第25話 大手ギルド
「そうですね。幾つか調味料とか日用品や雑貨などを入手できましたね。まあ食料品に関してはほとんどありませんでしたけど」
「まあそれはしょうがないだろうね。誰もが率先して手に入れようとする代物でもあるし」
「えぇー、わざわざ探しに行ったんですかぁ。そういうものだって〝ショップ〟で買えると思うんですけどぉ」
「姫宮、節約は大事だぞ。それにこれからは大豪邸の購入を目指すんだろ? できるだけ討伐ポイントは温存した方が良いんじゃないか?」
「そう言われればそうですねぇ。ところでセンパイ、センパイが行ったモールってドラゴンが現れた場所なんですよね? センパイが死にそうになったっていう」
「思い出させんなよ。マジで死ぬかって思ったんだからな」
もし俺にステータスが無かったらと思うとゾッとする。あそこでは多くの者たちが、ドラゴンや他のモンスターによって殺されたことだろう。
中には自分が『ギフター』だと知らずに死んでいった者だっていたはずだ。
俺が生き残れたのは本当に運が良かったとしか言いようがない。
「そのモールって誰か住んでたりしないんですかぁ? 物件としては有りだと思うんですけどぉ」
確かにこんな図書館よりも広々としているし、拠点にするには良い場所かもしれない。
一度ダンジョン化した場所が、再度ダンジョン化した情報は無いし、安全といえば安全であろう。
しかし俺は嫌だ。もちろん殺されかけたという嫌な思い出もそうだが、あそこでは大量の人間たちが死んだ。幽霊を信じているわけじゃないけど、さすがにそんなとこに住むのは心が拒否してしまう。
「そういえばセンパイってホラーものって苦手でしたもんねぇ」
「苦手じゃねえ。ビックリするのが嫌いなだけだ」
「それ……苦手っていうんですよぉ」
「ほほう。意外にも可愛らしいところがあるじゃないか鈴町くんは」
二人がニヤニヤとした表情を見せてくる。ちょっとイラっとした。
「はぁ……あそこに住んでるか知らんが、俺以外の人間を数人見たな」
ギャルハーレムを作っていた男の話を伝えてやった。
「コンタクトは取らなかったんですね」
「どんな奴か分からなかったからな。過激な連中だと面倒だし」
「でも《鑑定》でレベルを見たんですよね? 襲ってきてもセンパイならサクッと返り討ちできるんじゃ……」
「真正面から向かって来られたらな。けどもしかしたら厄介なスキルを持ってるかもしれないだろ? だから初対面の奴相手には常に警戒マックスがちょうど良いんだよ」
「うむ。その者たちがどういう連中なのか、あとで幾らでも調べようがあるからね」
先輩の言う通りだ。そうやって情報を集めてからでも接触は遅くない。
「そういや気になるといえばもう一つ、姫宮をナンパしてた連中のことだな」
「ふぇ? 私ですか?」
「ああ。奴ら、確か自分たちのことをこう言ってただろ。――『自由ハンター同盟』のメンバーだって」
「あ……そう言えばそんなこと言ってたかもです」
「……! 今『自由ハンター同盟』って言ったかい?」
先輩が目を細めて聞き返してきたので、「知ってるんですか?」と尋ねた。
「例の《ドローン》を使って、外の状況などをいろいろ調べていて分かったことが幾つかあるんだよ。ちょうどさっき情報整理が終わったところで、夜にでも君に話しておこうと思ったのだが」
最近、ダンジョン攻略にて徒党を組んで挑む者たちが増えてきているとのこと。
そして恐らくはギルドのシステムに気づき始めた連中が、ギルドを創設して攻略に当たっていると先輩は推察した。
その中で、それなりの規模で活動しているギルドや、その他の集団を幾つかピックアップしたという。
「一つは男だけの『ギフター』のみで構成されているギルド――『天狼』」
ずいぶんな名前を付けたもんだ。……俺も人のことは言えんけど。
ただ男だけってのはちょっとアレな感じがする。ほら、BL的な?
