第39話 ギフトキャッスルの訪問

 ――二日後。


 姫宮と一緒に、Tポイント稼ぎのためにダンジョン攻略をしていた俺たちのもとに先輩から連絡が入った。

 今すぐ重大な話があるからアパートに戻ってきてほしいとのことだった。

 攻略の途中でもったいなかったが、俺と姫宮は急いで先輩が待つ家へと帰還したのである。


 だがアパートの目の前に来た時にギョッとする光景を目にした。

 そこには見たことがあるような連中が数人立っていたのである。


「センパイ……あの人たちってまさか……?」

「ああ――――『ギフトキャッスル』の連中だな」


 全員がホワイトリフレックスという鎧を着こんだ異様なギルドであり、かなりの大所帯という話を先輩から聞いていた。


 そんな連中が何故ここに……何てことは言わない。

 理由は簡単だ。まず間違いなく俺たちに会いにきたのだろう。だからこその先輩からのコールだった。

 俺たちがアパートの前に近づくと、連中も俺たちに気づき話しかけてくる。


「お前たちが『サーティーン』のメンバーだな?」


 俺たちのギルド名を知ってる? ……先輩から聞いたか?


 もしかしたら先輩は、コイツらに人質にされているのかもしれない。

 俺はチラリと姫宮に視線を合わせると、彼女もまた俺の考えを察してくれたように頷く。

 いつでもスキルを行使できるようにしておく、と。


 『ギフトキャッスル』のメンバーの一人――ポニーテールをした、少し幼げな少女に「ついてきなさい」と偉そうに言われ、姫宮はムッとするものの、俺は彼女を抑えて、そのまま自分の部屋へと先導されていく。

 そして中へと入ると――。


「――チェックメイト」

「んなぁぁぁっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 今のは無しだ!」

「はぁ~、もうこれで三回目だよ? そろそろ諦めた方が賢いというものさ」

「わ、私の実力はこんなものではない! ええいっ、次こそは必ず勝って見せる! だから再戦だっ!」

「受けて立って上げよう。まあしかし、勝負は火を見るよりも明らかだがね」


 …………何これ?


 部屋に入ると、居間の中央で二人の女性がチェスを囲っていた。


「む? おおー、帰ってきたんだね、後輩たちよ!」


 俺たちの存在に気づいた先輩が、手を振って出迎えてくれた。

 そして当然、彼女と対面していた女性も俺たちに顔を向ける。


 ……この女!


 先輩とチェスをしていた女性は、以前見たことがある人物だった。

 確か名前は……天都凛。


 【東京令和大学】がダンジョン化した際に、最も早く攻略に赴いた『ギフトキャッスル』の一員で、隊長のように部隊を指揮していた女性だった。


「おや、愛葉殿のお仲間が帰って来られたようだな」


 天都は、その場でスッと立ち上がって視線を向けてくる。

 こうして間近で見て分かるが、まるでモデルか女優のようにルックスの良い人だ。顔立ちなんてハーフかと思うくらいに美形で、立ち振る舞いも凛として気高ささえ感じる。


「友香もご苦労。下がって良いぞ」

「ですが……」

「良いと言っている」

「……はい」


 俺たちを連れてきてくれた少女は友香という名前らしい。天都に言われ、渋々と言った感じで下がっていった。


「先輩、これは一体……」

「いいから二人とも、こちらに来て座りたまえ」


 俺たちは先輩に言われるがままに、居間の中へ入って腰を下ろす。

 ちょうど先輩を真ん中にして、三体一の構図になっている。


「すでに愛葉殿には自己紹介したが、改めてしなければならぬな」


 天都がそう言うと、一つ咳払いをしたのちに口を開く。


「お初にお目にかかる。私は――天都凛。『ギフトキャッスル』というギルドのマスターを務めさせてもらっている者だ」


 !? コイツがギルマスだったのか……!


「……俺はギルド『サーティーン』のギルドマスターで鈴町太羽といいます。そしてこっちは……」

「同じく『サーティーン』の愛されキャラであり、ギルドマスターの愛妻――姫宮小色ですぅ……はぐぅ!? うぅ……いきなり頭にチョップは酷いですよぉ、センパ~イ」

「うるさい。コイツは虚言癖と妄想癖があるので気にしないでください」

「はは、愉快なギルドみたいだな。……安心した」


 ん? 安心した?


 ちょっと気になるワードが聞こえた。

 しかしまずはここにコイツらが来た理由を知りたいので、先輩に目配せをすると、彼女も「分かっている」と言うような感じで頷く。


「実は『ギフトキャッスル』の方たちだが、ボクたちに頼みごとがあって参られたそうだよ」

「……頼みごと、ですか?」


 すると「そうだ」と天都が口にし、そのまま続ける。


「君たちが少数精鋭ながらも、次々とダンジョンを攻略しているのは知っている」

「……なるほど。先輩と同じように、あなたたちも《ドローン》か何かを使って俺たちを監視していたと?」

「情報戦は後れを取るわけにはいかないものでな」


 てっきり先輩のしていることを止めに来たのかもと思ったが、そうじゃないらしい。


「我々が多くの『ギフター』たちを抱えていることは知っているな?」

「はい。この周辺でギルドとしては一番の大所帯ってことも」

「いちコミュニティとしては下の方さ。まあ中には一般人をも吸収し、モンスターと戦わせているギルドもあるみたいだがな」

「それって『自由ハンター同盟』のことですかね?」

「ほう。やはり知っていたか。そうだ。奴らは戦う術を持たない者たちまでギルドに所属させ、ダンジョンに探索に向かわせるなどといった暴挙を行っている」


 彼女の表情からは怒気が漏れ出している。一般人を戦いに巻き込む方法を取っている『自由ハンター同盟』のことを、あまり快く思っていないらしい。


「それで? 大所帯のギルド様が、こんな弱小ギルドにわざわざ何用で来られたんで?」

「弱小ギルド……か。確かに数だけを見ればそうだろう。しかし先ほども言ったように、情報戦において我々も相応のレベルを持つ。故に君たちが……特に君が、どれほどの者なのかは理解している」


 天都の視線が俺に向く。

 恐らく俺の戦いをどこかで見たのだろう。もしくは俺の《鑑定妨害》を破るほどの《鑑定》を使って、俺がどれだけの強さを持っているか知った。

 だとするとコイツが来た理由は……。


「そこでどうだろうか。君たちを我が『ギフトキャッスル』へ迎えたいのだ」




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