第6話 成長した証

 薄暗い森の中――。


 木々の合間をのっそりと動く人型生物が見える。

 緑色の肌を持ち醜悪な顔はゴブリンに似ているが、ぷっくりと太っていて豚が擬人化したような風貌をしていた。


 しかし人間のように器用に両足で歩き、手にはどこで手に入れたのか槍などの武器を所持している。

 この生物こそ、ゴブリンと同じくRPGによく出てくるモンスターの一種――オークだ。

 食べ物でも探しているのか、鼻息を荒くしながらキョロキョロと周囲を見回していた。


 そんなオークを木の上から密かに観察しているのは、黒い外套を纏った俺だ。


 ――ここに一体。少し離れた場所に二体いるな。


 よし、やるか。と、俺はオークの頭上へ向けて飛び降りた。


「グガ?」


 気配を察知したのか、オレを見上げたオークだがすでに射程圏内に入っていた。

 オレは忍者のように背中に背負っている刀を抜くと、一気にオークに向けて振り下ろす。


 ――ズシュゥゥゥッ!


 オークは僅かに身体を動かして回避しようとしたが、右肩から下半身にかけて真っ二つになる。

 人間とは異なる青い血飛沫が舞い、俺の頬や刀身にベットリとつく。

 当初は気色が悪く吐きそうになったものだが、今ではもう慣れたものだ。


 オークが断末魔の声を上げたせいで、遠目にいた二体のオークが集めってくる。

 仲間が殺されたことで興奮し、すぐさま俺に向かって突進してきた。

 俺は相手が振るう槍を軽やかに避けると、力任せに相手の頭部に目掛けて蹴りを放つ。


「ブゲゴッ!?」


 潰れたカエルのような鳴き声とともに、オークは弾け飛んで一本の木にぶつかって動かなくなる。

 次いで残り一体のオークの対処にも動く。

 知能がほとんど無いため、ただ無暗に突っ込んでくるしかできないオークなので相手をするのは楽だ。


 先と同じようにオークが振るう槍を回避し、今度は刀で喉を突き刺してやった。

 すると何度目かの痙攣のあと、静かに息を引き取ったようで、そのまま前のめりに倒れる。

 だがザザッと地面を擦るような音が背後から聞こえた。


 どうやら先程蹴り飛ばしたオークが意識を回復させて攻撃してきたようだ。

 俺はその場から飛び上がり、木の枝を伝って上へと向かい、怒りに打ち震えているオークを見下ろす。


「お前が最後だ。特別にコレで殺してやるよ」


 俺は意識を両目に集中させる。


「――【死線】」


 するとオークの頭上に赤いゲージが浮かび上がり、凄い速度で減っていく。


「――――終われ」


 静かに俺は呟くとゲージがゼロになり、激しく動き回っていたオークは、まるで糸の切れたマリオネットのように倒れ込んだ。


 やはり便利な力だ、《死眼》は。


 まあ魔力消費が激しいのが難点ではあるが。


「よし。これでここらのオークは狩り尽くしたかな」


 俺を中心に引きで見れば、あちらこちらに数多くのオークが地面に横たわっていた。

 そのまま視線は刀の刀身へと向ける。


「やれやれ、もうこの刀も寿命だな」


 見れば刃毀れが酷い。刀身の腹も傷だらけだ。切れ味は良いが耐久度が低いのは頂けない。

 ただまあ、日本人としてやっぱり刀でしょ、という感覚があるし。


 今度は〝ショップ〟で、もう少し頑丈で、そうそう買い換えなくても良い代物を買った方が良いかもしれない。


「また新しいのを買わないとな。……はぁ、また出費かぁ」


 ボリボリと黒髪をかいたあと、まだもう少しは耐えてくれるかと思い刀を鞘に収める。

 あの日、ショッピングモールで激動の人生の転換期を迎えてから、すでに十日が過ぎていた。


 人伝ではあるものの、この東京だけではなく日本……いや世界中で、ダンジョンが発生したり、モンスターが暴れているという情報を得ることができた。

 つまりこの世界はもう壊れかけということ。

 電車や飛行機などの交通手段も利用できなくなっているようで、劇的に移動手段の便利化が消失していっている。


 車やバイクなどはいまだ活用できるが、いつガソリン供給もできなくなるか分からない。

 そのうち自転車や徒歩での移動が主軸になっていくかもしれない。


 そしてつい先日のことだが、自衛隊が幾つかのダンジョンに潜り込んでコアモンスターを倒そうとしたらしいが、まったく歯が立たなかったという。

 普通のモンスターは銃や普通の武器でも倒せたが、コアモンスターだけはどんな武器でも効果が無かったようだ。


 ここから推察するに、恐らくはステータスを持っている俺みたいな奴らしかコアモンスターを撃破することができないのではないだろうか。

