第17話 予想外の邂逅

「あ、ラッキー! 乾麺があったしー!」


 ギャルっぽい女が袋に入った乾麺を高らかに上げて、戦果を自慢気に報告している。


「よし、よくやったぞ沙織。そいつを寄越せ」

「はいはーい」


 乾麺をギャルから受け取った男の手から、即座にして乾麺が消失する。

 今のは間違いなくアイテムボックスへと収納した現象だ。

 わざわざギャルから受け取るということは……と思い、奴らに《鑑定》を使ってみた。


 すると女たちにはレベルという概念がなかったので、恐らく一般人だろう。

 しかし男の方はやはり『ギフター』のようで、ステータスを持っていた。


 名前は阿久根悟あくねさとる。レベルは26。そこそこ高いから、比較的真面目にレベル上げに努めていることが分かる。

 しかしこんな場所に一般人の女を三人も連れてくるかね。


 まあ人海戦術で食料探しをするのは理に適っているが、もしモンスターに遭遇したり、悪質な『ギフター』に見つかったらどうするつもりだろうか。

 すると散策は終わったのか、阿久根が三人の女性を呼びフードコートから出てきた。


「ねえねえ悟ぅ~、服とか探してもいい? あと宝石とかぁ」

「あ、私も欲しい~!」

「アタシもアタシも~!」

「仕方ないなお前たちは。だが集合時間は決められている。我らが女王様は時間にはうるさい。十五分前集合ができるというのであれば許可しよう」

「「「やったぁ~!」」」


 女たちは喜び勇んで、服や貴金属店を探して駆け回り始めた。

 それをやれやれといった感じで阿久根が見ている。


 今、我らが女王様って言ってたよな? コイツら……もしかしてギルドを?


 その女王様とやらをトップにギルドを結成している可能性がある。 

 しかしあくまでもそれは『ギフター』のみに与えられるシステムなので、女たちはギルドのオマケ的な存在なのだろうか。


 ……ま、どうでもいいか。


 他人の事情に追及する時間も興味もないので、俺も奴らにバレないように探索を繰り返し、ある程度の物品を確保したのちに【リオンモール】を出た。

 そして大学へ向けて誰もいない道を歩いていたその時だ。


「――ちょっと、もうマジでそういうの結構ですから!」


 どこからか女性のものである声が響いてきた。

 反射的に声がした方を確かめると、そこには一人の少女を囲うガラの悪そうなお兄さんたちが三人いた。

 何やら男たちに言い寄られて、少女は困っている様子だ。


 うわぁ、ベタだなぁ。


 いや、実際珍しくない光景でもある。こんな世の中になって、警察が機能していない今、こういう連中が水を得た魚のごとくはしゃぎだしているのだ。

 何せ外はほぼ人気も無いし、暴力を振るっても咎める者もいないので、まさに好き勝手暴れ回る無法地帯と化している。


「いいから俺らについてこいって、そうすりゃ、飯だって服だって困ることなんてねえしよ」

「そうそう。俺らこう見えて紳士よ?」

「んだべ。今俺らってば仲間集めしてんだよ。君みたいに可愛い子なら大歓迎ってわけ」


 見た目も言動も胡散臭さで溢れている。まさにナンパの最底辺を見ている気分だ。


「だからぁ! 私はそういうのお断りなんですぅ!」

「いいじゃんいいじゃん。とりあえず行ってみて決めたら?」


 どうやら男たちは聞く耳を持たないようだ。

 そしてそろそろ……。


「もうっ! いい加減にしてください! そういうのすっごくカッコ悪いと思いますよ! それに自分の顔を鏡で見たことあるんですか! 正直無いです! 地球が滅んで私とあなたたちが生き残っていたとしても、すぐに舌を噛んで死ぬパターンのやつですぅ!」


