第26話 謎のスイッチ
姫宮が加入したことで、ギルドとして目指す目的を立てた俺たちは、翌日から精力的に討伐ポイントを集めるために動いていた。
先輩は情報集めとともに錬金をして、〝ショップ〟で売却できるものの作成に従事。
俺と姫宮は、モンスターを討伐しポイントを稼ぎつつ、素材などをできるだけ多く集めていく。
ということで、さっそく先輩が《ドローン》によって見つけておいたというダンジョンへと足を延ばしたのである。
そこは解体予定の廃ビルで、先日ここからモンスターが現れている姿を発見したのだという。
建物は五階建てだが、横幅が広く部屋数も結構多い。ビルというよりマンションと呼んだ方がしっくりくる。
この部屋の中のいずれかにコアモンスターがいるのだろうが、虱潰しに探していくしかない。
ただ今回は、モンスター討伐もそうだが、ある物を探すためにも来た。
それは――宝箱である。
見つければ、罠以外で確実にタメになるご褒美が入っているので、姫宮が是非とも手に入れたいと言い出したのだ。
「じゃあ一階から探していくけど、罠には十分に気をつけろよ?」
「ダイジョーブですってばぁ。怪しそうな場所だったらちゃ~んと《鑑定》を使いますしぃ」
こう見えても結構強かな奴だから、あまり心配はしていないが。
ただお宝に目が眩んで、我を忘れないことだけは祈っておく。
「……お、さっそくモンスターだぞ」
豚を擬人化させたようなモンスターだ。手斧を持ってうろついている。
レベルは16と、そう高くない。しかし14レベルの姫宮には辛い相手かもしれない。加えて二体もいるから、まともにやり合うのは難しいだろう。
「ふむふむ、名前は――グリーンオーク。レベルは16ですか」
ちゃんと《鑑定》を使っているようで何よりだ。
「じゃあさっそく仕留めちゃいますね! おーい、グリーンオークさ~ん!」
通路でウロウロしていたグリーンオークに対し、いきなり待ち合わせでもしていたかのようなテンションで手を振る姫宮。
当然ながら向こうは、俺たちの存在に気づくと敵意を膨らませ駆け寄ってくる。
すると姫宮の瞳が真っ赤に染め上がると同時に、一体のグリーンオークの瞳も赤い輝きを放った。
直後、どういうわけか赤目のグリーンオークが、仲間であるはずのもう一体のグリーンオークに向かって攻撃をし始めたのである。
「! ……何したんだ?」
「敵を誤認させただけですよぉ。あの攻撃してるグリーンオークの目には、もう一体のグリーンオークが私に見えてるはずですぅ」
「……そうか。姫宮はオークだったのか」
「なっ!? そ、そんなこと言ってないじゃないですかぁ! ていうか乙女に向かって豚とは何事ですか!」
「豚とは言ってねえし。オークとは言ったが」
「豚でしょ! アレ、どっからどう見たって豚じゃないですかぁ! そんなに太ってますか! 私これでも痩せ型のはずなんですけどぉ!」
「あー分かった分かった。冗談だって、悪い」
「もう! 私はセンパイに傷つけられました! お詫びを要求しますぅ!」
「……何だよ?」
「ギュッて抱きしめて『好きだよ、小色』って囁いてください」
「却下」
「何でですかぁ!」
「そんなこっぱ恥ずかしいことできるか。そういうのはイケメンだけに許された行為だぞ」
「センパイだって、世間的には上の下くらいはあると思いますよぉ?」
何だろう。嬉しくないな。上はともかく、下って言葉が嬉しさを半減させている。
「でもでもぉ、私にとっては最上級にカッコ良いですよ?」
「はいはい。お世辞ありがとね」
「も~う、お世辞じゃないですからぁ」
「んなことよりあの豚ども、相討ちになって倒れてるぞ?」
互いの武器が身体にめり込んだまま、グリーンオークは倒れてしまった。
まだ生きているのか消滅はしていない。
「フフン、じゃああとはトドメだけですねぇ」
姫宮が、自分のアイテムボックスから弓矢を取り出す。
そういやコイツ、元々弓道部だったっけか。
