第13話 不穏な問答

 夕食にはまだ早い時間。

 路地裏にある小さな本屋。

 そこには、辺りを警戒するユウがいた。インクの香りがただようなか、振り返る。

 珍しく誰も来ない。

 ふう。

 息をはき出して、小説を吟味ぎんみし始める。

 ただ、何者かが様子を見ていることに、君は気づけなかった。

「マジか」


 薄汚れた部屋で繰り返される、問答もんどう

「すぐに動くべきだ」

「いや、様子を見るべきです」

「ワタシたちは、彼の力を知らなすぎる」

 三人のあいだで“彼”の処遇について意見が割れている。

 若干じゃっかんの差で、一時的な結論が出た。

 まだ動くときではない。

「彼女以上の力を持つ者がいるとは、にわかには信じられんが」

 みな、フード姿の人物を思い浮かべている。

「アスフィクシエイションなど、伝説の力の前では無力です」

「やけに肩入れするのだな」

 凄みのある老人が、ひげを触った。とたんに、場の空気が引き締まる。

「これは、歴史が語る真実にほかなりません。戦争の始まりも、伝説の力によるもの」

「千年に一度の大変革だな。確かに、事実だ」

「世界を変えたのは、他人への嫉妬心に支配された女王と言われているが、はたして」

 不真面目そうな男が含みをもたせた。

 力に懐疑的かいぎてきな者がいる以上、慎重にならざるを得ない。

 いや、すこし違う。

 力を信じていても同じだ。強すぎる力をたりにした者は、やはり引くしかない。

「政府の連中は一枚岩ではない。まだ隙はある」

 頭の固そうな男が言った。

 しかし、反政府も一枚岩でないことは、言うまでもない。

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