第29話 お手玉

「あれ? トイレか?」

 飲み物を持つダイマの前に、知り合いは誰もいない。

 予想していたらしく、少年に落胆の色はなかった。

 いつもと同じく、ひょうひょうとした雰囲気のまま、ダイマが歩き出す。


「これよりもすごいことができるはず。目覚めろ。早く」

 花火のはじける音よりも注目されてはいない。

 辺りで、わずかに歓声が上がる。

 細腕の動きに合わせて、駐輪場から大きな物体が宙を移動する。

 小柄な少女が、手で触れずに自転車を持ち上げていた。

 ひとつ。ふたつ。

 お手玉をするように動いて、歓声がすこし大きくなる。

 身体からだの周りの空気抵抗くうきていこうを強くできるランタン。ある程度離れた場所を、身体からだの延長線上として、打撃その他に使うことができる。

 もちろん、君はそれを信じていない。

「今度は、お前の番だ」

「って言われても困るぞ」

 そこへやってきたスズとネオン。浴衣は乱れていないものの、息を切らせていることが分かる。

「ごめん! 遅くなった」

「これは、ヤバそうだよねぇ。知ってるけど」

 ぼそりとつぶやいた最後の言葉は、周りに聞こえていない。

 どうやら、スズはランタンの能力を知っているらしい。少しばつが悪そうにしている。

「すごい手品だよな」

 居場所を当てられることに慣れているユウは、のんきに言った。

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