狙いを済ませた一撃が、見事倒れているグリーンオークの頭部に命中する。そしてもう一体の方にも同じように命中させ、二体のグリーンオークは光となって消えた。
「お見事」
「えへへ~、ブイッ!」
どうやらレベルに見合う通り、そこそこの戦闘経験はあるようで心配いらないようだ。
たとえ格上相手でも、コイツのスキルは強力だし十分に通用する。
そうして遭遇するモンスターを確実に仕留めつつ、一室一室部屋の中を洗っていく。どこも当然ながら家具などもなく殺風景な光景が広がっている。
たまに床に仕掛けがあって、落とし穴や壁に仕込まれた矢などの罠が発動したが、どれもしっかり対処したので問題ない。
怖いのはスイッチを踏むと、突然周りに大勢のモンスターが現れたりする仕掛けだ。
何度か経験あるが、あれはいつ体験してもギョッとしてしまうし嫌いである。
「むぅ~、宝箱見つかりませんねぇ」
「中規模ダンジョンでも、必ず見つかるとは言えねえからな」
「この際、レベルを上げて《お宝センサー》のスキルを獲得しときましょうかねぇ」
「止めとけ。あったら便利だが、Sポイントなんて50もするんだぞ? 今はもったい無さ過ぎるわ」
《お宝センサー》は、近くに宝があれば警告音のようなもので知らせてくれるらしいが、今はそれよりも他に取るべきスキルがあるので見送った方が良い。
「あ、センパイセンパイ! これ見てください!」
一つの部屋に入った時、そこには壁一面に〝バツ印〟が刻まれていた。
「落書き? ……最初からあった……わけねえよなぁ」
ずっと前にここらへんをたむろしてた連中がいて、忍び込んで落書きを……と思ったが、だったら〝バツ印〟一つだけってのが引っかかる。
他の壁や床は綺麗だし、何か意味のあるもののような気がするのだ。
「よく分かりませんねぇ。次行きましょう次~!」
そう言って一階のフロアにある最後の部屋に入ると――。
「ん? ……何だこのいかにも怪しさ爆発のスイッチは?」
壁に設置されていたのは、ハンドルを上下して切り替えるタイプのスイッチだ。それが綺麗に横並びに六個もある。しかもそれぞれ上部に番号が大きく左から順に、1、2、3、4、5、6と書かれていた。
「どれも上げてありますけど……全部下ろしてみます?」
「あのな、お前は少しくらい警戒しろバカ。罠の可能性がプンプンするだろうが」
「けどゲームじゃ、こういうスイッチって、正解とかあって、宝箱が隠されてる部屋とかに行けたりするじゃないですかぁ」
確かにそういうゲームも存在するが……。
「……ふぅ。《鑑定》にも反応無しか。どうやらそういうインチキができないようになってるみてえだな」
少しでも攻略者に情報を与えないようにしているようだ。一体誰が? とも思うが、考えてもしょうがないので、そういものだと割り切っておこう。
「試しに一つだけ下ろしてみましょうよぉ」
「何でそんなに嬉しそうなんだよ。……まあ、ダンジョンのレベル的に、今の俺だったら即死するようなことはないと思うし、試すとしたら俺がする」
「! んふふ~、やっぱりセンパイは後輩思いですねぇ」
うるさい奴だ。まあ俺もこういうシチュエーションは嫌いじゃないし、何のスイッチか確かめたいというのも事実だ。
「お前は一応外に出てろ」
「わっかりましたぁ」
俺は彼女が部屋を出たのを確認し、再度スイッチ群を見回す。
「全部で六つ……か。ものは試しだな。左端のヤツを上げてみるか」
1と書かれたスイッチに手をかける。
ハッキリ言って無謀な挑戦かもしれないが、さすがに50レベルの俺を一瞬でどうにかするような罠はこのダンジョンにはないだろう。
俺は思わず息を止めてスイッチを下ろしてみた。
すると頭上からタライが落下してきて、気づいた時にはすでに遅く――ガシャーンッ!
「いった!?」
タライの餌食になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます