第31話 動かない心

 ランタンの力は強い。

 おまけに手加減もしない。

 自転車が宙を舞い、何かにぶつかる前にゆっくりと着地していく。

 ネオンの力だ。

 飛ばされた物を傷つけまいと力を使っている。だが、それには限界がある。

 力には個人差があり、使える時間も決まっているからだ。フードをぬいだ少女には、まだ余力がじゅうぶん残っている。

 スズは、叩きつけられた自転車を直していた。

 無力さにさいなまれ、眉に力をいれる。

 近づけば空気を操作される。おまけに隙がない。金属製の定規があっても、腕を縛ることができない。

「何も、なにもできないの?」

「話も聞いてくれないし」

 スズとネオンは苦戦していた。圧倒的な力の前に。上空の破裂音がむなしく聞こえる。

「お前たちに覚醒させるのはムリだ。まかせろ」

 華奢きゃしゃな少女が、二人にはとんでもない化け物に見えた。

「危ないからそろそろやめとけ」

 ユウは何も把握していない。そろそろ手品をやめさせようと思っていた。

「こんなの、どうすればいいんだよ」

 力のないダイマは、はなから足手まといでしかない。


「力技では何も解決しないぞ」

 聞き覚えのある声。タダシが現れ、戦いながらランタンを説得しはじめた。

 浴衣ではない。普段着なので軽やかな動きだ。

 能力の範囲を見極め、紙一重で攻撃をかわしている。しかし、こぶしや蹴りは少女にとどかない。

「お前が言うな」

 と、誰かが言った。

「このままでは、指令は永遠に達成できなくなる」

 ともあれ、タダシが言っているとおり、ユウは全く力を信じていない。

 いくら空気を操ったところで、心を動かすことはできない。それは事実だ。

「今は何をやっても無駄よ」

「もっと時間をかけないとね」

「そうだそうだ」

 スズとネオン。ダイマも加わって、必死の説得が続く。そして、動かされる心。

「軽く、試してもいいか?」

「いいぞ」

 ユウに対してランタンの力が使われる。そして、何の変化もなかった。

 小柄な少女は、状況を理解したようだ。その場に座り、うつむく。

「帰るところ、なくなっちゃった」

 泣き出したランタンを、ネオンが抱きしめた。

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