第34話 空気を読まない最強
「? どうしました、センパイ?」
「いや……えっと……」
俺は確認のためにステータスを開いてみた。そして……理解する。
「む? 本当にどうしたんだい? そんなご都合主義展開のアニメを観たような顔をして」
「…………《死眼》のステージが上がってました」
「「はい?」」
多分、ここに来て
「えと……つまりどーゆーことですかぁ?」
「……とりあえず見てろ」
俺はそこから今もなお、美神と戦い続けている悪魔大樹に視線を合わせる。
「――【死線】!」
すると今まではこの距離で使用できなかった【死線】が使用可能になっており、悪魔大樹に〝死滅ゲージ〟が浮き上がった。
だがそこはさすがに82レベル。ゲージの減り方はかなり遅い。
「も、もしかしてセンパイ、あの反則スキル……使えるようになってんですかぁ?」
「……まあな」
「こ、この距離でかい!?」
「……はい」
「「うわぁ……」」
いやまあ……分かるぞ? 視るだけで即死させられるスキルだしさ。しかもこの距離……大体百メートル以上も離れているのに効果範囲なんだから。
俺もまさかステージが上がって、ここまでの距離を可能にするとは思っていなかったし。
もちろん、俺としてはありがたいことだ。かなりの遠距離からこの力を使用できることで、生存率もまたグーンと上がる。
けれど……ちょっとやり過ぎ感は否めないような気がするだけだ。
とはいってもせっかくアップしたスキルなので、問答無用で使わせてもらう。
そうして約二分ほどジ~ッと見続けたあと、悪魔大樹の死滅ゲージがゼロになった。
「グギャギャギャァァァァァァァァァァァァァッ!?」
何だか断末魔の声が切なく聞こえたが、悪魔大樹は徐々に光の粒子となって空へと消えていった。
当然その光景を見ていた者たちは、俺たち以外唖然としている。
何せ圧倒的な存在感と強さを見せつけ、誰も敵わなかったモンスターが、いきなり倒されたのだから。
『ギフトキャッスル』も『天狼』も呆気に取られたように、段々と消失していくジャングルを眺めている。
その中で特に一番困惑そうなのは美神だ。身体から血を滴らせながらも、空中で絶句状態のまま浮かんでいた。
「…………センパイ」
「…………鈴町くん」
「言うな。俺だって分かってる」
何だかちょっと罪悪感に似たようなものを覚えてるしな。
そうだな。強いていえば、命がけで戦争をしている二つの国に向かって、遠くから核ミサイルを発射させて壊滅させたような気分、か。ん? ちょっと違う?
とにかく死に物狂いで戦っていた連中に対し、ほんのちょっとだけ申し訳なさを覚えた今日だった。
「と、とりあえず今は誰にも見つからないように俺の家にでも向かいましょう」
図書館に戻るのは今は危険だと判断し、三人で大学を後にしたのである。
「へぇ~、ここがセンパイのおうちですかぁ。へぇ~、ほぉ~」
「そんなジロジロ見ても何もねえぞ?」
必要なものはアイテムボックスに入れてるし。
「ん、でもセンパイのニオイがします。……はっ、布団を発見! いざ!」
「いざじゃねえよ!」
俺はダイブしようとする後輩の首根っこを掴む。
「んむぅ~! 首絞めプレイは上級者向け過ぎますよぉ」
何だかアホなことを言っている奴は部屋の隅っこに放り投げておく。
俺は畳まれた布団を奪われないように、その上に腰かけて、他の二人にも座るように言う。
「にしてもやはり君のスキルは暴虐なまでに反則だったね」
「ですです! もうセンパイさえいれば、この先何とでもなりそうな感じですねぇ!」
「俺も驚いてんだよ。今まではせいぜい五十メートルほどの距離が効果範囲だったのに、それが一気に倍だしな」
「いえいえ、五十メートルでも普通有り得ませんからぁ」
「だな。さすがは我らが『サーティーン』のギルマスで、『死神』だけはある。マジで前世は『死神』だったのではないか?」
「あはっ、何かそう言われればピッタリかもですぅ!」
