第34話 二人だけの時間

「嫌いになったよね」

 恐る恐る切り出すスズ。目はうるみ、頬に赤みが差している。

 浴衣もあいまって、いつもとは違うおもむきがあった。

 だが、ユウは普段と変わらない。

「ちょっと、すごかったよな」

「え?」

「手品」

「本気で言ってる?」

「なんで、ウソつく必要があるんだよ」

 手品では済まされないランタンの騒ぎがあったというのに、やはり、ユウは力を信じていない。

 それどころか、政府の指令についても気にしていないようだ。

 そばに居る理由は、今があるから。始まりは、ただのきっかけでしかないらしい。

 複雑な表情だったスズが、ぱぁっと明るい笑顔になる。

「ここから花火を見ればよかったかもね」

「さっき言ったろ、それ」

「そうだっけ」

 しばし、二人だけの時間を過ごした。


 唐突に、ユウが全く別の話題を振った。

「そういえばさ、あの『声』が聞こえなくなった」

「ランタンの仕業かも?」

 推測が合っているかどうかは分からない。

 それでも、結果や原因を何かに求めてしまうのが人間というもの。

 いつもと同じ少年の態度に、少女の表情は緩んでいた。

「そんな力なんて、ないと思うけどな」

「信じなくてもいいわ」

「ん?」

「今はまだ。ね」

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