第23話 ギルドのスローガンと目的

 なかなかに優秀なパラメーターを持つステータスだ。

 それに取得しているスキルも、生き残る上で大切なものを選択できている。

 レベルはまだ低いものの、28レベルの先輩とそう変わらないのは、俺と同じ〝ユニーク〟のジョブを有しているからだろうか。


 ……てかコイツ、とうとう称号にまで『魔性の女』がついてんだけど……。


 一体誰がどんな目的で称号なんてシステムを作ったのか知らないが、仮に神様だったとしても、コイツのことをよく分かっていらっしゃる。


「げっ、センパイって強過ぎませんか!? どんだけ頑張っちゃってるんですかぁ!」


 まあ50レベルだしな。そりゃ驚きもするか。


「あのとんでもない攻撃力と敏捷さに納得できましたよぉ……てか、あの団扇みたいなのって何だったんですかぁ?」

「ああ、あれは《天狗扇》って言って、〝ショップ〟で購入できる武器の一つだな。その効果はお前が体験した通り、暴風を起こすことができる」

「へぇ、そんなものまであったんですねぇ」

「他にもいろいろ特殊なアイテムとか武器なんかもあるから、討伐ポイントに余裕があったら買っておくべきだと思うぞ。それだけで生存率がグッと上がるしな」


 実際に俺は他にも様々なアイテムを購入している。


「しかし鈴町くんもそうだが、よもや姫宮くんも〝ユニークジョブ〟だったとはね。この《不現の瞳》とやらで、先の分身を作り出したというわけか」

「フフン、そーゆーことですよ愛葉先輩! アレは【幻視】の効果で、自分の幻を複数生み出したのです!」

「幻術というわけか。これはまた強力なスキルだな。汎用性でいうなら、鈴町くんの《死眼》よりも強力ではないか?」


 確かに。俺のは相手を死滅させることだけに特化したもので、攻撃力という面に関しては他に劣ることは絶対にない。


 しかし姫宮の能力は、応用範囲が広いし使い勝手が良い。幻を見せるということは、相手を催眠状態に置くことに他ならない。これほど強力な精神攻撃は俺は持ち得ていない。


 それに《状態異常耐性》を備えている俺にも効くということは、恐らくは姫宮の幻術は相手の防御をある程度無視することができる。さすがは〝ユニーク〟といったところか。


「せっかくだから姫宮くんも『サーティーン』に加入させたらどうかね、鈴町くん?」

「……いいんですか?」


 まさか先輩から率先してそのような提案が来るとは思わなかった。

 あまり他人を迎え入れることに積極性がない先輩だからだ。


「さーてぃん? 何ですぅ、それ?」


 俺はギルドについて説明してやった。


「ほぇ~、こんな機能があったなんて知りませんでしたよぉ」


 だよな。普通気づかないよな。良かった……俺だけが遅れてるわけじゃなさそうだ。


「んで、どうする? 加入するか?」

「はいはーい! とーぜんですぅ!」


 意気込みが十分伝わってきたので、彼女の申請を受け入れ、これで『ギルド:サーティーン』は、合計三名となった。


「あ、でもでもぉ、このギルドってどんな活動してるんですかぁ? ゲームとかでは、討伐系とか生産系とかいろいろありますけどぉ」


 そう言われてみれば、『サーティーン』の主だった活躍というのを決めていなかった。


「……先輩、どうします?」

「おいおい、このギルドのマスターは君だろ? なら君が決めるのが筋ではないかね?」


 …………なるほど。


「ん~……それじゃあ…………のんびりスローライフで」

「「は?」」

「え?」

「「「…………」」」


 何やら沈黙が続く。


 あれ? 俺ってば変なこと言ったか?