 おいおい、そんな煽るようなこと言わんでも……。


「あぁ? 大人しくしてたら付け上がりやがって!」

「どうやら力づくってのがお好みみてえだなぁ」

「ならお望み通り、無理やりヒィヒィ言わせてやんべ!」


 ほらね。こうなるでしょ? まあ大人しくついていっても最終的にこうなっただろうけど。

 さて、どうしたもんかねぇ。


「きゃっ、痛いっ!?」


 男が少女の腕を強く握ったことで、少女は痛みに顔を歪める。


「ちょっ、もうマジで……っ」


 そう少女が目を吊り上げた瞬間、腕を掴んでいた男が弾かれたように吹き飛んだ。


「「「え?」」」


 その場に残された俺以外の全員が唖然となる。

 まあ別に難しい話じゃなくて、俺が駆け寄って男の顔面を殴り飛ばしただけなんだけどね。


「もうそこらへんにしといたら?」


 俺の言葉で、ようやく男たちが俺のしたことに気づいたのか憤りを表す。

 対して少女は、何やら俺を見てどこか驚いている様子だが。


「てっめえっ! 何ふざけたことしてやがんだ!」

「ぶっ殺すぞてめえ! 正義の味方のつもりかコラァッ!」

「へいへい。正義の味方でもなけりゃ、ふざけたこともしてねえよ。ただ耳障りだったから手を出したってだけ」


 俺は溜息交じりにそう言うと、男たちは懐からナイフを取り出してきた。


「先に手ぇ出したのはてめえだからな? 殺されても文句はねえよな?」


 いやいや、文句ありまくりですが。


「ハラワタを引きずり出して切り刻んでやるよぉ!」


 それ逆に嫌じゃない? 男のハラワタを見て何が面白いの? いや、女でも嫌だけど。


「「おおらあぁぁぁぁっ!」」


 二人同時に接近してきてナイフを突き出してくる。

 介入する前から、コイツらが一般人だということは分かっていた。

 なので、この程度の攻撃なんて俺には止まって見える。


 サッ、サッと素早く身を翻して回避すると、まず一人の男の後頭部を掴んで、そのまま壁に叩きつけてやった。


 当然一撃でダウン。死んだ? ……知らね。


「て、てっめぇぇぇぇっ! 俺らは『自由ハンター同盟』のメンバーだぞ! 誰を敵に回したか分かってんだろうなぁっ!」

「……知るかアホ」


 俺は喚き立てる男の懐に一足飛びで入ると、そのままハイキックで頭部を蹴ってやった。


「ぶぎひィッ!?」


 醜い声を汚い口から発しながら、男は地面に倒れ痙攣し始めた。


 うん、どうやら手加減はちゃんとできたようだ。


 しかしこのステータスはマジで凄い。ほんのちょっと前までは、こんな連中でも返り討ちに遭うくらいの実力しかなかったはずなのに、今では瞬殺できるんだからな。


「……あ、あの……」


 背後から少女の声が聞こえたが、俺は振り向くことなく発言する。


「とりあえず女が一人でこんなところをウロつかない方が良いぞ。それともう一つ、あんま男を挑発しないことだな。その服装も、言動も何もかも」


 この少女、ミニスカートに胸を強調するようなピチッとした上着なので、どうしても男の目を惹いてしまう。こんな時代にこの姿は悪手でしかない。

 まあどんな男とでもいいからイチャイチャしたいっていうビッチ女なら仕方ないが。


「じゃ、そういうことで」

「ま、待ってくださいよぉ!」


 さっさと去ろうと思ったのに、チョコンと服の裾を掴まれた。


 そういう仕草まであざといとは……マジでビッチなんじゃねえの?


「はぁ……悪いが急いでんだよ。お前もさっさと安全な場所に戻れ。じゃあ……ぐへっ!」


 俺だってそんなカエルが踏み潰された時に出すような声なんか出したくなかった。

 だがしょうがないじゃないか。後ろの襟首を持たれたんだから。


「げほっ、げほっ! な、何しやがる!」

「だーかーら! 待ってくださいって言ってるじゃないですかぁ、センパイ!」

「いやいや、あのな、何で待つ必要があんだよ? 大体……って、今何つった?」


 聞き間違いかと思い、改めて彼女の顔を間近で見ることになる。

 俺の視界に飛び込んできたのは、どこかで見たことのあるような顔だった。

 だがそいつがこんなとこにいるはずがないのである。


 しかし――。


「えへへ~、お久ですぅ、鈴町セ~ンパイ!」


 久々に見せたその笑顔は、間違いなく記憶の中にある少女のソレと合致したのであった。




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