第16話 再びのモールへ
「まあでもボクは君以外とダンジョンへ赴くようなことはしないし、できる限りはここから離れるつもりもないがね」
「そうなんですか?」
「うむ。ボクのジョブを見ても分かる通り、ボクは完全なインドア派だ。室内にこもって研究をするのが性に合っている。幸い討伐ポイントでいろいろ購入できたお蔭で、様々な錬金も行えるようになったからね。ボクはそれで君をサポートしていこうと思う。どうだい?」
「……まあ俺は別にそれでいいですよ」
「討伐ポイントが必要になった時に、また君と攻略に出かければ良いだけだ」
「もうあれですね。真正の寄生虫ですね」
「ふむ。君専用のというのであれば悪くないとボクは思っている。だからボクも今後は、君の役に立てるようなアイテムを作ったり情報を集めたりするつもりさ」
「情報? ……ここにいながらどうやって?」
「フフン。コレを使ってさ!」
そう言って彼女が取り出したのは――《ドローン》だった。
「コレが〝ショップ〟にあったのでね。利用しない手はないだろう?」
なるほど。ここにいながらカメラを通して情報を集めるというわけだ。
「しかしスマホが使えないのに、コレは普通に使えるんですね」
「恐らく〝ショップ〟経由だからではないかな? 見た目は地球にも普通に存在する《ドローン》だが、もしかしたら根本的な構造が異なるのかもしれない。まあ実際に使えるようだから、何かしらの力が働いていると考えて間違いないだろう」
正直難しい話はどうでもいい。使えるというならその事実だけで十分。
先輩は自分のことを明確に把握できている人だ。故に自分が出歩くよりも、こうして俺のサポートについた方が効率が良いと判断したのだろう。
それに俺にとっても、彼女が情報収集を担ってくれるなら大助かりだ。また錬金して作ったアイテムを使用できるとなれば、今後生き抜くためにも必要な力になってくれるはず。
「分かりました。じゃあそろそろ俺は家に戻りますね」
「ふぇ!? え、えっと……も、もう行くのかい?」
「ええ、もうすぐ夜になりますし」
「アパートに帰らなければならない用事があるのかい?」
「特にそういった事情はありませんよ」
「な、なら別にここにいたって問題はないとボクは考えるのだが?」
何故そんなソワソワしながら言うのか。トイレにでも行きたいのかもしれない。
しかしそこは俺、優秀なぼっちセンサーが発動している。一応女性である先輩に、トイレを勧めたところで怒られるだけだ。
だからここは余計なことは言わないでおく。ふふん、世の男子よ、俺みたいに空気を読める男になれよ。
「……でもここじゃベッドも何もないじゃないですか?」
「ソファなら山ほどあるぞ?」
いや、それはまあ……そうなんだけど。
「それにシャワー室も完備しているし、食料だって〝ショップ〟がある。ここに住むに不便さはないと思うが?」
確かにその気になれば、〝ショップ〟を駆使すればベッドだって購入できるし問題ない。
一つ懸念があるとすれば、家に誰かが訪ねてきやしないか……ということだが。
……それは無いか。だってぼっちだしね。
アパートに引っ越してきて、誰かが訪問してきたことなど皆無だからだ。
「じゃあまあ……世話になりますよ」
「! ほ、ほんとだね! 嘘を言っているのだとしたらボクは然るべきところに訴え出る覚悟があるからね!」
さて、どこに訴え出れば俺を罪に着せられるのだろうか。
「はいはい。言ったことは守りますよ」
「うむ! うむうむ! では今後ともよろしく頼むぞ、鈴町くんっ!」
満開の桜が咲いたかのような喜色満面な表情を見せる先輩。
そんなにも一人が寂しかったのなら、素直に家に帰ればいいのに……。
とはいっても家に帰っても、彼女は一人暮らしなので結果は変わらないか。
何だかんだ言ったが、この人との接し方は気に入っているし、ともに生活していくのも悪くないと思っている。
だから――。
「こちらこそ、よろしくです、先輩」
まずは最初の挨拶はしておく。
初めてのギルド活動をした翌日、情報収集役は先輩に任せて、俺はある場所へと足を運んでいた。
そこは俺にとって因縁というか、人生の転換期を迎えた場所である【リオンモール】である。
あれから十日以上が経ったが、一度ここを調査しておこうと思ったのだ。
その理由としては、今後の生活に活用できそうな物を確保すること。
それも〝ショップ〟で購入できるとはいっても、無料で手に入るならそっちの方が断然良い。
そういうことで何か手に入らないか探りに来たというわけだ。
ただ同じようなことを考える連中も当然いるようで、やはり目ぼしいものはほとんど奪われている様子。
食料品店も見て回ったが、大きな成果は得られなかった。
「あとは衣服や日用品とかか」
困ってはいないが、何かに使えるかもしれないので確保しておこうと思う。
元々ここにショッピングモールは衣服系が多いので、さすがにゼロということはなかった。
俺は適当に着られるものを、俺と先輩の分を物色してアイテムボックスに収めていく。
「あ、下着…………うん、これはアレだ。非常事態というか必要不可欠だから仕方ない。そうだ、仕方ないことだ」
俺は女性の下着売り場がある場所へと足を向ける。少し早足になっているのは別にやましい他意はない。ただ誰かに先に奪われる危険性を考慮しているからだ。
決して煌びやかな女性の下着を、じっくり拝みたいといった思考など微塵もない。
だが、俺は辿り着いてガックシと四つん這いになってしまった。
下着売りブースは、見事に真っ黒焦げになっていて、下着らしき布が一切見当たらなかったのである。
ここは一階で、ドラゴンが現れた場所でもある。
そういえばアイツ、ところ構わず火を噴いてやがったよなぁ……。
きっとアレで燃え広がり、こんな惨状を生み出したのだろう。
憎いっ……今なら視線でドラゴンを殺せそうだ!
といってもすでにその能力を持っているし、実際に下着の仇は討ったのだが。
「はぁ。しょうがねえか。なら他に日用品とか……ん?」
その時、上階の方から物音が聞こえた。
誰か……いる?
俺は警戒態勢を整え、身を隠しながら上を確認するが、ここからではよく分からない。
この後、上階にも行こうと思っていたので、ちょうど良いと思って確認がてらゆっくりと、止まったエスカレーターを上っていく。
神経を集中し《気配察知》を存分に利用して進んでいく。
二階にはフードコートがあって、どうやらそこから物音がしている様子だ。
誰かが食料探しにでも来たか?
モンスターとは考えられない。何故ならダンジョンにモンスターが一体しかいなかったことなどないからだ。
それにここはすでに一度ダンジョンと化し攻略された場所。同じ場所がダンジョン化したという情報もまた無いことも、俺の判断を確かなものにしている。
ここもほとんどはドラゴンの火のせいか、あちこちが黒焦げになっているが、フードコートのように大きな広場は比較的被害が少なかったりしていた。
俺は《鷹の眼》を使ってフードコートの中を、遠目で虱潰しに見回す。
すると一つの店のカウンターの奥に人影らしきものを発見した。
他の店の中にも数人の人影があるようだ。
全部で四人いる。一人は男で、その他は女らしい。
何だよハーレムかよ、嫌なもん見たわ。下半身の機能だけでも死滅させてやろうか。
やはり食料を探しているようで、男が指示を出して女たちが動いている。
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