第5話 死線だけでモンスターを殺します

 とりあえず人がいそうな駅方面へ出向いたわけだが……。


 この数時間ほどで何があったのか、東京駅のあちこちから火の手が上がっており、パトカーや消防車、そして救急車などの車が駅周辺を陣取っていた。


 しかも時折銃声が聞こえるのだから驚きだ。

 遠目から確認してみると、どうやら駅の中で何かが暴れている様子が窺える。

 人間じゃない。アレは明らかに異形の存在だ。


「やっぱ【リオンモール】だけじゃなかったか。あそこもダンジョンになってやがる」


 そして暴れている異形は、間違いなくモンスターだろう。

 人間の数倍ほどの大きさで、青緑色の肌をした巨人。その手には巨大な斧を持っていて、それをところかまわずブンブンと振り回している。

 警察も止めようとしてか銃を放ってはいるが、あまり効果がないようだ。


 おいおい、銃弾が効かないって反則だろ。


 せっかくだからと、この距離でも《鑑定》が使えるかどうか試してみた。


「よし、成功だ。なになに……レッサーオーガって名前で、レベルが……げっ、35もあんのかよ」


 しかもよく見ればその奥にも数体同じのが暴れている。きっと駅の中も、35レベルほどのモンスターが雑魚として無数に棲息しているのだろう。

 つまりコアモンスターは、それよりも圧倒的に強い存在。

 とても普通の人間が勝てるような相手じゃないはずだ。


 またそのレッサーオーガの前にも、小さな存在が幾つか発見することができた。

 こちらは25レベルのゴブリンソルジャーというモンスターらしい。全身が緑色の不気味な身体をしていて、人間みたいに鎧を着込んでいる。悪魔のような醜悪な顔が特徴的だ。


「多分【リオンモール】にも、あのドラゴン以外のモンスターもいたんだろうな。けど俺がコアモンスターのドラゴンを倒したから、一緒に他の奴らも消滅したってわけか」


 そこに関しても運が良かったと言うしかない。仮に他のモンスターに見つかっていたら、ドラゴンどころの話ではなかっただろう。

 何せドラゴン一体を倒しただけで38までレベルアップしたんだ。あのドラゴンは恐らくレベルは60や70以上。雑魚モンスターはそれには及ばなくても30~40はあることだろう。

