第7話 VSアイアンフロッグ

 これがこの十日間の成果である。


 頑張ってダンジョンを探してはモンスターを蹴散らしたお蔭で、ようやく《死眼》のスキルも〝ステージⅡ〟へと昇格した。


 この状態になった時に、【死線】の効果を生物だけではなく物にも使用できるようになったのである。つまりさっきナイフを風化させたのもそういうことだ。

 当然死滅ゲージの減少速度も上がったし、ナイフなんかはほとんど一瞬で〝死滅〟させることができる。


 また視線を切っても、一分以内ならゲージはそのままなのだ。再び視線を向けると、継続してゲージを減らすことが可能になった。

 そして新しく得た【死界】という技だが、これまた悪魔的な効果を持つ。



死界     気力消費 300×対象


対象が複数でも、視界に映っていて、なおかつ効果範囲内であれば同時に死滅ゲージを減らすことができる。ただし対象ごとに魔力消費が起こるので注意が必要。




 つまり今までは単体にしか使用できなかったが、これからは複数同時に〝死滅〟させることが可能となったのだ。

 だからさっきのを例にしてみれば、ナイフと同時に男の命も刈り取ることができたということ。


 ただしこれは二回分の【死線】に相当するので、気力消費は600も一気に減る。


「ま、アイツの敗因は《鑑定》を取得してなかったことだな」


 持ってたら確実に俺とのレベル差に気づいて、さすがに手は出してこなかっただろうから。


「けどこういう連中が増えてきてるのは問題だよなぁ」


 まあ世界が終末目前みたいになってきている中で、こういう過激な連中が力を持ったらどうなるかなんて火を見るよりも明らかではあるが。

 実際ステータス持ちを相手にするには、同じステータス持ちでしか普通はできないだろう。


 何といっても20もレベルを上げるだけで、握力が数倍にも膨れ上がるほどの成長があるのだ。最早もう同じ人間とは呼べない種族と化している。

 事実、周囲ではステータス持ちのことを、神から贈り物を与えられた者たちということで、『ギフター』と呼び始めていた。


 俺もそっちの方が呼びやすいので、これからはそう呼ぶことにする。

 その『ギフター』に狙われたら、一般人ではどうしようもできない。


 特に顕著なのは男のの暴走だろう。女を襲い暴行するという事件なんて、もう珍しくなくなっていくはず。

 実際に噂では、美女や美少女などが、男の『ギフター』に襲撃を受けたなどという話だって聞く。


「さてと、残りはコアモンスターだけなんだけど……見つからねえなぁ」


 この森がダンジョン化して生まれたモンスター。そいつを倒さないと、ダンジョンクリアにはならない。

 オークやゴブリン、それにスライムを見つけては狩り続けてきたんだけどなぁ。途中で変や邪魔も入ったけど……。


 もちろんあの変質者のことである。もう二度と会わないことを願う。

 するとその時、不意に頭上から何者かの気配を察知した。

 見上げると、木の枝にピョコッとカエルが乗っていたのである。


「……カエル? いや、モンスターだな」


 すぐに《鑑定》を使うと、やはりモンスターで間違いなかった。しかもコイツこそが探していたコアモンスターらしい。

 見た目は鉄色の不気味なカエルだ。大きさは俺の顔くらいだろうか。結構デカイ。


 その時、カエルがピョンッと地面へ降りてきたので、その瞬間を狙って刀を抜いて突き刺してやろうと思ったが、


「ゲッコォッ!」


 口から紫色の液体を吐き出してきたので、咄嗟に足を止めて液体から逃れる。

 液体はそのまま地面に飛び散ると、シュゥゥゥゥっと溶解させたのだ。


「ちっ、溶解液ってわけね。面倒なカエルなこって」


 だがそれだけじゃない。カエル――名前をアイアンフロッグというらしいが、そいつが地面へ降りた直後に跳び跳ねてきた。

 しかし俺の方へじゃなく、周囲にある木々を足場にして縦横無尽にだ。


「くっ、は、速えな!?」


 また小さいから的が絞り難い。こうも動き回られると【死線】も使えない。


 ――ドガァァッ!


「ぐふぅあっ!?」


 突然背中に走る衝撃。どうやら背後から体当たりを受けてしまったようだ。


「いつつ……何て硬さだよ……!」


 名前の通り、まるで鉄の塊がぶつかってきたかのような感じだった。

 もし俺が普通の人間なら、今の一撃で背骨が砕けていただろう。


 相手のレベルは25。だからこそまともに一撃を受けてもまだ戦っていられる。

 再びアイアンフロッグが、木々を足場にして俺を翻弄し始めた。


「――そこだぁぁっ!」


 点ではなく線で捉えた俺は、見事に刀を命中させるが――パキィィンッ!?


「えっ……う、嘘……!?」


 相手の防御力の方が上だったようで、刃毀れしていた刀はあっさりと砕け散ってしまった。


「あっちゃあ……」


 さすがはアイアンと名の付くモンスター。その強度も折り紙付きというわけだ。

 すると今後はオレの頭上へと跳ねたアイアンフロッグが、溶解液を雨のように降らせてきた。


「おっと、あっぶねぇ!?」


 咄嗟に前方へ跳んでかわす。そのまま地面を前転しながらすぐに起き上がり走り出す。

 ここで戦うには相手に地の利があり過ぎる。


 俺はどこか良い場所が無いかと探りながら走っていると、近くに壁のように土が盛り上がっている丘陵地帯を見つけ、そこを背にして身構えた。

 アイアンフロッグは木々を次々と渡りながらオレへと迫ってきている。


「さあ……来い!」


 弾丸のような速度でオレの懐へ突っ込んできたが、来る場所さえ分かっていれば避けることくらいはできる。

 回避しした直後、アイアンフロッグは土壁に激突し、またどこかへと跳ねようとしたのだろうが……。


 ――ズボリッ!


 あまりの勢いだったためか、半身が壁の中に埋まってしまっていた。


「今のうちだっ!」


 急いで駆け寄り、奴の身体を上部の方から壁に向けて押し付ける。

 これで口は開くことはできないし、下手に暴れることもできなくなった。


「終わってもらうぞ――【死線】!」


 俺は真っ直ぐアイアンフロッグを視界に収め、そして――。


「グゲェェェェェェッ!?」


 死滅ゲージがゼロになった瞬間、アイアンフロッグは断末魔とともに消失した。


〝コアモンスターを撃破 ダンジョンクリア〟


 結構手古摺ったが、どうやら討伐に成功したようでホッと胸を撫で下ろした。

 こんなふうにコアモンスターは、たとえレベルが低くとも何かに特化した能力を有していたり、特殊な力を持っている場合があるので、そう簡単に倒せないのである。


 実際に前に小規模ダンジョンで戦ったコアモンスターは、明らかに弱小モンスターの一体であるゴブリンだったが、動きも早ければ力も強いし、その上、鎧や盾、そして戟という巨大な槍みたいなものを所持していたこともあり、肉弾戦じゃなかなか倒せなかった。


「これでコアモンスター討伐数は9か。あと一つでまた特典がもらえるな」


 この十日ほど、ダンジョンを探し歩いては攻略してきた。

 その全部は小規模ダンジョンで、あまりレベルは上がっていない。とはいっても十日で40を超えるレベルをしているのはそうはいないだろうけど。


 何せ俺は偶然にも大規模ダンジョンのコアモンスターを討伐したからこその今があるのだ。

 アレがなかったら、今もまだ低レベルにいただろう。


「んじゃ今日はこのへんにして帰りますかね」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る