第14話 なごやかな食卓

 鼻歌まじりで料理をする少女。

 少年は、すこしだけ手伝う。

 もちろん、おもに片付けの担当だ。

 鶏肉と野菜の香りがただよっているなか、君は伸びをする。

「身体が、だるい」

「大丈夫?」

 ひどく心配した様子で、スズが詰め寄ってきた。

 すこし手をのばせば、つややかな黒髪に触れることができる距離。

「別にそんなんじゃなくて、大丈夫だって」

 ただの幼馴染だ。きっと弟のように思っているだけ。気があるわけない。そんなはずはない。

 と、自分に言い聞かせることで、気を静めることに成功する。

「ならいいけど」

「それより、料理」

「あっ。もうおしまいだから、平気」

 さわやかな笑顔を前に、君ははにかんだ。

「はにかむって、どういう意味だ?」

「また『声』ね? 恥ずかしがってる、ってこと。私が?」

「いやいや。そうじゃなくて」

 やたらと複雑な表情で、君は皿を取り出す。

 料理がテーブルに運ばれ、エプロンが畳まれた。


「いただきます」

 いつものように夕食が始まる。

 きのこのスープを飲み、落ち着いた時間が流れていく。

「……」

 君は、何も言わなかった。

 うれいを帯びた瞳を見ながら、相手が話すのを待っている。

 やわらかな笑顔を向けられ、照れ笑いが返された。

 ひどく穏やかなときが過ぎる。

「ごちそうさま」

 今日は、力についての話はなかった。

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