「え、えっと……センパイ? もっとこう……高い目標とかあるわけじゃないんですか? 大規模なダンジョンを攻略していくーとか、ギルドをもっと大きくしていくーとか、世界を救っちゃえーみたいな?」

「いやいや、そんなしんどいことしないって」

「えぇー、しないんですか!?」

「つか、俺がそんな前向きに行動するようなタイプに見える?」

「……見えませんね」

「だろ? 俺はただ日がな一日を、そこそこ楽しんでのんびり暮らせたらそれでいい。だからギルドメンバーにも各々好きに活動してもらう」

「好きに、ですか?」

「ああ。先輩はいろんな情報を集めたり、珍しいアイテムを錬金したり、趣味の延長線上にある活動してるし、お前だってやりたいことをやればいいと思うぞ。レベルを上げることに必死になってもいいし、ダンジョンにあるお宝巡りをしたっていい」

「お宝なんかあるんですかぁ!?」


 あれ? どうやら知らなかったようだ。


「小規模のダンジョンじゃ俺も見たことはねえけど、中規模以上のダンジョンじゃ、たまに宝箱みたいなもんがあるんだよ。中身は様々で、スキルポイントだったりアイテムだったり……罠ってこともある」

「し、知りませんでした……」


 まあ俺も滅多にお目にはかかれない。隠し扉の奥にあったり、土に埋まってることだってあるのだ。つまりは普通では見つからないということ。


「むむむぅ……お宝巡り。何だかそそりますね」

「ま、好きに活動すりゃいいと思うぞ。俺も必要があればレベル上げに行くし、討伐ポイントだって必要になるしな。ただまあ率先して大規模ダンジョンに挑んだり、世界の謎を紐解いてやるなんてことは思わん。そういうのはできる奴、したい奴に任せる」


 だからどうかそういう面倒なことに俺を巻き込まないでほしい。


「なるほどです! 了解しましたぁ! じゃあメンバーは自由がモットーってことですね!」

「おう、そういうことだ。フリーでスローなライフを満喫する。それがこのギルドの在り方だな」


 実際物語の主人公みたいな活躍なんてしたくない。

 何故こんな世界になったのかなんてどうでもいい。俺はただ、俺を含めた身内が無事に過ごせるならそれだけでいいし、熱血系主人公のように熱くなることもない。

 ただ平々凡々と、ゲームのような世界を満喫できればそれでいい。


「アハハ、やはり君は面白いね鈴町くん。うん、良いと思うよ。ボクもその在り方に賛成さ」


 元々先輩だって俺と同じようなタイプだからな。好き勝手自由に生きる。だからこうして息が合っているのだ。


「あ、でもでもぉ、私的にもう少し住む場所を豪華にしたいんですけどぉ」

「住む場所……ねぇ」


 俺は別に今のままでも十分満足だが……。

 現代っ子というか、先輩と違って女子力を優先する姫宮にとっては、図書館で暮らすというのは些か思うところがあるかもしれない。


「豪華って例えば?」

「ん~やっぱり一等地の高層マンションみたいな? もしくは超一流芸能人の絢爛豪華な自宅とか?」

「とはいってもなぁ。そんな場所なんてねえだろ?」

「なくても購入することはできますよぉ」

「は? ……ああ、〝ショップ〟ね」


 姫宮の言う通り、〝ショップ〟には物件だって存在する。

 その中には、彼女の希望にピッタリの豪邸だって販売しているのだ。  


 土地はまあ……こんな世界になってから、いちいち主張してくるような輩はそういないので、どこででも繕うことはできるだろう。

 しかし……。


「お前分かってんのか? 豪邸なんて幾らすると思ってんだよ」

「分かってますよぉ。だから、それを第一の目標にするんですよぉ。このギルドの」

「ギルドの?」

「はい! 確かにフリーでスローなのは良いですけど、それじゃマンネリしてきてモチベーションも上がらないじゃないですかぁ。ですから、何か目標があった方が、同じユルユルでも楽しんで過ごすことができると思うんですけどぉ」

「ふむ。姫宮くんの言う通り、確かに何か目標があっても良いと思うよ」

「先輩…………まあいつまでも図書館ってわけにはいかねえか」

「はい! それにいずれ千羽ちゃんたちを迎え入れるなら、ぜ~ったいにちゃんとした家は必要だと思います!」


 ここで家族を出してきやがるとは……。けど……一理ある。

 いつか俺が向こうに行くか、千羽たちを呼び込むか考えていた。

 仮に千羽たちをこちらに呼ぶのであれば、安全に暮らせる拠点というのは絶対不可欠だろう。




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