先輩と後輩が酷いんですけど。誰か俺の味方はいないものかね……。
「まあそれはともかくとして、改めて二人とも……助けにきてくれて感謝する。ありがとう」
先輩が正座して丁寧に頭を下げてくる。
「ちょ、止めてくださいよ! 頭を上げてください!」
「そうですよぉ! 同じギルメンじゃないですかぁ! 助けるのは当たり前なんですからぁ」
「姫宮の言う通りです。ですからそんなに畏まらないでください」
「二人とも……ありがとう」
俺にとっても大学で唯一世話になった人を見捨てるなどという選択肢はなかった。
だって俺にはそれを成せる力があったから。それなのに何もせずに先輩を失っていたら、きっと後悔していただろう。
それだけ俺の中では先輩は守るべき対象として存在しているのだ。自分でも少し驚きではあるが。
「あ、そうそう! 愛葉先輩! 実はですねぇ、朗報があるんですよぉ~!」
「朗報? 何だい?」
「実はですねぇ、何とっ、討伐ポイントを五百万もゲットしちゃいましたぁ!」
「…………は? え……はい? ご、五百万だって?」
説明を求めるように先輩が俺の顔を見てくる。
どうやってそんな莫大なポイントを稼ぐことになったのかを説明した。
「……それは何ともまあ、人生の運を使い果たしたんじゃないかい?」
「ぶぅ~! そこは可愛い後輩を褒めるところですよぉ! これで一気に大豪邸へと近づいたんですからぁ!」
「はいはい。確かにそうだな。素晴らしい結果をありがとう、姫宮くん」
「えへへ~。あ、そうです、獲得した五百万Tポイントはセンパイに渡してありますからねぇ。だってこれはギルドの運営資金みたいなもんですからぁ」
まあ今回ばかりは、コイツの運が導いた成果だしな。素直に認めるしかない。
「けどまだ俺たちの所持Tポイントを全部合わせても五百万ちょっとだしな。購入できる豪邸はいろいろあるが、最低でも一千万くらいは必要だぞ」
考えてみれば凄い高い。だってさっきの悪魔大樹のTポイントでさえ一万五千程度。つまり単純計算で、あと82レベル相当のモンスターの三百三十三体分必要になる。気が遠くなりそうだ。
これを考えると、モンスターを討伐して貯めていくのは明らかに効率が悪い。
今回みたいにボーナスゲームを利用する方が良いのは良いが、これもまた運の要素が強いし、やはり〝ショップ機能〟の売却システムを利用するのが一番だろう。
実際に高レベルモンスターの素材で錬金した物で、そのモンスター自体を討伐するよりも高値がつく場合がある。
「先輩、今回手に入れた素材を渡しておきますね。あと……多分二人ともすっげえレベルも上がったでしょうし」
俺が悪魔大樹を討伐したことで、ギルドメンバーである二人もまた経験値とTポイントが入ったはずなのだ。
「う、うむ。また何もせずに上がってしまったよ……」
「そこはラッキーって思いましょうよぉ~! 私は嬉しかったですよぉ! だって一気に30まで上がっちゃいましたし! マジでラッキーでぇす! Sポイントで何のスキルをゲットしようかなぁ~」
え、マジで? そんなに上がったのか?
「ボクも37まで上がったよ。何だか申し訳なくなるな」
そういう俺のレベルも55と上がっていた。やはりコアモンスターの経験値は莫大のようだ。
俺は獲得したモンスターの素材を先輩のアイテムボックスへと送る。ギルドのメニューを使えば、わざわざ目の前に取り出して渡す必要もないのだ。
「悪魔大樹の素材は、上手く錬金することができれば高値で売却できるだろうな」
先輩の言う通り、あとは彼女の腕に頼るしかなさそうだ。
それでもあと五百万は結構遠い話ではあるが。
「……ん?」
「どうかしたんですかぁ、センパイ?」
「……見たこともないアイテムがボックスにあってな」
「? それは悪魔大樹の素材じゃないんですかぁ?」
「けど名前が《宝の地図》、だぞ?」
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