第38話 今後の展望

 そこには今まで無かったカテゴリーが存在した。

 確かめてみると、どうやらこちらが値段設定をした物を出品することができ、それを他の『ギフター』が購入することが可能らしい。

 当然買う側からも値段交渉などができるようになっていて、値段を釣り上げたり下げたりすることもできる。


「新しいシステムが追加されたってことか? ……マジでゲームみてえだな」


 実はこの世はヴァーチャルな世界になってしまっていて、誰かがデータをアップロードでもしているかのようだ。


「あ、それにTポイントが、ギルドメンバー内だけじゃなくて、他の人ともやり取りできるみたいですよぉ?」


 姫宮の言う通り、そういう機能も追加されているみたいだ。


「ふむ。……これならもっと効率良くTポイントを稼ぐことができるやもしれんな」

「どういうことですかぁ、愛葉先輩?」


 俺は何となく分かったが、とりあえず先輩の話を聞くことにした。


「この《オークション》で、他の『ギフター』たちが欲するものを出品すれば、普通に〝ショップ〟で売却するよりも高値で売り捌くことができるということだ」

「あ、なるほどですぅ!」

「それに《オークション》を利用せずとも、他の『ギフター』と接触してTポイントを増やすことだって、やり方次第では可能だ」

「……ん? 何で他の『ギフター』と会えばTポイントを増やせるんですぅ?」

「そうだな。例えば…………店を開く、とかな?」

「み、店を開く……ですかぁ?」


 姫宮だけじゃなく、俺もさすがに店というキーワードは頭の中になかったので興味が湧いた。


「うむ。『ギフター』の中には、あまり戦闘が得意じゃない者だっているはずだ。ボクのようにね。だけどアイテムやモンスターの素材などが欲しい。そういう者たちに、Tポイントと引き換えにアイテムや素材を売る店を経営するというのも一つの手さ」

「それって《オークション》とどう違うんですぅ?」

「店の場合は基本的には早い者勝ちで手にできるし、余程のことが無い限りは提示された金額より上がることはないってことだろうな」

「鈴町くんの言う通りだね。《オークション》は制限時間を迎えるまでは売却が決定されない。なので購入希望者が多ければ、出品者が提示した額よりも値が上がる場合がほとんどだ。時間内に最も高値をつけた者に売るのが《オークション》だからね」


 対して店は、普通に来店して商品を見て手に取り、そして金を出して購入するのが基本。

 つまりは早い者勝ちというわけだ。ただし予約制を取らない以上は、求めた商品が無い場合もまたある。


「ん~けど討伐が苦手な人が、払えるほどのTポイントを持ってますかねぇ」

「そこは交渉次第でも何とかなるかもしれないな」

「どういうことですかぁ、センパイ?」

「別にTポイントに限らず、物々交換でも対価に見合えばそれでいいと思うしな。それにそういう連中だって《オークション》を利用すれば、ある程度の稼ぎにはなるんじゃないか?」


 人それぞれ求める者が違うのだ。どんなものでも売れる可能性は十分にある。


「でもそうやってTポイントを貯められるなら、わざわざ店を利用する必要はないんじゃ……〝ショップ〟がありますし」

「だから俺たちはその〝ショップ〟よりも安く提供するってことですよね先輩?」

「うむ。そういうことだね。セール商品なども組み込めば、さらに客層は広がると思うよ」

「通常商品や食材などを安く売る分、錬金商品や料理なんかは割高で取ればいいだろうしな」

「なるほどですぅ。けど店を開いたとして、危なくないですかぁ? おバカな人たちが商売なんか関係あるかぁって、襲ってくることも考えられると思いますけどぉ」


 そうなんだよなぁ。確かにそれが一番の懸念だ。


 そもそも今の世の中は実力主義に偏ってきている。弱者は強者に奪われても仕方ないというような風潮が出来上がりつつあるのだ。まさしく無法地帯である。

 しかし先輩が考えも無しに策を口にするとは思えないが……。


「姫宮くんの不安は当然だろう。というか店を開けば、実際問題近いうちに必ずそういった面倒ごとが起きる可能性が高い」

「だったら止めた方が良いと思いますぅ。店を構えるってことは居場所がバレるってことですし、やっぱ危険ですよぉ」

「うむ。確かに一所に店を構えればそうだろうな。しかし――店の場所が特定できないとすれば?」

「??? ……どーゆーことですかぁ?」


 店の位置が特定されない? …………あ、なるほど。


「もしかして移動販売をするってことですか、先輩?」

「おお、さすがは我が直属の後輩だね。お見事な解答だよ!」

「移動販売……そっかぁ、常に移動していれば安全ってわけですねぇ」

「まあ完全に、とはいかねえけどな。店をするのだから、移動してても話題になるはずだ。それでも一か所に店を構えるよりは、襲われるリスクを減らせる」


 それに撤退もし易いし、新規の客をたくさん掴むことだってできるだろう。


「なら先輩、わざわざ『ギフター』のみを狙わなくても良いんじゃないですか?」

「む? ……ああ、そういうことかい。そうだね、その方が効率が良くなるかもしれない」

「ちょっとちょっとぉ、お二人だけで通じ合ったような顔をしないでください! ちゃんと私にも説明をぉ~!」

「はいはい。つまりは一般人にも商売できるってことだ」

「一般人? ステータスを持ってない人たちのことですかぁ?」

「ああ。この世界で今、最も生き難いのが一般人だろう? 連中には〝ショップ〟なんてねえんだし」


 だからこそ彼らは『ギフター』の庇護下に入り食い繋ぐしかないのだ。でもそれは自由とはほど遠い、籠の中の鳥を示している。


「一般人だって、できれば『ギフター』の言いなりになんかならず、自由に衣食住を手にしたいって思ってるはずだ」

「うむ。そこで我々がそれを提供する代わりに、その対価を頂くというわけだ」

「で、でもでもぉ、一般人にはTポイントは無いですよねぇ」

「だからさっきも言ったろ? なければそれに見合う対価があればいいって。まず簡単なのは金品だな」


 これも〝ショップ〟で売却すれば、それなりのTポイントとして換金できるのだ。

 他にも直接Tポイントにならなくとも、こちらには《ガチャポン》があるのだ。


 アイテムガチャとして回せば、もしかしたら有能な物が手に入る可能性だってある。ここらへんは交渉次第だが、大きなマイナスにはならないように調整すればいい。

 また『ギフター』に対しては、そのガチャで稼ぐというのもある。一度回してもらうと、こっちには300Tポイント入るのだから。


「はぅわ~、お二人ともよく考えてるんですねぇ」

「逆にお前は感情のままに行動し過ぎだ。もう少し考えて動けよ」

「ぶぅ、いいですもーん。危ない時はセンパイに助けてもらいますからぁ」

「あのな……ったく、というわけで先輩、その移動販売の件、煮詰めてみる価値は十二分にあると思いますよ」

「そうだね。ではいろいろ試行錯誤してみるよ。まあ急いでいるわけでもなし、我々『サーティーン』のスローガン通り、のんびりやってみるとしよう」


 俺もちょっと面白そうって思ってるしな。まったり旅をしながら、日本中を巡り、豪邸を購入できるTポイントが貯まったら、景色が良いところで悠々自適な生活をする。何と素晴らしいスローライフじゃないか。実現できれば良いかもしれない。




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