「二つ目は男女複合型のギルド――『ギフトキャッスル』。ここらで一番規模の大きいギルドがこれだね」
なるほど。確かに男女問わず受け入れているなら当然そうなるだろう。
「そして三つ目だが、ここはギルドとしての体裁を整えてはいるが、所属しているメンバーは『ギフター』だけじゃない。名前は――『自由ハンター同盟』」
「! ……確かにギルドのシステムを受けられるのは『ギフター』だけですもんね。けれどメンバーは一般人もいるってことですね」
「うむ。つまりは一種のコミュニティみたいなものだね。そして集団という括りで見るなら、当然『自由ハンター同盟』が一番の規模を持っている」
先輩曰く、この三つが注目すべきギルドやコミュニティだという。
他にも俺たちみたいな数名だけのギルドもあるらしいが、ここ数日で、この三つの集団のどれかに所属する連中も増えているのだそうだ。
「そうですねぇ。数が多ければ攻略だって楽になりますし、安全に討伐ポイントだって稼げますもんねぇ」
姫宮の言う通りだ。より安全で確実な方法を取るなら人海戦術が一番だ。
または強いギルドに所属すれば、モンスターがこの世にいる限り一生安泰に暮らせるだろう。
「特に『自由ハンター同盟』に加入する連中は、どんどんと数を増しているらしい。特に一般人にとっては守ってもらえるし、衣食住には困らないはずだしね」
つまり『ギフター』の討伐ポイントで購入できる代物が目当てというわけだ。
たとえ自分たちで街中を探し回らなくても、『ギフター』の傍にいればおこぼれを受け取れるのだろう。確かにその方が生存率は高い。
「何でも『自由ハンター同盟』の盟主? それともギルドマスターといえばいいのか分からんが、その者は『女王』と呼ばれているらしい」
……女王……!
俺はあることを思い出した。
そういえばギャルハーレムを築いていた男が、『女王』と口にしていた。
もし『自由ハンター同盟』の盟主のことだとしたら、アイツらもまたナンパ野郎たちの仲間だということになる。
荒くれ者に、ギャル、それにハーレム男と、統一感がない集団だ。
まるで来るもの拒まず、手当たり次第に規模を広げているだけのように思える。
「その女王の名前や顔とか分かってるんですか?」
「残念ながらそこまでは。ただ女王の素顔を、ほとんどのメンバーは知らないようだよ」
「は? それでよく運営できますね」
「女王は気まぐれというか、いつも一人で攻略に行き、たまに顔を見せに来る程度のようだ。しかしその代役として皆を纏めている人物がいる」
「女王の右腕ってことっすか?」
そういえばハーレム男は女王代行という発言をしていたのを思い出す。
「ああ。名前は
「ちょ、帝原って、あの帝原先輩のことですかぁ!?」
何やら姫宮は知っている様子だが……。
「は? ……誰?」
「はぁ……君はこの大学の有名人を知らなさ過ぎるよ」
「有名?」
「そーですよぉ、センパイ。今年入学した私でもその人のことは知ってますよぉ?」
どうやらこの中で俺だけが知らない常識らしい。そんな常識なんて犬にでも食わせてやれ。
「帝原先輩は私たちと同じ大学に通う四年生ですぅ。眉目秀麗、文武両道、才気煥発、彼を表す言葉のすべてはエリートそのもの。事実主席入学してからずっと成績はトップで、在学中に司法試験を一発合格し、全日本学生テニス選手権大会では三連覇してる人ですよぉ!」
うわ、何その完璧超人。漫画から出てきた人なのかな?
「しかも家は帝原グループの跡取り息子でお金持ちですしぃ」
……何だかそこまで行くと、妬ましさを飛び越えて逆に「ふ~ん」てなるな。凄過ぎて同じ人間だと思えないからかもしれない。
「えーと、その超人が『自由ハンター同盟』のサブマスターみたいなことをしてる、と」
「そうさ。女王の意向かどうかは知らんが、今は彼がコミュニティを維持しているといっても過言ではないだろうな」
「なるほどなぁ。けどそんな凄い奴なら、ギルドを創設してマスターにでもなればいいもんを」
「そうですねぇ。もしくは、その女王って人が、帝原先輩よりも優秀な人だったり?」
「だとすりゃそれはもう人間じゃねえな」
帝原でさえ現実離れした存在なのに、それ以上となると想像することもできない。
言えるとするなら、俺とは住む世界の違う人間ってことだろう。
ただそんな完璧な人間が運営しているのに、何故あんなどうしようもない連中まで引き入れているのかは疑問だ。
あんな連中、百害あって一利なしのような気がする。俺だったら確実に仲間にはしない。
だって絶対にフリーでスローなライフを脅かす存在だろうから。
「これからダンジョンを攻略していくに当たって、他のギルドや『ギフター』との接触は避けられないだろう。君なら大丈夫だと思うが、十分に注意をしてくれ」
「了解です、先輩」
「ダイジョーブですよぉ。センパイには私がついてますからぁ。二人で一緒に攻略頑張りましょうねぇ」
「あ、ああ……」
「っ!? す、鈴町くん! ボクもたまには一緒に攻略に赴くからね! これ約束! 守らなければ酷いことになるよ!」
「わ、分かりましたから。……何をそんなに必死になってるんだか」
相変わらず女性という存在は分からないと思い溜息を吐く俺だった。
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