第35話 宝の地図

「え? ……ええぇぇぇぇぇぇっ!? ちょ、それマジですかぁっ!?」

「おわっ、お前近い! 近いから離れろバカッ!」


 いきなり飛びつかれたらビックリするじゃねえか。まったくこの魔性の女は。

 俺は無理矢理姫宮を遠ざける。


「セ、センパイ! 早く! 早く説明をぉっ!」

「分かった。分かったからそう興奮すんなっての。えっと……」


 俺は《宝の地図》をクリックして説明文を記載する。

 そこにはこう書かれていた。


『コアモンスター討伐10体目の特典。さあ、地図に従って宝を見つけてみよう!』


 なるほど。確かにステータスを見れば討伐数は10になっていた。


「ならさっそくお宝探しに出かけましょう! さあさあ、金銀財宝ですよぉ!」


 鼻息荒く明らかに異常なまでに興奮している様子の姫宮。本当に財宝が好きな奴である。


「わーったよ。先輩、じゃあここにいてもいいんで、ちょっくら出かけてきますね」

「うむ。ボクは君たちが集めてきてくれた素材で錬金を試しておこう。レベルアップしたお蔭で、錬金のランクも上げられるし期待しててくれ」


 俺はアイテムボックスから地図を出すと、姫宮と一緒に家から出た。


「あれ? でもセンパイ、これってチョー近くないですかぁ?」

「……みてえだな。歩いても行ける距離だ」


 地図には見慣れた町の形が描かれていて、俺の家がある場所からそう遠くないところに宝の絵がある。

 俺たちはそれに従って歩いて行くと……。


「…………センパイ、ほんとにここなんですかぁ?」

「……ああ、間違いないはずなんだがな」


 俺たちは目の前にあるものを身ながら半信半疑に首を傾げていた。


 何故ならそこには――。


「これって…………ガチャポン、ですよねぇ?」

「ああ、どっからどう見てもガチャポンだな」


 中身はスモークガラスのようになっていて確認することができない。


「このガチャポン自体がお宝ってことか?」

「えぇー、何かそれってすっごくショボくないですかぁ」


 俺もどこか肩透かしを食らった感じだ。姫宮じゃないが、もう少しキラキラしたものとか想像していたし。


 あーいかんな。俺も段々と姫宮に毒されてきてるかもしれん。


「あ、それとも中身にはお宝が入ってるとか?」

「ん~だったらとりあえず中身を買えばいいのか? 一応財布は持ってきてるが」


 そこに今は使わなくなった現金も幾らか入っている。


「あれ? でもこのガチャポン、お金を入れるとこありませんよぉ?」

「ん? あ、マジだ。……じゃあ何なのコレ? ただのオブジェ?」


 一応言っておくと、ここは空き地になっていて、そこの壁に面した隅といういかにも変な場所に設置されているのだ。


「玩具……ですかね? ……壊しちゃいますか?」

「物騒な奴め…………まあでもとりあえずいろいろ調べて――」


 ガチャポンに触れた直後、瞬間的にガチャポンが消失し、同時に目前に画面が出現した。


〝ガチャポンを入手しました〟


 ……はい?


「わわっ、いきなり消えちゃいましたよセンパイ! どこに行ったんですかね、ガチャポン!」


 どうやら姫宮には画面が出現していないようだ。キョロキョロと周りを確認している。


「あー姫宮。どうも俺のアイテムボックスに収納されたみてえなんだわ」

「え? そうなんですか?」

「ああ、ちょっと待ってろ」


 俺はアイテムボックスを開いて、《ガチャポン》とやらの取り扱い説明を確認する。

 簡潔に言えば、やはりコレ自体がお宝のようだ。

 使う時は外に出して使用するらしい。


 ただもちろんガチャなので、回すには対価が必要となる。

 SポイントでもTポイントでも回すことができるが、Sポイントで回す方がよりレアなものを手にできる確率が高いとのこと。


 しかも上限が無いので、一回に注ぎ込めば込むほどレア度は上がる。

 これはあれだ。ギャンブル中毒者には絶対に渡してはいけない代物だということが分かった。そう、ギャンブル中毒者には……。


「はあはあはあ……セ、センパイ、私……それを回してみたいですぅ!」


 ……ダメだコイツ、早く何とかしないと。


 もう目の色が変わってしまっている。ボーナスゲームもそうだったが、何でコイツはこういうギャンブルが好きなのだろうか。


「とりあえず家に戻ってからな。ここだと目立つし」

「じゃあ早く戻りましょう! さあさあ!」


 コイツ……将来破滅しねえだろうな……?


 後輩の将来を不安に思いつつ、俺たちは帰宅の途に着いた。




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