 もし見つかっていたら即ジ・エンドだった。


「モンスターの強さってダンジョンの大きさにも比例するのかもな」


 となれば、できるだけ小規模なダンジョンを一度体験してみたいところだ。


「けどさすがにこの距離じゃ【死線】は使えんか。残念だな」


 距離にして百メートル近く離れているが、《鷹の眼》のお蔭で《鑑定》は使えるのに、無双できるスキルは使用できない。

 ただ三十メートルくらいしか離れていない警察の方々には、この《死眼》の能力も使えるようだ。

 使おうとすると赤いゲージが見えるから間違いない。


「……ん? あれは……!」


 視線を上の方へ移すと、東京駅の天井にポッカリと穴が開いていて、そこから鳥のようなモンスターが姿を見せた。


「ダンジョンから出られないってわけでもねえのか」


 そのまま自由に空を飛び回る姿は、ダンジョン内だけでしか活動できないのではという推測が外れた証拠になった。


「アイツは……ガルーダ。レベル40ですか……強いですなぁ」


 まともに戦いたくない相手だ。

 と思っていると、ガルーダがこちらに向かって物凄い速度で滑空してきた。

 正しくいえば発砲している警察の人たちに向かってだ。


 やはり銃弾が効かないのか、ガルーダは一切怯むことなく突っ込んできて、パトカーを盾にしている者たちをあっさりと吹き飛ばしてしまった。

 まあパトカーよりも圧倒的に大きいからしょうがないが。


「た、態勢を整えろぉぉっ!」


 ここまで襲ってくるなどと予想していなかったのか、ほとんどの者たちが恐怖と混乱で正気を失ってしまっている。

 他の野次馬らしき奴らも揃って全力で逃げ出していた。

 ただその中で、俺だけはほくそ笑む。


「ラッキ~。ここまで近くに来てくれりゃ」


 建物の陰からこっそりと地面に降り立って吠えながら威嚇しているガルーダに視線を向けた。

 するとガルーダの頭上に赤いゲージ――死滅ゲージが浮き上がる。

 それが徐々に減少し始めていく。


「よしよし……良い子だからそのまま動くなよぉ」


 空を飛んで俺の視線から逃れられたり、効果範囲外にまで行かれると面倒だ。

 しかしゲージの減少速度が遅い。あのドラゴンほどではないが、まだ少し時間がかかる。


 この《死眼》だが、スキルでもポイントではランクを上げることができないのだ。説明にある通り、数を使いこなしてステージを上げるしかないらしい。

 幸運なことに、ガルーダは警察の攻撃にもたじろいでいないので逃げるつもりはないらしい。こればかりは警察がガルーダにとっての弱者で良かった。

 もし強ければガルーダは空に逃げていただろうから。


 そして……死滅ゲージが静かにゼロになる。


「クオァァァァァァァァァァアアアアアアッ!?」


 ガルーダが突如として甲高い叫び声を上げたあと、そのままぐったりと地面の上に倒れ、粒子状に消失してしまった。



〝レベルアップしました〟



 やりぃ。また一つ強くなれたみたいだ。さすがは40レベルのモンスター。


 それに討伐ポイントもちゃんと加算されている。

 当然いきなり消えたガルーダに、周囲の者たちはポカンとしたままだ。

 俺はそんな彼らの様子がおかしく、悪いと思いつつも笑いながらその場をあとにしたのである。


 そして歩きながら、少し難しい顔で思案していた。

 東京駅が機能していないってことは、電車や新幹線が使えないってことだ。少なくともあの駅はもう利用できない。

 他の駅へ行くか、それとも高速バスを使うか。


 飛行機でもいいが、そもそも電子機器も正常に扱えるのか疑問になってきた。仮に今使えていても、途中で使用不可能になった時のことを考えると、飛行機移動は怖いものがある。


 となればやはり車になるが……。


 俺は18歳になった時、すぐに免許を取ったので車は運転することができる。ただ肝心の車を持っていないが。

 こうなったら誰かの車を奪って手もあるけどなぁ。

 もちろん犯罪ではあるが、今はそんなみみっちい犯罪に手を回せる状態でもないだろう。


 ショッピングモール、東京駅と、次々とダンジョンになってモンスターが現れている。

 他の場所でも同じような現象が起きていないはずがない。

 それにモンスターは、ダンジョン外にも出られることが分かった。


 きっと近いうち、この日本……いや、世界が徐々にモンスターに浸蝕されていくような気がする。


 だってあんなドラゴンやガルーダみたいな奴らが、どんどん増えていったらどうだ?


 自衛隊でも太刀打ちできるか分からない。


「……そうだな。この現象が日本だけ……東京だけのものだったらマシなんだがなぁ」


 そうすれば一先ず京都にいる家族は安全だろう。

 しかし楽観視はできない。そもそも東京だけって保証はどこにもないのだ。


「そういやスキルで《ワールドネットワーク》ってのがあったっけ?」


 そのスキルは、知人であればどれだけ離れていても連絡が取れる効力を持っている。

 つまりここにいながらも、妹たちと会話ができるということ。


「けどなぁ、これ……スキルポイント50も消費するんだよなぁ」


 現在は10ポイント。まだまだ足りない。


「となると地道にレベル上げ、かなぁ」


 そうすればいずれはポイントも貯まって《ワールドネットワーク》を取得することができる。

 確かにこれがあれば便利でもあるので、当面の目的はこのスキル取得に設定しておいて問題ないだろう。

 




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