第32話 少女たちの真実

「なんか、いい話になってるぞ」

 いつものように『声』に話しかけて、ユウに返事は返ってこない。

 少年には、状況の説明が全く聞こえなくなっていた。

 いつのまにか『声』は届かなくなっていたようだ。

 約束がある。誰かに話すわけにもいかず、ユウは口をつぐんだ。


 自転車を片付け、辺りは平穏を取り戻した。

「力は使えるか?」

「もう、使い切ってしまって」

 スズが告げると、タダシが厳しい顔を見せる。ならぶネオンとランタンを見据えた。

「その二人を連行する」

「待って!」

 今回の騒動を乗り切った功績こうせきは、ネオンにある。

 そう考えたらしいスズは、政府に引き渡す選択肢をえらべなかった。

「覚悟の上よ」

 金髪の少女には抵抗する意思がない。こがらな少女は、何も言うつもりがないようだ。

「そうか」

「特務権限を行使します」

 男のまえに、長い髪の少女が立ちはだかった。

 もっとも優先度が高い指令を、タダシは邪魔じゃますることができない。

「俺よりも上の立場を使う、ということか。しかし、いいのか?」

「いつかは言わないといけない。それが今、というだけです」

「え? 具体的にどういうことだよ」

 ユウの理解が追いつかず、でてくる言葉は要領をえない。何もわかっていなかった。

「私は、政府からの指令を受けて、ユウのそばに居るってこと」

 二人の処分を預かったスズは、みずからの立場を明かした。

 政府の指令でユウを見張っている。そのことを。

「アタシは、反政府の命令で、ユウを目覚めさせようとしてる」

 ネオンも告白した。とうぜん、ランタンも反政府の人間だということになる。

「なら、あとはそっちで話をまとめてくれ」

「おい! ユウ!」

 ダイマの制止を振り切り、人ごみにまぎれていくユウ。

 力を使い果たしたスズとネオンには、居場所を探ることができない。

 喧騒けんそうのなか、心の静寂が訪れた。

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