俺たちとじゃ活動理念が全く違う」
「……ならば君たちの理念とは何だ?」
「フリーでスローなライフ」
「…………は?」
「だからフリーでスローなライフだよ」
「別に聞こえなかったわけではない! 何だその……軟弱そうな理念は?」
「軟弱……ねぇ。確かにあんたたちの理念は立派さ。人としても正しい在り方……かもしれない」
「だったら!」
「でもあんた、自分のやってることの意味、マジで理解してるか?」
「理解? ……当然だ! 私は多くの『ギフター』を率いるギルドマスターだぞ! この与えられた力で弱者たちを守るために――!」
「そこだよ」
「え?」
「あんたはさっきこう言ったよな? 『ギフター』は特別な存在じゃないって」
俺の言葉に「あ、ああ」と頷いて応える天都。
「けどな、一般人を弱者呼ばわりしたり、勝手に守るべき存在だって決めつけたり、あんた自身が自分たちが特別だって認めてるようなもんじゃねえか」
「!? そ、そのようなことはないっ! 私はただ……」
「ただ? 何だよ?」
「っ…………」
「力ある者が力なき者を守る。ご立派なことさ。けどな、それはあんたたちだけが正しいって思ってる理念であって、他人にそれを押し付けないでくれ」
「別に私は……!」
「言っただろうが、弱者である一般人のために『ギフター』は力を振るうべきだって」
「それは……だが事実そうだろう! そうしなければ弱者はただこの世界の理不尽さに飲み込まれるだけだ!」
「だから勝手に決めつけんなって言ってんだよ」
「!? …………」
「『ギフター』じゃないからって、何で戦えないって決めつけるんだ? 確かに俺たちみたいな特別な力はねえけど、それでも自分たちにできることで戦ってる奴らだっているはずだろ」
何も言い返せないのか、悔し気に歯を食いしばっている天都に対し、俺はまだ続ける。
「あんたに救いを求めてきた者たち相手になら手を差し伸ばしてやればいいさ。けどな、勝手に弱者だって決めつけて救ってやろうって上から目線が気に入らねえ。人間はそんなに弱かねえんだよ」
事実、一般人だけでコミュニティを作り逞しく生きている人たちも大勢いる。
手製の武器でモンスターを狩ったり、動物などを狩ったりして自給自足を行っているのだ。
人間には知恵がある。考える力がある。たとえ『ギフター』のような能力がなくとも、生き抜く術だって身に着けていけるのだ。
しかしコイツは、そんな人間の強さまでを否定している。だからこそ気に食わない。
「それに、だ。『ギフター』だって人間だってあんた言ったよな? 一般人と同じ人間なのに、何で戦うことを強要してんだ? 『ギフター』の中にだって戦いたくない者や、守ってほしいって思う奴らだっているだろう。あんた、そいう奴らにも洗脳めいたことをして戦わせ、そして死んでいったんじゃねえのか?」
「ちっ、違うっ! 私は洗脳などしていないっ!」
「【東京令和大学】がダンジョンして、あんたたちはいち早く乗り込んだ」
「……!?」
「そこで…………何人死んだ?」
俺の予想外の攻撃で、天都はスッと目を逸らした。
「あんたにとってダンジョン攻略こそが優先すべき事項で、『ギフター』の命なんて二の次なんじゃねえのか?」
「そんなことは決してない! 彼らは私の仲間だ! 同志だ! 守るべき者たちだ!」
「悪いが、少なくとも俺にはそう見えねえんだよ。……以上だ。まだ何か言うべきことはあるか?」
「…………くっ」
俺に何を言っても無駄だと察したのか、バッと立ち上がるとすぐに踵を返し玄関の方へ歩いて行く。
だが玄関口でピタリと足を止めると、そのまま振り向かずに彼女は言う。
「……それでもっ、私は…………これが平和への第一歩だと信じているのだ」
そう言い残すと、今度こそ家から出て行ってしまった。
「…………ふぅ~」
張りつめていた空気が一気に緩和し、つい溜息が零れ出た。
「珍しいですねぇ。センパイがあんなに言うなんて」
「うっせ。ちょっとした気まぐれだ」
「でもでもぉ、マジでムカついちゃってましたよねぇ?」
……まあな。別にアイツが嫌いなわけじゃない。人としては立派だろうし、俺と比べても人望だってあるはずだ。
でもあまりに表面部分しか見ていない様子が気にかかった。まるで平和のためなら、死んでいった者たちも満足だろうというような身勝手な考えが。
もちろん本人はそんなこと考えてもいないだろう。しかしアイツの言動が、結果的にそうなってしまっているのだ。
そもそも弱者って平気で口にするところがどうも気に入らない。
つまり自分は強者で選ばれた存在だって言ってるみたいじゃないか。自慢したいならよそでしてくれ。
「あはは、さすがは我らがギルドマスターだね。見事な答え、聞き惚れたよ」
「……てか先輩、少しの間でもアイツと対話してたなら、アイツの歪みに気づいてたでしょう? 何でわざわざ俺を呼びつけてまで勧誘を断らせたんですか?」
先輩だけでも十分発言力はあるし、断ることだって容易だったはずだ。
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