第33話 大手ギルド集結
「愛葉先輩もご無事で何よりですぅ!」
「心配かけてしまったな。すまない」
「姫宮、変わったところはここだけか?」
「えっと……はい。上から見た限りじゃ」
「なるほど。つまりこのジャングルの中にコアモンスターが潜んでいる可能性が高いというわけだね」
俺も先輩の考えに賛同だ。敷地内の一部だけがこうして進化したのだから、その進化部分に重要な存在があると考えるのは普通だろう。
恐らくはコアモンスターで間違いない。きっと『ギフトキャッスル』の連中もそう考えて突っ込んだのかもしれない。
「どうする鈴町くん? ボクたちも参加するのかい?」
「えぇー、ジャングルなんて止めましょうよぉ~。虫とかイッパイいそうじゃないですかぁ」
「うっ……それはボクもちょっとノーサンキューではあるね」
「大丈夫ですって。よく分からないもんに勢いだけで突っ込むなんてことはしませんよ。挑むとしても情報が必要ですしね」
ここはとりあえず攻略は他の連中に任せて俺たちは帰ることに……。
そう判断しようとした直後、俺の《気配感知》に多くの反応が引っかかる。
「先輩、姫宮! ちょっとこっちに!」
「えっ、ちょセンパイ!?」
「い、いきなり腕を掴んで何を!?」
二人の腕を引っ張って、俺は建物の陰へと隠れる。
「鈴町くん? 一体――」
「しー、静かに。姫宮もな」
二人は困惑気味たったが、俺の険しい顔を見て押し黙った。
するとジャングルに向かって、狼のシルエットマークが刻まれた赤い布を身体に身に着けた男たちが姿を見せたのである。
「! あのトレードマークの赤い布……恐らくは彼らが『天狼』だよ」
まさか俺たちが通っている大学に、先輩が注目しているギルドが二つも集まるとは……。
そう思った矢先、空から何かが滑空してきた。
「うひゃあぁ~! いいですねぇ~、何ですかこれはぁ~! 面白そうじゃないですかぁ~!」
目をギラつかせてやってきたのは、ついさっきまで一緒だった人物――美神ミミナだった。
……訂正しよう。まさかココに、三大勢力が揃い踏みするとは思いも寄らなかった。
さすがの先輩も、予想だにしていなかった事態らしく、隣で姫宮と一緒に呆けてしまっている。
ちなみに美神はというと、そのまま愉快気な笑みを浮かべながらジャングルへと突入していった。
そして男だらけの集団――『天狼』もまた二手に分かれて探索へと入って行く。
どうやら三者が、この進化したダンジョンに興味を示し集ったようだ。
「何だかボクたちは場違い感ハンパないね」
「ですね。攻略はああいう熱意のある連中に任せて俺らはさっさとおさらばするとしましょうか」
「ですですぅ! わたしたちはもうちょっと安全なダンジョンでチマチマ稼げば良いんですよぉ~」
どうやら俺たちの意見は食い違うことなく一致したようだ。
だがそこで去ろうとした瞬間、またも大きな動きが起きた。
ジャングルの方からけたたましいほどの獣の咆哮のようなものが轟いたのである。
反射的に、その声の方へ視線を向けると、驚くことにジャングルの中央部分がグネグネとうねり始めたと思ったら、突然隆起し始め天を突くような勢いで木々が伸びていく。
グングンと凄まじい速度で、たくさんの木々が融合して成長していく。
瞬く間に、それは一本の大樹になり、俺たちは思わず絶句してしまう。
そんな中、大樹の幹部分に亀裂が同時に三つ走った直後、バキィィッと大きく開いた。
それはまさに、目と口のようなものへと変貌を遂げ、明らかに口と思われるところから不気味な声が響いている。
「え? はい? あれ……モンスターなんですか? センパイ?」
「……みてえだな。《鑑定》使ってみりゃ分かる」
そこにはモンスターの名前とレベルが記載されている。
悪魔大樹という大層な名前をお持ちだ。
しかし最も驚くことは、そのレベルである。
「うわっ、82レベルですってセンパイ。ヤバくないですかアレ」
「おう。多分あれだなぁ、俺が初めて出会ったドラゴン並みにすげえ奴なんだろうなぁ」
82なんて、ほぼほぼラスボス級じゃね? しかもアイツでか過ぎ。一体何メートルあんだよ。
