第22話 悪魔な後輩

 …………何でこんなことになったのか。


 現在、俺たち三人は、誰もいない体育館へとやってきていた。

 ここなら多少暴れても、外から見られる確率も低い。

 そして俺は、そんな体育館の中央に立ち、後輩である姫宮と対峙していた。


「ささセンパイ! どっからでもかかってきてください!」

「って言われてもなぁ……」


 さすがに《死眼》なんて使えないし。刀だってアイツ相手に振り回したくはない。できることとしたら徒手空拳だが……。

 それでも俺のレベルは高い。


 しかし《鑑定》で見極めようにも、コイツのステータスを確認することはできなかった。

 恐らくだが俺と同じ《鑑定妨害》のスキルを得とくしているのだろう。


 これでレベルもパラメーターも不明だ。ただだからといって俺よりレベルが上とは到底思えない。


「ほらほらぁ! 早くしないと日が暮れちゃいますよぉ!」

「……はぁ。しゃーねえか」


 とりあえずかかってこいって言ってるんだから、実力を試すにもそうするしかない。

 俺はなるべく手加減しつつ、姫宮の背後へと素早く移動する。


 そして拘束して終わらせようとしたが――。


 伸ばした右手がスカッと空を切った。


「……は?」


 そこにいたはずの姫宮の姿が消えていた。


「へっへ~ん、どうですぅ、セ~ンパイ!」


 その声は頭上から聞こえてきた。

 見上げると、そこにはフワフワと宙に浮かぶ姫宮の姿があった。

 しかもその背からは、黒い翼が生えている。


「なっ……お、お前それって……!?」

「んふふ~、さあさあ、私を捕まえてみてくださいよぉ」


 そう言いながら縦横無尽に空を飛び回る。

 翼? ていうか空を飛べるようなスキルは確かにあったが、翼が生えるようなものじゃないことは確認済みだ。


 つまりアレは――。


「――アイツのジョブの能力か?」


 そうとしか考えられない。

 それによく見れば、臀部近くから何か細い尻尾のようなものまで生えているのだ。

 さらに頭部には、小さな角のようなものがチョコンと二本ほど顔を覗かせている。


「セ~ンパイ! どうですかぁ? 驚きましたかぁ? 驚きましたよねぇ? 実はですねぇ、私のジョブって――『悪魔』なんですよぉ」

「あ、悪魔だって!?」

「はい、そうなんですぅ~!」


 そんなジョブがあったのか……? いや、『死神』の俺が言えることじゃねえけど。

 てかアイツ……とうとう本物の魔性の女になりやがった……。


 今までは比喩でしかなかったが、こうして見ると、男をかどわかすサキュバスみたいな悪魔にしか見えない。


「そ・れ・に~! まだこ~んなこともできますよぉ!」


 すると姫宮の双眼が赤く光り輝く。

 直後に、姫宮が一人、また一人とどんどん増えていく。

 そしてあっという間に、体育館を埋めるような数になってしまった。


「これはっ……驚きだな」


 まさか分身まで使えるとは……。


 なるほど、確かにこれだけの能力を持っているなら、多少なりともお袋さんたちが認めるわけだ。


「「「「よーし、このままセンパイに勝っちゃいますよぉ!」」」」


 周囲にいる姫宮たちが、一気に押し寄せてきた。

 こちらに向かって一人の姫宮が手を伸ばしてきたので、その手を掴もうとするが何も掴めなかった。まるで立体映像を相手にしているかのようで。


 なるほど。あれは分身ってよりは幻惑ってところか。


 つまりは本体以外は全部幻なのだ。

 しかしどれが本物か分からない以上は、全部の攻撃に対処するしかない。


「……面倒だな。だったら――」


 俺はアイテムボックスから一つのアイテムを取り出す。俺の手にあるのは、葉っぱ型の巨大な扇だった。

 同時に姫宮たちがギョッとして固まる。


「この《天狗扇てんぐせん》で、せーのぉっ!」


 力任せに扇を振るうと、扇によって押し出された空気の塊が暴風となって姫宮たちに襲い掛かる。


「そらっ! こっちも! そっちもだぁ!」


 あらゆる方向へ風を飛ばしていく。

 幻である姫宮たちは、その場から動きはしないが……。


「きゃあぁぁぁぁっ!?」


 本体は風に押されて吹き飛ばされてしまう。

 そのままだと先にある壁に激突しそうだったので、俺はすぐさま全速力で接近して、壁に激突する前に姫宮を抱きかかえて床へと着地した。


「セ……センパイ……!」

「とりあえず俺の勝ちってことで、いいよな?」

「むぅ、勝てると思ったのにぃ……」

「そう言うな。お前が凄えってのは分かったし」

「ほんとですかぁ! えへへ~、まあこれはこれで役得ですし。満足しておきましょう!」


 ギュッと俺の首に両手を回して顔を寄せてくる。


 うわぁ、すっげえ良いニオイ。


 甘い香りで一瞬クラッとしそうになった。それに柔らかいし。


「こ、こらーっ! いつまでそうしているつもりだい! ボクの前でハレンチ行為は許しはしないぞーっ!」


 先輩がお冠なようなので、俺が姫宮をサッと下ろすと、姫宮は若干不満げな様子を見せた。

 とにもかくにも、姫宮のステータスを聞き出しておく必要があることだけは分かったのである。





 図書館へと帰還した俺たちは、さっそく姫宮から彼女のステータスを教えてもらい、俺たちもまた彼女に伝えることになった。



 姫宮 小色   レベル:14  スキルポイント:0


 体力:350/350   気力:520/520

 筋力:42  耐久性:48

 特攻:88  特防:55

 敏捷:47    運:65


ジョブ:悪魔(ユニーク)

スキル:不現の瞳(ステージⅠ【幻視】)・鑑定B・鑑定妨害B・状態異常耐性B


コアモンスター討伐数:2

討伐ポイント:340


称号:魔眼持ち・魔性の女




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