第3話 文明の崩壊

 九死に一生を終えた俺は、怖いほど静かになったショッピングモールの中を警戒しながら歩いていた。

 床には目を背けたくなるほどの惨殺現場が広がっているし、ところどころ燃えていることもあり、早々にここから立ち去るべきだと思ったのだ。

 いつ建物が崩れ落ちるかも分からないから。


 一体この数十分間で、どれだけの人間が死んでしまったのだろうか。


 見渡す限り生存者がいない。

 あれだけいたカップルもファミリーだって、今は動かない骸と化してしまっている。


 まさに地獄絵図といったところだろう。

 ようやく目の先に出口の自動ドアがある場所を見つける。

 ただ出口に近づくた度に外からは救急車やパトカーのサイレンが鳴り響いているのが聞こえてきた。


 もしかしたらここに向かっているのかと思いきや、そういうわけでもなさそうだ。

 このショッピングモールだけでなく、まさか他の場所でも同じようなファンタジー化でもしているのか?


「だとしたら……一体世界はどうなっちまったんだよ」


 俺はそのまま出口を通って外に出た。

 そして同時に絶句して固まってしまう。


「…………何……だよ……アレ?」


 ここから見える東京スカイツリー。その頭上には、見たこともないほど巨大な卵のようなものが浮かんでいるのだ。

 しかも白と黒の斑模様という実に奇妙な見た目をしている。

 俺と同じように、外にいる人たちも卵を見上げながら呆然と立ち尽くしていた。


「……! そうだ、何か情報が!」


 そう思いスマホでSNSやニュースなどを確認しようとしたが……。


「……通じねえな。マジか……」


 現代人にとってネットというのは最大の情報網である。それが奪われた情報収集能力は格段に下がってしまう。


「けどいつまでもこんなところにいるわけにはいかねえよな」


 いつまたさっきみたいにドラゴンに襲われるか分からないんだから。

 俺は大学に行くのを諦めて、家に向けて走り出す。

 だがそこで自分の身体が異様に軽いことに気づく。今なら全力で跳べば軽く二メートルくらいはジャンプできそうな気分だ。


 そういやステータスには筋力というカテゴリーがあった。レベルだって38にもなっているんだ。恐らく比例して向上したのだろう。

 俺は足元に落ちている小石を拾って、全力で握り込んでみると、まるで砂団子のように砕くことができた。


「うわぁ……」


 筋トレもしてないのに、何だかズルい感じだなこりゃ。


 でもこれならたとえドラゴンが出ても逃げきるくらいはできそうだ。

 何となく得した気分で、俺は真っ直ぐ家へと全力疾走していく。

 本来なら歩いてニ十分ほどかかる道程を、僅か三分弱で俺が住んでいるアパートに到着してしまった。


 すぐに二階の一番端にある自分の部屋に入って鍵を閉める。

 一人暮らしなので当然誰もいない。

 俺はすぐさまテレビをつけてみたが……。


「テレビもダメかよ……!」


 少しくらい情報が得られればと思ったが、ネットもメディアも役に立たないらしい。


「……しょうがねえか。じゃあとりあえず実家に電話を」


 実家があるのは京都だ。そこでは両親と妹が一緒にくらしているはず。


「って、そうだった。電話も通じないんだよな」


 電波そのものがダメになっているから。


「はあぁぁぁ~。現代文明の偉大さと便利さを痛感してるわぁ」


 こうなった以上、実際に京都に出向くくらいしか安否を確かめる術はない。

 俺は電気とガスなどが通っていることを確かめてみる。


「水道は大丈夫か。ガスは……ダメ。電気は…………はぁ」


 電気もまた利用できなくなっている。これじゃ生活していくだけでも非常に困難だ。

 外でもいろいろ騒ぎがあったが、あれはライフラインが一部ストップしてしまった件も関係あるだろう。


 それに今も至る所でサイレンがこだましている。大忙しのようだ。

 とにかく今は確認できるところからしていこう。

 食料はまだある。今すぐ動く必要はないだろう。

 なら……。


「このステータスについて……だよな」


 もちろんコレがあったお陰で、俺は助かったわけだ。

 だからこそ今後も必要になると判断し、まずはステータスを詳しく知ることにした。


 本当は幾つかショッピングモールにいた時に調べたかったが、とりあえず落ち着いてからにしようと思い先延ばしにしていた。

 俺はまず一つずつ気になる項目を確かめていく。


「まずは体力はそのままの意味だろうから別にいい」


 とはいうが試しに指で押してみると、体力の説明が書かれた画面が浮き上がるが、本当に俺の理解と相違なかった。

 次に気力を押してみる。


「気力は……なるほどね。スキルを使う時に使用するためのエネルギーか」


 俺の場合、この気力に関しては気をつけておかなければならない。知らずにスキルを使い過ぎたら、意識を失うこともあるそうだから。


「次に筋力は……別にいいし耐久性もRPGでいう防御力みたいなもんだな。そしてこれだ……特攻と特防」


 簡単にいうと、前者はスキルでの攻撃力や効果力で、後者は前者に対する防御力といったところ。


「けど何で俺の特攻は文字化けなんか……あ、そっか。確かに視るだけで相手を即死させられるんだもんな」


 いってみれば反則級の攻撃力である。つまり文字では表せられないほどの威力があるということ。

 次に敏捷だが、これも文字通り素早さのことらしい。全速力で走ってきたが、明らかにいつもの俺の走行スピードじゃなかったしな。


 運についても意味はそのままだが、こちらは日に変動するらしく、最大値は100。現在は70だがそこそこ運が良いといったところ。


「そしてこのジョブだ。……『死神』って物騒な職業だな。給料とかもらえんのかこれ?」


 冗談めいたことを言いながら指で押す。



 死神


 唯一無二のジョブ。その力は対象を死滅させることに特化しており、万物から怖れられる存在である。いまだ不明な部分の多いジョブであるが、非常に稀少な〝神型ゴッドタイプ〟の一つ。ただ負のエネルギーをその身に受けやすく、完全に感情を殺してしまう危険性もある。





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