第20話 ストーカーと恋愛バカ
「君は今、自ら墓穴を掘ったのだよ!」
「ぼ、墓穴? 何のことですかぁ?」
「君はさっきこう言ったね。もう夫婦だと」
「はい、そのとーりですぅ!」
「しかしそのあとに君は何て言った?」
「え……何て……?」
「フフフ、君はこう言ったのさ。もうすぐ鈴町小色になる、と」
「そ、それが何か?」
ああ、なるほどなぁ。確かに矛盾だわなそりゃ。姫宮は気づいてねえけど。
「もう夫婦だと言ったのに、何故まだ鈴町小色ではないのかね?」
「!? そ、それは……えと……」
どうやら自分の失言に気づいたようだ。目があっちこっちに泳いでいる。
「夫婦ならすでに鈴町小色になっているはず! 故に、君と鈴町くんは夫婦ではない!」
「ぐっ!?」
「それに恋人同士というのもおかしい。何故なら鈴町くんがボクと出会ってから、常日頃から彼のスマホはチェックさせてもらっていたのだよ」
……え?
「しかし君とのやり取りなんて一切無かった」
まあこっちに来てスマホがぶっ壊れてから、連絡先とかリセットされたしな。
「そ、それは……ほ、ほらあれです! 受験が成功するまで連絡を取り合わないって約束してましたし!」
「ほう、していたのかい鈴町くん?」
「してませんよ」
「センパイッ!?」
信じられないといった顔で俺を見てくるが、間違いなくそんな約束はしていない。
「スマホにも名前が登録されていない恋人など存在するはずがない! つまりっ、君は恋人でも夫婦でもない、ただのいち後輩でしかないのだよ!」
ガーンッとショックを受けたかのように崩れ落ちる姫宮。
……この寸劇みたいなの、いつまで続くんだろうか。
さっさと本題に入りたいんだけど、まだ続くのこれ?
それとあとで先輩にはストーカー行為について面談しておこう。絶対。
「うっ、うっ…………センパイとの連絡が途絶えてしまった時、センパイの妹さんからスマホが壊れたことを聞き、すぐに妹さんから私の連絡先を伝えてもらうように頼んだんですよぉ……」
ああ、確かに妹から電話があった時にそんなことを言っていた。
「でもセンパイのことですから、きっと登録するのが面倒だって言って、そのまま放置プレイをされたんです……」
おお、よく分かってんじゃん。ていうかいまだに登録の仕方とかよく分からねえんだよなぁ。
「だったらいつかセンパイと同じ大学に合格して、実際に会って無理やりにでも登録してやろうって思ったんです」
どんな執念だよ。逆に怖えよ。
「なるほど、君も苦労していたんだね」
……はい?
何やら先輩が同情めいた視線で姫宮に近づき、そっと彼女の肩に触れた。
「ボクもね、いつもいつも連絡するのはこちらから。鈴町くんから連絡してくれたことなんて一切無いんだよ。その理由を聞きたいかい? ふふ、簡単さ。……面倒くさい。これだよ? 曲がりなりにも女に対しての接し方かねこれ?」
あ、あれ? 何か空気が変な方向に変わっていってないかい?
「そ、そうなんですぅ! センパイってホンットーに酷いんですよぉ! センパイがまだ同じ高校に通ってた時も、毎日毎日メッセージ送ったり電話をかけたりしたのに、ほとんど無反応なんですよぉ!」
いやだってなぁ、コイツの相手すると長いんだよ。長文には長文で返せって言うし、電話なんて長くても十分くらいで良いと思うのに、平気で一時間以上……下手をすれば三時間超えるんだぞ? しかもそれが毎日……しんどいっつうの。
だからほとんど無視という鉄壁を使ってもおかしくないと思う。
「分かる分かる。ほんっとーに、この後輩くんは融通が利かないし、女を女とも思っていない三次元に興味の無い二次元オタクだしね」
「ですです。傍にこ~んな可愛い後輩がいるっていうのに、マジであり得ないですよねぇ」
互いに俺に対しての愚痴を言い頷き合っている。
何だかさっきまで敵同士だったはずなのに、分かり合うの早くね?
