第2話 ダンジョン世界

「うわ、マジで出たぞ……!」


 半ば半信半疑ではあったが、とにかく情報を確認できそうなので安堵する。


 にしてもこのレベルは正しいのか?


 38レベルなんてかなり高いのではないだろうか。レトロゲームだったら、ほぼほぼ最終局面で達するような高みだと思う。こういう場合は、普通初期レベルからスタートするものではなかろうか。


 それにまだ疑問がある。

 レベルアップを示す画面が表示されたものの、その原因となる行為をした覚えがないのだ。

 周囲の状況から察するに、仮に先程までいたドラゴンが俺の手によって死んだとすれば辻褄は合う。


 恐らく高レベルであろうドラゴンを倒したことによる経験値が入って、急激なレベルアップへと繋がったのだろう、と。

 だが思い返せば自分はドラゴンを見ていただけ。 確かに急に倒れたが、そのあとに俺も目の痛みで倒れてしまったのだ。

 だからドラゴンを討伐した記憶など一切無い。


「……どういうことだ?」


 何か説明できるものがあるかと思いステータスを観察してみた。


「この『称号』……『ドラゴンスレイヤー』? ってことはやっぱり……そうなのか?」


 何もなかったらこんな『称号』なんて手にできないはず。俺は今まで生きていてドラゴンなど倒した記憶なんてないのだから。まあゲームではあるが、それだったら魔王だって天使や神様だって倒しているから、ドラゴンよりも凄そうな存在なのに、それが『称号』にないのはおかしい。


 ならやはりどういった原理か分からないが、俺があのドラゴンを倒したのだろう。

 そしてどうやって倒したのか。鍵になるのは、この〝ジョブ〟と〝スキル〟という欄に刻まれた言葉だろう。


「『死神』…………《死眼しがん》?」


 ずいぶんと物騒な言葉だと感じつつ指先で文字にそっと触れた。

 直後に別枠として画面が新たに開かれる。



死眼


 瞳に宿る魔眼の一種。その中でも《死眼》は固有能力として覚醒したユニークスキルである。その能力は非常に強力であり、対象物を一定期間視認するだけで即死させることが可能。性能には段階が存在し、最初は《ステージⅠ》として、使い続けることで性能が上昇していく。




「…………強力過ぎやしないか、この能力。てかマジで視線だけで殺せる能力を手にしたし……」


 しかしこれが事実であるならば、ドラゴンを倒したのがオレだということにも信憑性が増す。

 能力を使った覚えはないが、何かしらの弾みで発動した可能性が高い。


 そうしてこの《死眼》によってドラゴンは息絶えた。

 レベルが1だったオレは、大量の経験値を獲得して異常なレベリングに成功したと。


「そういう、ことなんだろうな」


 あくまで推測でしかないが、それしか的を射ている解答が思いつかない。

 それに気になるのは、ドラゴンを見ていた時に浮かんでいたゲージだ。恐らくはあれが何かしら関係しているはず。


「この《ステージⅠ》ていうのは……」


 文字を押してみると、また新たに画面が開き説明が為される。



死眼:ステージⅠ【死線しせん】 気力消費 300


 対象を視認し力を発現すると対象の頭上に〝死滅ゲージ〟が出現する。対象を視認し続けることにより、この〝死滅ゲージ〟は減っていく。そしてゲージが尽きたその時が、対象の死滅を意味する。〝死滅ゲージ〟は対象の強さによって異なり、対象が格上であればあるほど減りの速度が遅くなる。また視線を切ると、《ステージⅠ》ではリセット扱いとなり、ゲージは回復してしまう。対象は一度に対し一つの存在のみ有効。気力が足りずに行使してしまうと、激しい痛みと熱が伴い下手をすれば意識を失う。



 この説明のお蔭で凡そは解明することができた。


「そうか。オレが見てたドラゴンの赤いゲージ。アレが〝死滅ゲージ〟ってやつだったのか」


 確かに見続けていると徐々に減っていくところを確認していた。

 そのゲージがゼロに尽き、ドラゴンは絶命したのである。

 ということは、だ。


「ふぅ……目を逸らさなくてマジで助かったってわけだ」


 恐怖で固まってただけということもあるが、もし目を閉じていたとしたら、今頃はドラゴンの腹の中か、あるいは焼け死んでいたかもしれない。

 まさに九死に一生を得たようである。

 完全に偶然が重なった僥倖ではあるが、オレに宿ったこの反則じみた能力に感謝をした。


「今は痛みも引いてるし熱もないけど、よくもまあこんな大物を仕留めて無事だったもんだよなぁ」


 気力が〝0〟になっているのは、【死線】の気力消費量が現存していた分をうわ待っていたからだろう。説明がある通りに、痛みと熱を感じたのはそういうことだ。


 にしても300も消費するんだね……。


 現状、気力がフル状態で使用してもたった三回しか連続で使えない。

 まあ絶大過ぎる効果の対価としては安いのかもしれないが。


「でもとりあえず今日は――」


 そのまま仰向けに倒れて、少し前とはうって変わって静まり返ったショッピングモール内で俺は声を上げる。


「生きてて良かったぁぁ……」


 これがオレ――鈴町太羽が経験した、激動のダンジョン攻略の始まりだった。







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