 そうでなければ小規模ダンジョンのコアモンスターくらい、銃があれば制圧することはできる。しかしそれが失敗に終わっていることから、恐らくはそうだと判断した。


 となれば気になるのは、ステータス持ちが俺の他にどれだけの人数存在するか、だ。

 実は何人かはすでに目撃している。

 ダンジョン化した建物を見つけて入ってみると、すでにそこには先客がいて戦っている様子を確認していた。


 間違いなく世界中がステータス持ちに注目していることだろう。 

 政府や自衛隊もバカじゃない。一度失敗に終わっていることと、自分たち以外の人間があっさりとダンジョンをクリアしている情報を考慮して、特殊な人間がいてステータスの有無にも辿り着いているはず。


 もしかしたら今頃そういう連中を自衛隊に引き込んでいるかもしれない。

 そして厄介なことがもう一つ……。


「……おっとぉ、お仲間さん見~っけぇ」


 不意に目の前から声がしたので確かめてみると、そこには愉快そうな笑みを浮かべている男が立っていた。その手にはサバイバルナイフが握られている。


「なあ、このダンジョンにいるってことはぁ、お前もステータス持ちなんだろぉ? 知ってるかぁ? ステータス持ちを殺ると、経験値と討伐ポイントがめちゃもらえるんだぜぇ? それにそいつが所持してるアイテムもなぁ……クヒヒィ」


 そう、こういうイカれた連中が出てきているということ。

 ゲームでいうならPK(プレイヤーキラー)ってとこか。


 どうやらコイツの言う通り、ステータス持ちを殺すと結構な見返りを得られるらしい。俺は殺したことがないので分からないが、実際に経験した奴が言うのだからそうなのだろう。


「……はぁ。あのさ、こんな大変な世界だっつうのに、何人殺しを楽しんでるわけ? バカなの? 死ぬの?」

「あぁ? ……はいもう決めたぁ。お前ぇ、刺殺で決定ね」


 すでに何人も殺してきたんだろう。完全に目がイっちゃってるわコイツ。


 世のため人のため、コイツはここで殺しておいた方が良いんだろうが……。


 ……さすがに人殺しを背負うのはまだ覚悟がないんだよな。

 ヘタレでゴメンね。けどそう簡単に覚悟なんてあっちゃ、人としてどうかって思うぞ。


 たとえこんなどうしようもない奴相手でもだ。

 まあだが、それもすべてはオレは殺されないって余裕があるから選択できてるんだろうが。


「じゃあもういいよなぁ? 殺しちゃうよ? 殺しちゃうよ? 殺っちゃうよぉぉぉっ!」


 気色の悪く叫びながらサバイバルナイフを光らせながら突っ込んできた。


「へぇ……俺を殺すのか? …………どうやって?」

「クヒヒヒヒ! これがてめえには見えねえのかよぉぉぉっ!」


 と声を張り上げながら右手を突き出してきた。


 だが――。


「……あ、あれ? ナ、ナイフは?」


 右手に握っていたはずのナイフが消失していて、男は完全に困惑状態だ。


「……何で殺すって?」

「くっ! よく分かんねえがぁっ、まだ一本あるんだよぉぉぉっ!」


 腰にもう一本携帯していたのか、それを左手で抜いて突き出してきた。

 俺はそのナイフに視点を合わせる。


「――終われ」


 直後、ナイフが風化したように一瞬で消える。


「んなっ、何で消え――ぶへぇっ!?」


 驚いてい固まっている男の顔面を殴りつけてやった。


「あ、やべ。やり過ぎた?」


 男はそのまま激しく地面を水切りの石のように跳ねて、その先にあった大木にぶつかって止まった。

 白目を剥いてすでに意識はなく、歯は折れて頬は拳型に陥没している。


 手加減はしたつもりだったが、レベル差も20以上もあれば仕方のない結末だろう。最初から《鑑定》を使って、相手のレベルも把握していたから。



 鈴町 太羽   レベル:45  スキルポイント:38


 体力:1750/1750   気力:980/2230

 筋力:153  耐久性:123

 特攻:G%?S  特防:191

 敏捷:174    運:45


ジョブ:死神(ユニーク)

スキル:死眼(ステージⅡ【死線】・【死界】)・気力自動回復S・鑑定B・状態異常耐性A・気配感知B・アイテムボックス拡張B・鷹の眼C


コアモンスター討伐数:8

討伐ポイント:4560


称号:魔眼持ち・ドラゴンスレイヤー・瞬殺魔・モンスターハンター


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