「「というわけで、全部君(センパイ)が悪い!」」
「…………まあ、そんな感じで良いんで、さっさと本題に行きたいんだけど」
いちいち相手にしてるだけ時間の無駄だし、ここはさらりと認めておくに限る。よく分からんが。
「はぁ……これだよ」
「はぁ……相変わらずなんですねセンパイは。まあ……そのお蔭でフリーってのは分かりましたけど」
二人が呆れている。確実に俺に対して。俺……何もしてないはずなのに。
「まあセンパイはセンパイってことが分かっただけで良かったです。ところでセンパイ、さっきの見返りの話なんですけどぉ」
「あ、やっぱ覚えてたのね」
「とーぜんですよぉ!」
「同棲はやらんぞ。てか、ここに住んでるし、すでに先輩とは同棲というか同居はしてるしな」
「こ、ここに住んでるんですかぁ!? しかも愛葉先輩と一緒!? どういうことですかぁ!」
はぁ、まだ本題には入れないみたいだ。
俺は仕方なく、ここに住むようになった経緯を説明した。
「ふぅん、なるほどです。ま、そういうことなら百歩譲って許してあげましょう!」
何でコイツの許可が必要なんだろうか……。
「じゃあ私もこれからここに住むってことでどうでしょうかぁ?」
「は? お前、ちゃんとした家があるんじゃねえのか?」
「一応アパートの一室を借りましたけど」
「じゃあそこに住めよ」
「やっ!」
「いやいや、『やっ』じゃなくてだな……てか子供か」
ちょっと可愛いと思っちまったじゃねえかよ。
「いいじゃないですかぁ。それともこんな世の中になって危ないっていうのに、センパイは私を一人でアパート暮らしさせるつもりですかぁ? 周りには誰も頼れる人がいないのにぃ……」
……まあ確かに地元じゃないし、コイツの知り合いなんていないだろう。外の世界は、コイツに絡んでいたような連中やモンスターだっているし危険なのは間違いない。
コイツにとって今頼れるのは俺くらい……なんだろうな。
「……先輩、どうします?」
「ふむ。ボクにとってはライバ……おほんっ! 見知らぬ他人がオアシスに入り込むことに些か思うところもないわけではないが、彼女は君の後輩なのだろう? ここで見捨てて何かあったとしたら、君はボクを怨むかもしれない」
「いや別に怨みませんけど……」
「それにボクもこうして知り合いになってしまったわけだしね。泣く泣く許可しようじゃないか」
先輩が許可を出した直後、姫宮が嬉しそうにパアッと笑顔を浮かべるが、すぐに先輩が「ただし」と付け加えて続ける。
「いいかい! ここではボクが一番の年上なのだからね! ちゃんと敬うこと!」
「はいはーい、りょーかいしまいたぁ!」
「そ・れ・と……鈴町くんとの不必要な接触は控えるように!」
「わっかりましたぁ!」
と言いながら、姫宮が俺の腕に抱き着く。
「これからよろしくお願いしますねぇ、セ・ン・パ・イ!」
「だからそれを止めろって言っているのだよ君ぃぃぃぃっ!」
やはりコイツは魔性の女だと思いつつ、無理矢理腕を抜いて距離を取る。
「ほら、見返りはこれで十分だろ?」
「はーい! ではでは…………はいコレ!」
彼女は、持っていたポーチから細長いものを取り出した。
「コレは……ボイスレコーダーか?」
「ですです! ここにセンパイのご家族からのメッセージが入っていますよぉ!」
俺は彼女からそれを受け取り、再生ボタンを押した。
『……あれ? これもう喋ってもいいのかな?』
久しく聞いた声。思わず懐かしさで胸がキュッとなった。
『えーおほん! ヤッホー、元気かな、お兄ちゃん!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます