第41話 追いかけてきた者
「それはもちろん君がギルドマスターだからだよ。そういう体面的なことはしっかりしておかないと、後々問題が浮上したりするからね。どんな案件も、すべて最終決定権はギルドマスターにある。それが組織を円滑に進めていく手法の一つだよ」
「俺だって間違うことはありますよ。人間なんだし」
「だからこそボクたちがいるのだよ。そして今回の君は、間違っていないと判断したからこそ、ボクたちは君に従ったのだからね。ね、姫宮くん?」
「もっちろんですよぉ~! まあ私は最初から逆らう気もないですけどねぇ。あ、でもベッドの上だったらイヤイヤってするかもですけどぉ。でもそれは嫌よ嫌よも好きのうちで、演出っていうかぁ~」
「お前はいきなり処理に困るようなことを言い出すなアホ」
もうホントに、この後輩の色狂いはどうにかしてほしい。これでまだ処女だっていうんだから、完全に処女ビッチである。
「まあでも、今回のは君の選択で正しいとボクは思うよ。移動販売の件も含めて、『ギフトキャッスル』の傘下に入るのは難しいだろうからね」
そうなんだ。基本的に『ギフトキャッスル』は東京を拠点として活動するだろうが、俺たちは日本を回る案だって考えているのである。
それを考えれば、確実にギルドの縛りが足枷になってしまう。
「しかしそろそろここを動き出した方が良いかもしれないね」
「ん? どういうことですかぁ、愛葉先輩?」
「ここを嗅ぎ付けているのは何も『ギフトキャッスル』だけとは限らないってことだよ、姫宮くん。他のギルドやコミュニティだって、力のある者を吸収したいと考えるはずだからね」
先輩の懸念は正しい。俺は率先してこれ以上メンバーを増やしたいとは思わないが、仲間が増えればやれることだって増えるし生存率だって上がるだろう。
しかもそれが腕利きなら尚更だ。モンスターを一瞬で殺せるような人材なんて喉から手が出るほど欲しいだろうから。
俺もできれば自分の力をバラしたくないが、どうしても全部の監視の目を誤魔化すなんて無理だ。
《鑑定》というスキルがある以上は、《鑑定妨害》をマックスにでもしなければ素性はバレてしまうだろうし。
それにダンジョンなどで俺の戦い方を観察できるスキルもあるので、どうやっても完全に隠蔽するというのは困難である。
それこそ先輩みたいにダンジョンにも出ずに引きこもっていれば大丈夫かもしれないが。
しかし俺や姫宮が稼ぎ頭である以上は、やはりダンジョンに出向きモンスターを相手にすることになる。
だからこそバレてもどうとにでもなるような準備や対策が必要になってくるのだ。
「これは早々に移動販売の件を現実化した方が良いみたいですね」
「うむ。そうだね。頼んでいた件はどうだい?」
「ええ、見つけておきましたよ――移動用の車を」
街中には放置されたままの車がたくさんある。中にはキーがそのままついているものも。
そんな中から、移動販売用に適用した車を探してほしいと先輩に頼まれていたのだ。
幸い運転免許は、俺も先輩も持っている。まあ、こんな時代に必要かどうかは謎だが。
「キーが差さっていたので抜いておきました。商用車に使えるハイエースのバンですから、大きさは先輩のお望み通りですよ」
「OKだ。持ち主には悪いが、放棄したのであれば頂いておこう」
もちろん普通は犯罪だけどな。
「車はこの近くかい?」
「さっき行ってたダンジョンの傍にありましたね」
「なら誰かに壊されるか奪われる前に確保しておいた方が良さそうだね」
「じゃあ今から俺が行ってこのアパートまで持ってきますかね」
「頼めるかい?」
俺が「もちろん」と言うと、姫宮が「私も行きますぅ!」と手を上げるが、『ギフトキャッスル』の件もあるし、彼女には残るように伝えた。
そして姫宮がアホなことをしないように《ガチャポン》を収納してから、車がある場所へと俺は急いだのである。
アパートから出てしばらく、あと五分ほどで目的地に辿り着くといった時、俺は足を止めて大きく溜息を吐く。
「…………出て来いよ」
そう言って振り向くと、建物の陰から一人の人物が姿を見せた。
「お前は……!」
その顔には見覚えがあった。
「確か『ギフトキャッスル』の……」
天都に友香と呼ばれていたポニーテールの少女だった。
そいつが俺に敵意を含ませた睨みを効かせている。
何となく理由は察せるが……。
「何か俺に用か?」
「っ……何故断ったの?」
やはり天都の誘いを断った件についてらしい。
「アイツにも言ったが、俺たちとお前たちとじゃ活動理念が違うからだ」
「それは聞いた。フリーでスローなライフですって? ふざけてるの!」
「別にふざけてねえ。心の底から本気だっつーの。今の俺の夢……目標だしな」
「夢ぇ? やっぱりふざけてるじゃない! アタシたちには力があるのよ! なら困ってる人たちのために使うべきじゃない!」
困ってる人……ね。言い方的には天都よりはマシか。
「まあそういう考えもありだろうな。ご立派だと思うぞ」
「ならどうして! 知ってるわよ! アンタのレベルは異常なまでに高いことを! どうやってそこまで上げたのか知らないけど、そんな実力があるならアタシたちと手を取り合った方が良いって分かるでしょ!」
「いいや、全然分からん」
「何ですって!?」
「……はぁ。あのなぁ、どんな力を持ってようが、生き方を選ぶのは個人の自由だろうが」
「それは……そうだけど……でも!」
「じゃあ例えば、だ」
「……な、何よ?」
「お前は小さい頃から夢であるピアニストになるために、毎日毎日何時間も練習してきました」
「一体何の話を――」
「いいから聞け」
俺は強めに言うと、彼女は押し黙った。
「そしてコンクールでも優勝し、将来も約束されるほどの腕前になった。……けど、ひょんなことからお前に医術の才能があることが判明してしまう。そう、極めていけば最高の医者になれる資質がお前にはあったんだ」
「……?」
「さて……お前ならどうする?」
「どうって……?」
「すでに夢を叶える一歩手前まで来ているピアニストを諦めることができるのか?」
「で、できるわけないじゃない! 小さい頃からの夢なんでしょ!」
「へぇ、何でだ? だって医者になれば、それこそ何万、何十万という人々を救えるかもしれないのに?」
「っ……それは……」
「ピアニストも確かに人を感動させる職業だ。けど明らかに医者の方が、人を笑顔にさせる価値は高いんじゃないか? 何せ命を救う仕事だ。だから価値の低い夢なんてさっさと諦めて、なりたくもねえ医者になるべきだろうが」
「なりたくもないものになっても辛いだけじゃない!」
「……ああ、そうだな。その通りだ」
俺があっさり認めたので、彼女は「え?」と呆けてしまう。
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