推定でも地上から二百メートルくらいはあるだろう。俺が遭遇したドラゴンよりも明らかに大きい。
すると頭部? 葉が生い茂っている部分から、木の実みたいな赤い物体が突如実った直後、その実が地上に向けて雨のように降り注いだ。
そして実は地上で爆発を引き起こし、同時に悲鳴がこだましてくる。
「うわぁ、何ですかあの凶悪な広範囲攻撃は……どう避けろと?」
俺も同意見だ。姫宮は顔を引き攣らせて苦々しい表情を浮かべている。
しかも一つ一つの爆発力も大したもので、たかが25レベル程度の奴らでは一撃で瀕死近くまでいってしまうだろう。
事実ジャングルからは「退却―っ!」や「逃げろぉー!」などといった声が飛び交っている。
「ボクたちは離れていて良かったな。危うく巻き添えをくらうところだった」
先輩が心底ホッとした様子だ。無理もない。あんな中にいたら命が幾つあっても足りないからだ。
それに恐らくあの攻撃はまだ序の口である。その証拠に、今度は無数の枝がまるで鞭のように動いて、地上の者たちへ襲い掛かっていく。
さすがに攻略するのは不可能と判断したのか、『天狼』や『ギフトキャッスル』の連中が慌ててジャングルから逃げ帰ってきた。
負傷した仲間も何人か担いでである。しかし明らかに全員じゃない。恐らくは中で殺された可能性が高い。
するとその時だ。ジャングルからヒュンヒュンヒュンとハエのように素早く飛び出てきた人物がいた。――美神だ。
彼女だけは、あんなバケモノを目の前にしても楽しそうに笑みを浮かべている。
しかも全身血塗れで。
「げっ!? な、何ですかアレェ!? 美神さんですよね!? 明らかに致命傷だと思うんですけどぉ!?」
「あの者は確か……いや、そんなことより姫宮くんはあの者と知り合いなのかい?」
そういや先輩には、再びアイツと会ったことを言っていなかった。
だから一応簡潔に、再会して目をつけられてしまったことを教えておく。
「――ふむ。なるほど。君は本当に変わった人種に好かれる人だね」
失敬な。でもそれだと先輩も変わってるってことに…………ああ、変わってるな、間違いなく。
「とにかく姫宮、多分アイツは大丈夫だ」
「え、でも体力ゲージだってもう無いですよぉ! 死んでしまいますぅ!」
「見てりゃ分かる」
確かに満身創痍の美神だが、徐々に身体の傷が治っていき体力ゲージも戻っていく様子を見て、姫宮は驚愕して固まっている。
実際にもっと酷い即死級の攻撃を受けているところを見た俺と先輩はさして驚きはない。何せそれでも問題なく生き返ったのだから。
……アレが『吸血鬼』のジョブの力なんだろうな。……チート過ぎじゃね?
死なないってどんな能力だよ。無敵じゃねえか。
たとえ勝てなくても絶対に負けない体質は、もはやバランスブレイカーとしか言いようがない。まあそれを言ったら俺もそうなんだけどさ。
そんな美神は、攻撃を受けて弾き飛ばされながらも、回復してからまた突っ込んでは飛ばされていく。その度に、頭は四肢が千切れ飛ぶので、姫宮と先輩は顔を背けてしまっている。
まあ完全にホラーだもんなぁ。俺だっておっそろしいわ。
この現状、ではない。何度殺されても笑いながら戦うあの美神という人間に戦慄している。
普通ならたとえ生き返るとしても、人間には感情があるのだから恐怖や不安といったものが心を押し止めてしまうはず。本能だって、アレにはどう足掻いても勝てないと分かれば逃げるような思考を巡らせるだろう。
しかし美神は、死ぬことすら楽しんでいるような感じがする。
まさに狂気に支配された戦神のような存在だ。
人としての大切な部分があの子には欠けている気がする。
まあ俺がとやかく言うようなことじゃないが、やはりあまり関わり合いになりたくない人種だ。
できればデバガメのように、今のうちにあのデカブツを殺してやりたいが、さすがに距離があって【死線】を使っても……。
「…………あれ?」
……何か今、悪魔大樹の近くに見慣れたゲージが浮き上がったんだが……。
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